始まりは突然に
先生が黒板に文字を書く音と声以外の音がない静かな午後。
カツンカツン
5時間目が始まって10分が過ぎた頃、足音が聞こえた。
そして5年2組の教室のドアが開いた。
ガラガラ。静かな教室に響いたドアを開ける音にみんなの視線が教室の教壇側に向いた。
そこには黒いマントのようなものを纏い深くフードを被った3人の男女が入ってきていた。呆然とその三人を見つめていた先生が思い出したかのように大きな声を上げる。「な、何者だ!?出ていきなさい!」
黒いマントを纏った3人は先生の言葉が聞こえていないような様子で教室を見渡した。
私は怖いという感覚はなく、じっと3人を見つめていた。大人というには幼く見えたが自分よりも年上なのは間違いないだろう・・と思って見ていたら中央の男の人と不意に目があった。
「見つけた。」
目があった瞬間そう呟いて私の方に歩み寄ってきた彼の後ろを女の子と男の子が付いてきた。
3人は私の机の前で足を止める。危ないと思ったのか先生が3人を私から遠ざけようと、後ろの二人の肩に手をかけた瞬間男の子のほうが先生の鳩尾に拳をめり込ませた。
先生はその場に倒れ、教室は悲鳴を上げて逃げる生徒や恐怖のあまり身体を震わせて泣いている生徒などでパニック状態。
そんな中でも私の前から一歩も動かない3人。私は中央のとても冷たい目をしている男の人から目がそらせなくて固まっている。
「理也!何やってんの!逃げなきゃ!」ユキが叫びながら近づいてくる。
私は我に返りその場から逃げようとした。すると先生を殴った男の子がユキを羽交い締めにした。
その拍子に深く被られていたフードが取れ、目が痛むほどの金髪にカラフルなピン留めで前髪を上げている一見不良そうな男の子の顔が見えた。
「おっと〜!あの子は逃がせないな〜。」「やめて!放して!」ユキと男の子が言い合っている。
「ユキを放してください!」震える声でなんとか言うことができた。
「では、選べ。お前が俺達と一緒に来てお前もその友達も生きるか、それとも・・・・・一緒に来ることを拒んで2人とも死ぬか。どちらか選べ。」
私の目の前にいる冷たい目をした男の人が2つの選択肢を出してきた。
ほんの一瞬2つめの選択肢を言う時、その冷たい目が・・・表情が苦く歪んだ事がわかった。
(もしかしたら・・・この人はそれほど悪い人ではないのかもしれない。)そんなことを思っているとユキの泣きそうな声が聞こえた。
「そんなの・・・どちらも理也がいなくなるんじゃない。」
俯くユキを見て、私はどうなっても構わないユキだけは・・ユキだけは私が守らなきゃ。そう硬く思いユキの方を見た。
「ユキ。私はユキが大切なんだ。友達になってくれてありがとう。」私の言葉を聞いてユキは勢いよく顔を上げた。「何言ってんの!?もう少し待ってたらきっと警察が来てくれるよ。私達助かるよ!だから・・ありがとうなんて言わないでよ・・・。」
多分どんなに待っても警察は来ないと確信していた。先生が殴られてすごい騒ぎだったにもかかわらず、他の先生も教室に入ってこない。
・・・明らかにおかしい。
私は目を伏せながらゆっくりと身体を正面に向けた。
「私は・・あなた達と一緒に行く。だからお願いユキを放して。」私の言葉を受けて冷たい目の男の人は金髪の男の子とまだフードを被っている女の子を見た。
「オーケー!摩耶お前後ろのドア閉めろよ。」
「わかった!瑛くん」
金髪の瑛という男の子の指示に従ってフードを被った女の子摩耶は後ろのドアを閉め鍵をかけた。
瑛はユキを教室の外に出しドアを閉め鍵をかけた。
ユキはドアを叩きながら私の名前を呼んでいる。
「じゃぁ、行くか。」冷たい目をした男の人が手を差し出し短く言った。
私は震える手でその手を掴んだ。
震える手で俺の手を掴んだ少女を俺は脇に抱えた。
「・・え?」
不安でいっぱいだという顔で俺を見てる少女を見て昔を思い出して少し面白かった。
窓の方を向いて「ここから出る。」と言ったら少女は真っ青になった。
「怖かったら目をぎゅって瞑っていてね?」摩耶が優しく声をかけると無言で頷いた。
わりと肝が座っている。
「じゃっ!先に行くぞっ!」少し楽しそうに瑛が窓から飛び降りた。続いて摩耶が降りて俺達だ。「行くぞ?」そう聞いたらまた無言で頷く。怖いだろうに目を瞑らず前だけ見てすごく強いなと、頭をできるだけ優しく撫でると目を見開いてビックリした顔をしたから、もう一度行くぞと言って飛び降りた。