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ローテンションでも構うまい

作者: 須和光輝

 あれから何年経ったんだろう……とかいう疑問は意味がない。経った月日は自分の年齢分だから。




 何か知らんが、気付けばいきなり赤ん坊だった。驚いた。というか泣いた。昨日まで歴とした成人女性が、突如赤ん坊になってただなんてどんな冗談だよ。笑えない。おかげで泣いてばかりの乳幼児時代を過ごしたっつーの。何かもう生活全てが拷問のようだった。


 しかし泣いても喚いても現状が変化するでもなく、私はすくすくとそれはもう肉体的には健やかに成長した。精神的には捻くれましたが、何か?だって無理もないでしょう。精神は成人してる人間のものなのに、肉体は自分で自由に動く事も出来ない赤ちゃんなのだから。強制的に人生やり直し中とか何なのさ。


 しかも!前述した通り、以前の私は女だった。なのに今は下半身に分身を持つ性別、ようするに『男』。これで捻くれずにいられようか。女の時とは何もかもが違う事にどれだけ戸惑ったか。


 時間が経つ内、身体と心の折り合いは何とか付けた。人はそれを諦めとも言う。それがまあ大体幼稚園児くらいの頃だったと思う。世間的にはかなり可愛げのな……ゲフンゲフン、大人びた幼児だったんじゃなかろうか。周囲からは『大人の言う事をきく良い子』の名を欲しいままにしていたさ。精神的にはいい歳した大人がダダこねたり我が儘言ったり出来るかっつーの、恥ずかしい。

 今思っても、同じ年頃の子ども達と比べると随分なローテンションで過ごした幼児時代だ。省エネ省エネ、時代を先取りしたエコです。あの無駄に高いテンションに付き合えるほど、私は付き合いが良いわけじゃないから仕方ないのである。何より疲れるじゃないか。色々と。

 そうやってはしゃぎまくる子ども達を生温く見守りながら、私は日々を過ごしていた。


 あと、これはほんのちょっとの悪戯心からハーレムもどきを作ってみたりして。幼稚園時代に女の子を侍らせてました。って言っても女の子達とよく遊んでただけなんだけどね。だって小さい女の子って可愛いじゃない。たまに、えっ……この子男の子なの?て感じの子もいるけど。

 男の子とは滅多に遊ばなかったせいで、多くの男の子達からは『オマエおんななんじゃねえの?』とからかいの対象になってた。私の今の身体が、小さい頃はホントに女の子みたいだったっていうのもあるんだろうけど。成長した今でも女顔とよく言われたりするし。

 それに転生して数年しか経ってなくて、そう言われた所で中身は女だった記憶が濃くあるから特に腹も立たず。だからからかいをスルーする日々を過ごし、ハーレム生活を続けましたとも。


 で、どこにでも私が女の子達と遊んでるとちょっかい出してくる、所謂ガキ大将的なヤツ等がいるわけよ。こっちは腐っても大人なわけで、そいつ等のちょっかいはのらくらかわしてたんだけど、ある日そいつ等はとうとう手を出してきた。それも私じゃなく女の子に。

 『女の子には優しく』をモットーとして掲げる私はそれに激怒。日頃の省エネローテンションはどこ行った!とばかりに、女の子には優しくするもんじゃろがーっ!と『肉体言語でおはなし』しました。前の人生から通して、初めて拳で語った出来事だった。勝敗?もちろん私が勝ったさ。フェイントを混ぜつつ緩急のある攻撃で敵を翻弄しつつ、急所やなんかを一撃必殺!とばかりに攻めた。大人気ない?それが何。私は子供と言えど敵には容赦しない。それに私も身体は子供だったしね。力の差は大してないからいいのだ。


