理由
私は今、何故か車に乗っている。
手を掴まれその勢いで抱えられて教室の窓から校庭に飛び降りる瞬間までしか記憶にない・・・。
気がついたら車の中だった。
ボケッとしていると後ろから声が聞こえた。
「おはよう!目が覚めた?」女の子の声だ。後ろの座席を見ると金髪の男の子と教室でフードを被っていた女の子らしき子が二人乗っていた。
「三階から飛び降りるくらいで気絶すんなよ。びっくりすんだろ。」
「いやいや、三階から飛び降りるようなこと普通に暮らしてたらなかなか無いよ!?普通の反応だよ。」 男の子が本当にビックリした様子で話すと女の子がすかさずツッコミを入れる。
私は少し緊張してそのやり取りを見ていたら、女の子があっと声を上げ自己紹介を始めた。
「まだ自己紹介していなかったね!私は三神摩耶だよ!よろしくね。えーっと・・・。」「あ・・・結城理也です。」私はつられて自己紹介した。
「よろしく〜!あとこっちのいかにも不良っぽい人はねー、進堂瑛くんだよ。で!理也ちゃんの隣にいるのがリーダーの・・・」
そこまで言うと私の隣にいたあの冷たい目をした人が三神さんの言葉を引き継ぎ自己紹介した。
「鷹村紫だ。・・・さっきは悪かった。」
表情とは裏腹にとても申し訳なさそうな声に少し驚きながらやはり悪い人ではないのだなと確信した。
進堂さんも気絶した私のことを気にしていてくれたみたいだし。
悪い人たちではないのかな・・・?
「あの・・・あなた達はなんで私を連れてきたのですか?」
いつの間にか怖くなくなっていた私はそんな疑問が自然と言葉になった。
***
彼らは国軍の【BLACK CROW】という部隊のメンバーだという。
通称『烏』
烏は、人に寄生し人を襲い寄生された人をも殺す人類の敵である影鬼と唯一戦える特殊な能力を持った部隊。
烏のメンバーは預言者と呼ばれる巫女によって選出され軍が総力をあげて探し出し同じ烏がが迎えに行き確認する。
そして私は選出され烏のリーダーである鷹村さんと三神さん、進堂さんが迎えに来たらしい。
「はぁ。あれ・・・でも確認って何を確認するんですか?」かなり壮大な話に圧倒されつつわざわざ鷹村さんたち烏が来ることでもないんじゃないかと疑問に思った。
「あぁ、軍のおっさんたちと協力したら大勢の前で拉致らなくても良かったんじゃないかって?」私の思ったことを言ってのけた進堂さんは悪戯な笑みを浮かべている。
驚きに後ろを振り返り目を見開いていると、鷹村さんが眉根を寄せ進堂さんを嗜める視線を送った。
進堂さんは肩をすくめたが悪戯な笑みは貼り付けたまま鷹村さんを見た。
「俺達烏は能力が覚醒する前に大体が預言で見つかる。だけど普通の人間には烏なのか確認する術がないんだ。」
「そうそう!でもね、覚醒した能力者は同じ能力者がわかるんだよ。」鷹村さんと三神さんが交互に教えてくれた。
「まぁーなんだ!派手に拉致って来たのは軍の方針だ。烏になるか死ぬか・・・。」
思うことがあるのか切なく言い放った進堂さん。私は振り返ることができなかった。
「軍も必死なんだ。影鬼に沢山の人が殺されている。あいつらをどうにかできるのなら・・・誰に恨まれても構わないんじゃないか?」
自嘲的に呟いた鷹村さんの言葉は棘で溢れているようで暖かかった。
俺達をのせた車は静かに街を抜け軍事施設へと入っていく。
事情を説明し終えてからはみんな静かに外を眺めていた。
理也はこれからのことや両親に会えるのか等は全く聞いてこなかった。
11歳にしてはとても落ち着いていて不思議な少女だと横目に見ながら思っていた。
どこか他人事のような雰囲気さえも感じる危うい少女。