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第12回 特別編 レコード、CD、デジタル配信の変遷 【後編】

前回の【中編】では、レコードからCD、デジタル配信にいたる、音楽を聴く媒体ばいたい変遷へんせんについて、整理しながら語ってみました。

結びとなる今回は、インターネットが普及したことによる音楽産業への影響、というテーマを中心に語ってみたいと思います。


インターネットが家庭に普及し始めたのは1995年頃ですが、それからおよそ12年後の2007年頃から、インターネット上に無料で動画が投稿できるサイト、いわゆる『動画サイト』が、数多く登場するようになって来ました。

有名な所では、ニコニコ動画とYouTubeが双璧ですが、大小のサイトを合わせると、世界中に驚くほどの数の動画サイトがあり、一般の人が自分で撮影した動画などを投稿して、全世界に公開する、という新たな表現の場として定着しています。

動画サイトの多くは、動画に仕立てる形で、音楽も投稿できるようになっています。

私もよく、YouTubeで公開されている新旧の音楽を聴くためにサイトを利用しています。

ただし、動画サイトで聴ける音楽の多くは、著作権者から許可をとらずに、一般の人が勝手にアップロードした違法なものです。


どうして、違法にアップロードされた音楽や動画が、削除されずに視聴できる状態になっているのかというと、YouTubeでは、コンピューターによる自動判別機能(コンテンツID)を用いて、違法な動画とそうでない動画を識別しているのですが、違法な動画に関しては、著作権者に『削除する』か『削除せずに動画に広告を掲載して、試聴回数に応じた広告収入を受け取るか』の選択肢を提示しているのだそうです。

著作権者が削除を求めない代わりに広告収入を受け取る選択をするケースも多いようで、その結果、違法動画が半合法的に削除されないという状態が生まれる事になっています。


もちろん、日々投稿される動画の中には、違法動画が膨大にあり、それらすべてをコンピューターで判別するのは不可能でもあるので、YouTubeの審査をすり抜けて、または著作権者からも見つからずに、公開されたままになっている違法動画も相当数あると思われます。


実際のところ、世界中から投稿される違法動画を見つけるたびに、動画をアップロードした当人を相手取って裁判を起こすのは、著作権者にとっても手間と時間が掛かり過ぎるので(著作権の侵害は親告罪しんこくざい、つまり、著作権者が相手を訴えない限り、罪には問われない事が多いのです)、先ほど言ったように、『削除』か『著作権者への広告収入』かの選択が行われるだけで、動画をアップロードした当人への法的なおとがめは無し、というケースになる事がほとんどのようです。それが、YouTubeで違法アップロードが後を絶たない理由でもあります。(これはあくまでも動画サイト最大手のYouTubeの現状で、他の動画サイトの違法動画への取り組みは、それぞれのサイトによってその仕組みや精度が異なると思われます。)


私も、市販の創作物がタダで楽しめる事に、若干のうしろめたさを感じながらも、根本的な責任は違法アップロードをする人と、それを利用して儲けている動画サイトにあるという理屈を盾に、便利さに甘えて楽しんでしまっています。


しかし、こういう動画サイトの台頭がもたらした映像や音楽などの無料化が、それらの製作にまつわる業界におよぼしている悪影響は、計り知れないものがあると想像できます。


特に音楽に関して言うと、興味を持った音楽が、動画サイトで好きな時にタダで聴けるならば、それをお金を出してまで正規に購入しようとは思わない、という人が増えて来る、ということが、実際問題として生じているのではないかと思います。(音楽ソフトの販売総数が二十年前の半分以下に落ち込んでいるにもかかわらず、音楽配信のシェアや販売総数は小規模のまま伸びていないという事から来る推察です。)


今は、ケータイやスマホでもインターネットが見られるので、動画サイトを利用する人は実質的に、あらゆる音楽がどこでも無料で聴き放題の状態になっている、という事です。若い世代の人たちの中には、「音楽は好きでよく聴くけど、お金を払って音楽を入手したことは今まで一度もない。」という人もいるのではないでしょうか。


これは、そういう便利なサイトがある以上、そうなって当然の流れではありますが、一方で、文化の保護という観点から考えると、これは決して望ましい状態ではない、という事も明白です。

試しに、再生回数に応じた広告収入がどのくらいあるのかを、違法ではないオリジナルの動画で収益を得ている人の例で調べたところ、一本の動画が35万回再生されて、収益は1万円との事でした。

よほど人気の動画でない限り、35万回も再生される事はまずありませんから、(たとえ違法アップロードの動画への広告収入の分配率が合法な動画より高く設定されていたとしても)動画で得られる広告収入と、公式なソフトの販売で得られる収入は、比べ物にならない程の差があると思われます。


なぜ、音楽業界が一丸となって動画サイトを訴えたり、各国の政府に根本的な解決のための法整備を要請したりすることなく、この状態を受け入れ続けているのか、はなはだ疑問なのですが、少なくとも、動画サイトが現在の音楽業界の衰退の最大の要因となっていることは間違いないと思います。


しかし、ミュージシャンにとって、動画サイトが発展した事による利点が大きい、というのも確かです。

特に、知名度の低いミュージシャンが、自分の才能を世界に紹介して行く場所として、動画サイトを情報発信のツールに用いる事は、そこから注目されてメジャーになって行ったミュージシャンが世界中に存在する事から見ても、その有効性が証明されていると言えます。


要は、いかにして文化の維持発展に貢献しつつ、その問題点を克服して行くか、ということだろうと思います。

もし、文化を保護するために、違法アップロードがより積極的に取り締まられるのであれば、私は残念だけれどもそれを歓迎しますし、いずれは、国際法という形で、世界につながるネットならではのルールが円滑に機能するように定められるべきだとも思っています。


無償である事を享受きょうじゅする、という事は、文化を育てる事を放棄する事にもなりかねないので、特に音楽好きな方には、それを頭の片隅に置いて、現在の動画サイトのあり方を考えてもらえるといいな、と思います。


さて、三回にわたってお話しして来た、『特別編 レコード、CD、デジタル配信の変遷』を、これで結びとさせて頂きます。

歴史や技術に詳しくない方にも分かるように、それでいて、きちんと要点や問題点の本質が伝わるように、心がけながら書いて来たつもりですが、お読み下さった方の印象としては、いかがだったでしょうか?

少しでも興味を持てるところがあり、音楽を楽しむための一助を提供できたようであれば、一生けんめい書いた甲斐があります。

改めまして、長くなりましたが、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。


次回から、いよいよロックミュージシャンの紹介コラムに戻りたいと思います。

ハードロック全盛時代の幕開けである、1970年頃から、話を始める予定です。



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