 ガキ大将共を沈めた私は、それから幼稚園の秩序として君臨することになりました。いい迷惑だったが一応『良い子』で通ってたので幼稚園内で喧嘩があれば仲裁し、泣いている子供がいれば泣き止ませ、何かこれって保育士さんの仕事じゃね?てな事をやってた。その所為なのか私が卒園する時、先生達がこぞって残念がっていた。


 仕事しろ、このやろう。





 そんな日々を過ごしていた私だが、ある日気がついた。ここってもしや前世で読んだことのあった漫画の世界なんじゃね?と。だって現在住んでる地域名が漫画で見かけたもので、前世で過ごしていた世界にはない独特な地名だったから。これはもう漫画の主要キャラを探すしかない!……と思うはずもなく、普通に生活して過ごした。一般家庭のお子様がうろ覚えな知識のまま探せるはずもないって。


 進学先も漫画の舞台である学校じゃなくて、全然別の所を選んだ。何故別の学校にしたか?いやー、何か知らない間に幼馴染みと同じ学校に行く事になってたんだよね。少しだけ漫画キャラに会ってみたい気もしたけど、どうしてもってわけじゃなかったし、まあいいかと。そもそも同じ年代かすらわからないのだ。


 あ、ちなみに幼馴染みは空手をやっている。彼の家が道場なのだ。私自身は空手をするつもりなんて全くなかったんだけど、この幼馴染みに付き合って多少やるようになってしまった。痛いのは好きじゃないんだけどなあ。最初の頃は断ってたんだけど、断ると無表情でひたすらじーーーっと見つめてくるんだよ、こいつ。根負けしました。なのでお遊び程度だけれど、幼馴染みとは割と組み手とかやっている。

 遊びなので、幼馴染みもそれなりに手加減してハンデも付けた上でたまに負けてくれる。負けてもらって悔しくないのかって思うかもしれないけどそれはない。だって私は、空手を幼なじみほど真剣にやってるわけじゃないし。ずっと負ける上に痛いだけじゃこっちはやる気なくすからね。無理矢理付き合わされたりもするけど、そういう細かい所で気を使ってくれるのは嫌いじゃない。





 そして高二の現在、ちょっと戸惑っている。幼馴染みの部屋にあった、県の強化合宿だかに行った時の集合写真。そこに見覚えのある顔をいくつか発見した。そう、あの漫画で見た主要キャラ達の顔だ。


 う・わ・あ、今がちょうど漫画が展開されてた時期なんだあ……。


 元の世界の記憶も十七年も経つとやっぱり薄くなる。懐かしさもあって食い入るように見てた。思い出さなくなって久しい元の世界を思って、少しだけ泣きたくなったのは秘密。

 でも漫画の世界では強化合宿とかやってなかったよなあ。

 まあ今はここが私にとっての現実だし、漫画で描かれてないことだってあるか。元々主要キャラ達に積極的に接触する気はないから、描かれていようがいまいがどうでもいいけど。


「悠?」


 おっと、ここには幼馴染みもいたんだった。感傷に浸っている場合じゃない。何故か知らないけれど、こいつは昔から私には過保護なのだ。そんなに頼りなく見えるのか?

 多少空手はやるが特に熱心に身体を鍛えているわけでもなく、身長もそんなに高いわけじゃないが、一応男なんだけど。がっつり鍛えてるこいつに比べたらやっぱり華奢だけどな。

 けどまあ過保護といっても構い倒すって感じじゃないから放っておいてる。元々が女だったから多少女扱いされても(重い物は俺が持つ、とか)まあ楽だしいいか、という感じで。


「それより代表候補選ばれたんだろ?お前」


 こくり、と頷くこいつは先日県の空手の高校生代表候補に選ばれた。小さい頃からの努力とか見てた私も自分の事のように、とまではいかないけれど嬉しい。


「頑張って代表取れよ、和樹」






 あの漫画が原作の恋愛ゲームが発売され、『椎崎 和樹』と『坂上 悠』がゲームオリジナルの新キャラとして登場していたのを、私は知らない。


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