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緋碧ノ娘  作者: 桐夜 白
8/11

緋碧ノ娘 8



星が堕ちる。

連れてこられた城のバルコニーから、娘はぼんやりと国を見下ろす。


娘の深い悲しみは溢れ出し、“心を読む力”と共に持って生まれた“他人を操る力”にて、人の世に災厄を落とした。

ソノ力は大きく、人だけでなく生き物も、そして自然をも操り、海は荒れ、山は崩れ、山の口からは赤い涙が流れた。

もう人の声はほとんど聞こえない。

先程まで高いところから見下ろし、鼻で笑っていた人も、娘を押さえつけていた人も、もう動かなくなっていた。



緋碧ノ国は滅んだ…。



脳裏に過ぎる、優しかった(あのひと)の笑顔、驚く顔、ふざけあった時の顔。

いろんな表情を見せてくれて、いろんな表情を自分から引き出してくれた人。

そんな大好きな人の居なくなったコノ世界で、一人ぼっちになってしまった娘…。



今まで何故自分にだけこんな力があるのだろう、と悩んだこともあった。

どうして王子と触れるたび、話すたび不思議な記憶が過ぎるのだと悩んだこともあった。



星が堕ちる。

娘がぼんやりと、感情の無い眼差しで、赤い星が堕ちる街を見つめる。


──これ…


娘は想った。


──あぁ、そうか…


「いつも脳裏に過ぎった記憶、これだったんだ…」



祀られた剣を胸に抱くように手で握り締め、災厄に飲まれた国を見て、女神に問いかけるように口を開く。


「アカーナ神様…、私、コノ結果を止める為に生まれてきたのね…」


深い悲しみが心を重く沈ませる。

身体が酷く重たい。

もう何をするにも気力が沸かなくて。

灰の雪が降る中で、誰にも見られることなく、娘は天を仰いで涙を流した。


「知ってるわ、この光景…。

そういうことだったのね…」


剣を強く握り締め、娘は思い出す。

自分のことを、自分の母の想いを。

自分の存在を、自分が何者なのかを…。



──…温かい人。

私は貴方を助ける為に、ココに生まれてきたんだわ、コノ力を持って…。


娘が目を閉じて、涙を流す。


「コノ力で、私が出来ることを…」


娘の心に決意の想いが宿る。

剣を両手に抱え、手を伸ばし、天へと掲げて娘は言う。


「コノ力は御母様からの贈り物。

私はコノ力を使って、自分の成すべきことを成します。

もう何も恐れはしない。

そう、御母様に誓ったから…!」


娘がそう言い、一呼吸置いて歌を歌う。

滅び行く国で流れたソノ歌声は、何よりも美しかった。



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