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第10回 特別編 レコード、CD、デジタル配信の変遷 【前編】

いつもこのコラムを読んで下さっている方、ありがとうございます。

今回初めて読むという方、どうぞおくつろぎの上、ごゆっくりお楽しみ下さい。

今回は、区切りの第10回という事で、ミュージシャンの紹介は一休みさせて頂いて、代わりに、音楽を家庭で楽しむための媒体ばいたい変遷へんせん、すなわち、レコード、CD、デジタル配信などについて、日ごろ感じている事、また、現在の音楽産業の状況についても、思うところを語ってみようと思います。


私たちは、ラジオ、テレビ、再生機器、パソコンといった、音楽を聴くためのツールが、身の回りにたくさんあって、音楽を収録した媒体も、先に挙げたいくつかの選択肢を持っている世代ですが、レコードが一般に普及し始める1910年代以前は、ラジオもなかったので、音楽を聴きたくなったら、自分たちで歌ったり演奏したりするか、生演奏を聴きに行くしかないという状況でした。

つまり、今から百年前以前のプロの音楽家たちは、媒体に記録した音楽その物を売るという手段がなかったので、王族や貴族といった金持ちに雇われたり、報酬をもらって作曲したり、音楽の家庭教師をしたり、音楽会を開いたり、自作曲の楽譜を売ったりする事で、生計を立てるしかなかったのです。


バッハもモーツアルトもベートーベンも、みんなこれらの内のいずれかの手段によって収入を得ていました。

聴く側の都合で考えると、特に、庶民にとって、自分たちで奏でたり、辻楽師が奏でる音楽を聴いたり、ドサ回りの劇団の小歌劇やお付きのミュージシャンによる背景演奏を聴きに行ったりする以外の、プロフェッショナルな音楽を聴くという機会は、金銭的にも開催頻度の点でも限られたでしょうから、一回一回が胸躍る一つの大きなイベントになったのではないかと想像できます。


そんな中、1877年に、最初の録音技術である「円筒式蓄音機」が、トーマス・エジソンによって発明されます。この蓄音機は、性能が著しく低く、実用化には不向きでしたが、十年後エミール・ベルリナーによって「円盤式蓄音機(レコードの原型)」が発明されたことで、徐々に品質を高めながら一般に実用化されて行き、1920年代に入ると、録音技術が音の振動を機械で原盤に刻むアコースティック録音から、より簡易なマイクロフォンによる電気録音に進歩したことで、飛躍的に音質が向上し、音楽家も新たな収入源として積極的にレコードへの録音を行なうようになったので、販売される音楽のジャンルも一挙に豊富になって行きました。

富裕層の楽しみだったクラシックから、庶民が親しんでいた民謡、ブルース、ジャズといった大衆音楽まで、身分や貧富の分け隔てなく(レコードが買えないほど貧しい人はレコードとプレイヤーを持っている友人、知人、隣人の家にお邪魔して)、楽しむことができるようになったのです。


レコードが一般的になって間もなく、ラジオ放送も普及し始めたので、今度はレコードを買えない人も、有名な曲や新しい音楽を、家庭でもっと安価に簡単に楽しむ事ができるようになりました。


レコードとラジオが世界的に普及したことにより、それまでは地域限定の知名度に甘んじていた音楽家たちが、より広い聴衆に自分の音楽を届け、その知名度を高める事ができるようにもなりました。

クラシックでは、アルフレッド・コルトー(ピアノ)、ジャック・ティボー(バイオリン)、パブロ・カザルス(チェロ)。ブルースではベッシー・スミス(ボーカル)、ジャズではルイ・アームストロング(トランペット)などが、その頃のレコードやラジオの花形として人気を博しました。


彼らのたぐいまれな音楽性に感化されて、世界中の音楽家がより一層技術を磨き、切磋琢磨を行なうことで、音楽家の総人口の増加と演奏水準の高度化という、音楽ファンにとっては嬉しい傾向も、音楽業界全体に生まれる事になりました。


レコードで面白いのは、初期のレコード盤であるSP盤の方が、より安価で普及したLP盤よりも音が良い場合がある、という事です。

SP盤は重く硬質で割れやすいという欠点と引き換えに、音の芯がしっかりした録音ができるという利点がありました。ただし、高価な再生機器でなければ、その実力を再現することが困難というのが難点で、近年まではSP盤はLP盤よりも音が悪いと評する人も多かったのです。

デジタル技術が進歩して、レコードの録音をデジタル音源として高度に抽出できるようになった現在、SP盤の音の良さを再評価する人も増えて来ました。


LP盤(塩化ビニール製の軽くて割れにくい、安価な盤)は、1940年代初頭に普及が始まりました。

LP盤の特徴は、従来のSP盤が片面のみ3分~5分の録音しかできなかったのに対して、片面30分、両面で60分という長時間録音が可能になった、という点です。

LP盤が登場するまでは、長いクラシック曲などはSP盤に分割して収録されて、写真のアルバムのような帳面に収納される形で販売されたので(これが現在の、複数曲を収録した盤を指す音楽用語の『アルバム』の語源)、その総重量に辟易へきえきするという事になりましたが、LP盤が登場した途端、いきなり軽い盤一枚で60分も収録できるようになったのですから、持ち運びの観点からも、聴く時の手間の観点からも、収納スペースの観点からも、画期的に便利になったと言えます。

一方、音楽家の側からこのレコードの進歩を見ると、特に、曲の長さを気にせずに録音できるようになったという点が、非常に重要なメリットを生み出します。

この利点の恩恵を最も受けたのは、アドリブ演奏が主体のジャズの演奏家とそのファンです。

SP盤の時代には、どんなに即興演奏に秀でた演奏家でも、一曲の中でその腕前を披露するスペースは数十秒程度と限られていたので、聴き手としては時に物足りなさを感じる事もあったのですが、LPの時代に入ると、演奏家は複数のアドリブ奏者の中でも十分に余裕のあるスペースを与えられて演奏できたので、その至芸を、聴き手も思う存分堪能する事ができるようになった、というわけです。


ちょっと文章が長くなって来たので、LP時代以降にまつわる話は次回、行ないたいと思います。

ロックバンドの紹介コラムは、第12回までお待ち下さい。



【中編】に続く






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