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青い瞳のペンドルトン  作者: 若宮葉子
4/7

私と彼と酒場の主人3

初投稿です。

ミスに気が付いたので上げ直しです。

改行、こっちの方が読みやすいのかな?詳しい人、感想で教えてください。

 店内に戻った私は入り口からまっすぐ進んだ店の奥にある帳場に向かう。

普段は酒瓶とグラスが所狭しと並べられるカウンターテーブルは、しかし今日は、束ねられた原稿用紙の山とインク壺、そして使い古したペンが占領していた。


 今日の店には主人もいない、客もいない。私の貸切だ。であれば、ここで原稿をしたとして果たして文句を言うものがいるだろうか?そう考え、昨日のうちに二階にある寝床から運び降ろしておいたのだ。


 私は普段店番に立つときのようにカウンターに入り、そこに置いてある背もたれの無い丸椅子に腰かける。そして、ろうそくに火をともし、ところどころ酒の染みができた天板に原稿用紙を広げれば、年季の入った帳場は、どこか趣のある文机に早変わり。


 なかなか雰囲気が出るじゃないか。ぽつり、と独り言が漏れた。薄暗い部屋で、古びた文机に向かい合うなんて、まるで自分が古豪の作家になったようだ。ほのかに香る酒精と古い木の匂いも、その雰囲気を後押しする。悪くない。思わず頬が緩む。


 これで後は満足のいく作品をかければ、言う事はないのだが…私は笑みを苦笑に転じさせて、原稿用紙にペンを走らせ始めた。


―――数時間後。


 明かりに使ったろうそくはすでに三本目。それも半ばほどまで燃えつきようとしていた。目にも疲労がたまり、ずっしりと重い肩こりに変じて私を苛み始めていた。そのくせ原稿ときたら、遅々として一向に進みはしない。どれほどの時間が経ったか…私がどれほど無駄な時間を過ごしたか、そう考えるだけで吐き気を覚える。


やっていられるか。そう毒づく。集中などとうに切れていた。

私は原稿用紙を脇に追いやり、カウンターに突っ伏す。薄汚れ、ところどころ染みのできた天板は、ひんやりと冷たく、火照った頬や額に心地よかった。


このまま、創作への情熱も一緒に冷めてしまえばいいのに。ふとそんな考えが脳裏をよぎる。


憧憬を捨て、夢を忘れ、無為に生きることは楽な事だろうか。この原稿を破り捨てればそんな生活がすぐにも手に入る。そう思うと、何とも魅力的な提案だと思えた。


…まあ、思うだけだが。揺れるろうそくの火をぼんやり眺めながら、私はつぶやいた。憧憬もない、夢もない、腐りゆくだけの生。そんな家畜の様な生き方など私が耐えられるはずが無い。これまで何百回と繰り返した自問自答だ。答えはとっくに定まっている。まったく難儀な物だ。結局のところ、私が幸せな結末に至るには、どれほどの苦難にあったとしてもただひたすらに創作を続けるしかないのだ。そう、いつもの結論にたどり着くと、気は重いものの、気概は湧いてくるのを感じた。


 むくり、と体を起こして、原稿用紙を広げなおす。どれ。日が沈むまでにはこいつを形にしてやろう。私は再びペンをとった。


 そのときだ、からからとベルがなり、店の扉が開いたのは。

【次】明日

【用語解説】デミヒューマン:人間に近い容姿を持ちながら人間とは明らかに違う身体的特徴を持つ種族の総称。古くは魔王の創造物、と呼ばれ迫害の対象であった。

【今日の一言】着々と増える閲覧数が嬉しい。

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