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緋碧ノ娘 6
*
夜の湿った風が吹く。
娘が静かに心のままに想いを乗せた歌を歌う。
明日もまた、日が昇れば彼が来てくれる。
今日の不安も、一瞬感じた凍るような想いも嘘のように吹き飛ばしてくれる。
彼の笑顔で、声で、行動で…。
そう娘が心から想い、暗く松明の明りしかない祭壇の在る部屋で歌を捧ぐ。
ふと、娘の耳に草を踏む音が聞こえた。
「アムル…?」
娘が不思議そうに、そして驚いたというようにそう口にし、振り返る。
桜色の小さな唇から零れたのは、愛しい人の名だった。