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ミリオンガーター

 トリガーはふぅ、とため息をつく。そして潤みと、熱い情熱を乗せた眼差しを、男にむける。


「撃ちたいのよ。いいでしょう? ソード」

「あいっかわらずのぶっぱなし狂いだな。そうしたいがために死んでもいいようなクズ男を誘惑するのはやめろ、っていつも言ってんだろうが。まあ、なんだ。そんなこと言っても仕方がない気もするけどよ。だがな、トリガー、俺は論理的に話をしようと言ったはずだぜ?」

「くだらないわね。私は、今すぐに、この銃で、こいつの頭をぶち抜きたい。久々に出会った清々しいまでの馬鹿なんだもの。良心のかけらも痛まないわ」

「もともと良心なんてねーだろ。お前の場合……」


 ソードと呼ばれた男は、心底呆れたように嘆息し、肩をすくめる。

 だが、片時もトリガーのこめかみから銃を放そうとはしない。


「失礼ね」

 トリガーのその言を無視してソードは言った。


「まあ、こいつの頭と腐れチンポをぶち抜こうがお前の勝手ってやつだ。そこに文句はねぇ。だが、な。面倒は勘弁してもらいてぇのさ。今、お前がこのクズ男にぶっぱなしたら、俺はお前の頭に穴をあけなきゃならねぇ。正直、それは面倒だ。なぜなら、目撃者を消すためにこの店ごと潰さなけりゃならねぇからな」

 その物騒な言に、その光景を固唾をのんで見守っていた客達が一気に血の気を失くす。

「そんなにこの馬鹿を助けたいの?」

「いいや、別に。ぶっちゃけただ暴れたい。だからはやくそのクズ男を殺しちまえ」

「御択を並べて……だろうと思ったわ。でも、やめた。あたしまだ死にたくないもの」

「ちっ、この天の邪鬼め」

 苦々しくソードはつぶやいた。

 次の瞬間、トリガーは何気ない動作でシュバイツから銃を外し、ソードの服で涎まみれの銃身をぬぐうと、ジャケットの下に隠していたハーネスへとしまう。


「てめぇ……」


 ソードは額に青筋を浮かべたが、早くもミルクを飲み始めているトリガーの姿に嘆息し、自らも銃をしまった。

 店中の人間が回避された惨劇にほっと胸をなでおろした瞬間、

「て、てめぇら頭おかしいんじゃねぇのか!」

 シュバイツだった。彼が口から泡を飛ばして二人を罵った。

「ああ?」

 それに反応したのは、ソードだった。

 トリガーはため息をつく。

「てめぇ、今なんつったよ?」

 シュバイツの胸倉をつかみ、詰め寄る。


 その様子を見て、トリガーは、

「あーあ……せっかく助かった命を粗末にして……どうせならあたしに殺されなさいよ」

「狂ってる! てめぇら狂ってやがる!」

 シュバイツは怯えに体を震わせ、怒鳴る姿はまるでなにかを必死で否定しようとしているようだった。

「狂ってる? 俺が、この、俺が、狂ってるだぁ?」

 ソードはシュバイツをつかんでいるのとは逆の手を振りかざすと、迷いなく思いきり殴りつけた。

「クズ男がよく言うじゃねぇか。ああ?」

 顔の形がかわっても、もうすでにシュバイツの意識がなくなっていても。

 おかまいなしに殴り続ける。

 そのあまりの光景に誰もが動くことを忘れ、ただただ震えていた。

 しかし、その時誰かが気づいた。いや、気づいてしまった。

 そしてそれは呟きとなって世界に漏れる。


「お、おい。あいつらもしかして百万人殺し(ミリオンガーター)じゃないのか……?」


 その言葉が投げかけられた瞬間。

 トリガーは立ち上がると、その男に向かって引き金を引いた。

 乾いた音とともに、その頭がはじけ飛ぶ。

 酒場の客たちが口々に悲鳴を上げ、出口へと殺到した。

 しかし、いつの間にかそこにソードが立ちはだかっており、思わず動きを止めた客たちは背後からのトリガーの銃撃に、その命を散らしたのだった。

 そしてその銃撃を運よく避けて出口に到達した客たちもまた、ソードに殴られて顔を陥没させる。そこにソードの銃弾がぶち込まれ、一人残らず絶命した。


「ひぃっ……!」


 蒼白となり、悲鳴を上げたのは唯一生き残っていた店主だった。

 暴力の嵐が酒場を蹂躙する様を、何ができるでもなく涙を流しながら許しを請おうとし、その瞬間、トリガーが放った銃弾は店主の命を外すことなく奪ったのだった。

 

「あー……やれやれ、だな」

 惨劇の舞台となり、死体やら血液やらが散乱している店内に佇み、つまらなそうにソードが肩をすくめる。

「つまらない殺しになってしまったわ」

 むせ返るような血の匂いの中で、それを意にも返さずトリガーは深く嘆息した。

「もとはと言えばお前のせいだろーが」

「あら? あんたがあのなんだかってバカを殺そうとするからでしょ?」

「最初はお前だろうがっ! って、ああ、めんどくせぇ……。どうでもいいや。ここには同朋はいなかったしな」

「そうね」

 そういってトリガーはぐっと伸びをした。

 すると、豊満な胸がシャツをひっぱり、ボタンをぷちん、と飛ばした。

「なんでワンサイズ小さいシャツをいつも来てんだよ」

「そっちの方が釣りやすいからよ」

「あー、聞いた俺が悪かった。ぜんっぜん論理的じゃねぇ」

「あいかわらず頭の悪い口癖ね、それ」

「お前はあいかわらず性格わりぃな、クソが。まあいい、とっとと行くぞ」

「……母さんの手掛かりはつかめたの?」

「ああ、ここ最近、この街でかなりの頻度でエリザベートが発生してるらしい。ああ、そうだ、ちょうど今もクソ騎士団に一匹追われてんだった。急ぐぞトリガー」

「わかったわ」


 そして二人は、酒場の惨状もそのままに後にする。


「ん? そういやあのバカの死体が見当たらねぇが……まあいいか」


 ソードはそう最後に呟い屋のだった。

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