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青い瞳のペンドルトン  作者: 若宮葉子
5/7

私と彼と酒場の主人4

「あのですね」

「……」

「一日一話のノルマ守るためとはいえ区切りが中途半端でしょう」

「……」

「まただんまりですか…」

「ゆ…許して欲しい、にゃん?」

(やだなにちょっときゅんとした)


そんなこんなの初投稿。

「失礼させてもらうよ。」

低く、良く通る声が店内の埃っぽい空気を震わせた。

誰かが来た。私はぱっと原稿から視線を上げて…入り口から差し込んだ日の光に目をくらませた。昼時のまぶしさは、薄暗がりに慣れた目にひどく沁みる。思わず涙が滲んでしまうほどだ。


霞む両目を右手の甲で乱暴に擦り、店の入り口を注視する。おぼろげに見える人影は、少なくとも私の知る誰とも一致しない。もっとよく確認しようと目を凝らしてみたが、ちょうど逆光になっていてそれ以上は何もわからない。


一体誰だろうか。はて、と首を傾げながらも、私は椅子から立ち上げり、その人影に向けて歩き出した。ひとまず彼の要件を聞くとしよう。それで客人の目当てが酒ならば、丁重にお引き取りを願うことになるし、酒場の主人が目的だというならば、今は留守だと伝え、更なる用向きを聞くことになるだろう。

何のご用でしょうか。主人に代わってお聞きしますよ。そう声を投げかけた。


「……おや。やはり主人は留守かね?]

どうやら、後者だったらしい。


ええ、ギルドの寄合に出ています。いつごろ帰るかは未定です。よろしければ、言伝、請け負いますが。

それを受けて、私はさらに返答した。


「いや、それには及ばない。少し旧交を温めにきただけであるからな。しかしあいつめ…大方またうっかりだな。まったく。昔からそこだけは変わらないものだ。」

彼はそうぼやきながら彼は後ろ手に店の戸を閉め、彼は店内に足を踏み入れる。差し込む光が遮られ、店内には元の薄暗がりが戻った。そして、私はようやく彼の姿を視認することができた。


彼は老人だった。上等なスーツを着込み、手の込んだ装飾がなされた堅木の杖を手にしている。立派に蓄えられた口髭と、すっかり色の抜け落ちた真っ白な髪。顔には深いしわが何本も刻まれていて。それらが、確かな高齢を如実に示していた。

しかし、私はその齢に伴うであろう弱弱しさ――老い、を彼から見出すことはできなった。


たとえば、上背。

私自身背の高い方だとは自負してはいるが、それでも彼と目を合わせるには少し顔を上げる必要があった。


たとえば、表情。

気楽さや、呑気さに、真っ向から絶縁状を叩きつけたような…自分は常に深い思いを抱いている、と言わんばかりの、厳めしい顔つき。私はそこに、「短刀」を連想した。


たとえば、姿勢。

腰は一本線が通ったようにまっすぐで、歩む足取りは、彼自身の心意気をも示すかのように、しっかりと力強い。杖を携えてはいるものの、彼がそれを頼りとする場面は、想像することができない。


そして何より、彼を老いから遠ざけているのは、その瞳だ。


その色は、秋晴れの空。雲一つない、澄み渡る空をそのまま切り取ったような、どこまでも透き通る青。

その深さは、夜明け前の海。さまざまな色合いを宿し、見た物の心を捕え、魅了し、心に様々な感情を掻き立てる。

その輝きは磨き抜かれた瑠璃。差し込んだ光を反射し、重々しい光を湛える。じっと見つめると、空に落ちていくような、自分の足元がひどく覚束ないような。そんな錯覚を抱かせる。

その眼光は奔る霹雷。鋭く、素早く、捉えた物の心の奥底まで、たちまちに射抜く。


一流の職人が作った硝子玉でも、彼の瞳と並べればくすんで見えるのだろう。

王のもつ宝玉でも、彼の瞳に勝る輝きを放つ物は一つとしてないだろう。

月の出ない、暗い夜の底でも、彼の瞳に宿る光を閉ざすことはできないだろう。

星々がその命の果ての光を見せたとしても、彼の瞳より煌めくことはないだろう。


私がこれまでに見た。これから先に見るであろう何物より、その明るさは尊いだろう。

――そう感じさせるほどに、美しい、青い瞳だった。

【次】明日

【用語解説】おやすみ。

【今日の一言】今度区切りが中途半端な話どうしを統合、上げ直しするかもです。

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