見えすぎちゃうのって困ります
あくまでも微エロ、微エッチ爽やかなカルピスみたいな青春の一ページ的な何かを書いたというより書きたかったのです。
いわゆる空気がよめる人っていうのは、結構いると思う。気遣いすることができるのが、美徳とされるお国柄でもあるしね。
だけども私の場合は、ちょっと違うのよ。
どういうわけか、小さな頃から人が発する色が見えた。色は薄かったり濃かったり。色合いもシチュエーションで変化したりとそれはもうすごかった。
例えば、恋をしている女の子が好きな相手に会った時には、ほんのりとピンク。
これは、もう微笑ましいの一言につきる。もっと想いが強くなるにつれて色合いも濃くなっていくんだ。
ただ、怒っている人の感情の色というものは、どうにもこうにも……。
それでも綺麗だなと見とれるほどの色の主というのも、確かに存在している。
近所のヒーちゃんのは、私の見た色の中では一番といえた。
「ヒーちゃん、今日はキレイなオレンジなのね?」と幼い子供の戯言にキョトンとした顔をしながらも嬉しそうに微笑むヒーちゃんは、近所に住んでいる高校生だった。
近所の顔見知り程度の子供が突然妙なことを言い出しても笑顔で遊んでくれる気のいい高校生、それがヒーちゃん。
そして現在では、立派な女子高生になった私ではあるが、とてもそんな出来た人間になれないことを悟る。
幼稚園に入学する頃は、この見えすぎることによる弊害が生まれていた。人の感情を色で判断できてしまうという微妙な力。幼い子供は無邪気に見たままを口にする。
結果、トラブルが発生。様々な場所でいざこざを起こす私に困り果てた母の妙案。
それは暗示である。当時見ていたドラマか小説の影響であろう母のかけてくれた暗示なのでそれこそ微妙なものだったはずだが、これが単純な私には効果があった。
ものすごくあった。必要なアイテムさえあれば大丈夫なのだが、今は使えない。
「これでもう大丈夫」まさにマジックワード。マジックアイテム。
母のくれたそれはおもちゃのめがね。ただのフレームだけのそれは夜店で買ってもらったものだったが……効いた。年を経るにつれ、それはおもちゃではなくなり伊達メガネというのに進化をとげる。ふらつきながら登校していたので、ぶつけたり落としたりを繰り返した結果見事に今朝廃棄物となったけど。
だから、今は裸眼。視力は両方2.0と無駄によいため見たくないものまで見えてしまう。
保健室のベッドで休んでいた私はカーテンの隙間からそっと覗く。
普通の人の目であれば、学校一の美少女と保険医の図。美少女が切なく告白して保険医が困惑しているといったところなのだろう。
しかし、私の目には少々違う。久々に見たそれらに恐怖心で震えるしかない。
最初は、濃い目のピンクや赤といったものに少々の黒いものが混ざっていたそれは徐々に黒いものや茶色いものが混じってきてどんどんと汚いものに変化していく。
対する保険医の方はというと、最初から一貫して青っぽかった。徐々に色が濃くなっていっているのは当初から発していたクールな感情がより強くなっている証し。
嫌い?苦手意識それとも嫌悪感か。
逃げたかった、自分はこんなシーンに立会いたいわけもなく、全くの無関係だと思うのだ。
何故?どうして、と声を大にして言いたいのだが。諦める。
我が校の保健室は、ご近所の内科医院からの出向という形の医師が担当してくれている。午前中は医院での診察があるので、午後からしかいないが。
午前中の担当は、家庭科教師も務める養護教諭が担っているので大丈夫。保護者の方にも医師がいてくれるという安心されているし。
医院は、家族での経営なのだが手の空いている人間が担当ということになっているらしい。大先生と呼ばれている院長、若先生と呼ばれている医師とお姉さん先生と呼ばれている女医がかわりばんこにきてくれる。どの先生も優しくて人気があるのだが、最近良く来るのは、次男でタレ目が可愛いと評判の安藤聖先生だった。私が幼い頃ヒーちゃんと呼んでいたのは彼である。
いつだってキラキラした綺麗で優しげな色合いを発していた彼の周囲が今は見ているだけで涼しくなる寒色系。恐い、本気で怖かった。でも怒っている時でも彼のは綺麗。
暗示さえ聞いていれば、この二人の色は見えない。だから険悪な雰囲気を感じ取りはしてもここまでの恐怖感は感じずにいられるはずだった。
ああ、こんなに怒っているのは久しぶり。 校内で一番を誇る美少女の顔も、今では怒りのあまり般若のようだ。うん怖過ぎる。近寄れん。
ベッドの周りはカーテンで囲んでいるので、こちらの顔が見えないのは助かった。隙間から覗いていると、保険医の顔がどことなく悪戯好きの悪ガキみたいな表情になった。
すでに、逃げ出す気力も体力もない私の方をみて薄らと笑いかける。
「花園さん、君の気持ちはわかったよ」
「じゃあ」と般若から美少女に戻ったが一瞬だった。
「僕には、好きな人がいるから」と言ってのけたかと思うと、白いカーテン越しに覗いていた私を無理矢理引っ張りだした。
落ちると身構えた瞬間に、細身に見えて実はマッチョな保険医の胸元に抱き込まれる。
「ふぎゃっ」
抗議もできないくらいしっかりと押さえ込まれた私からは、美少女は見えなくはなったが、怒りのオーラがさらにパワーアップしたのは分かる。
皮膚がピリピリした。
離してくれと抗議する気力もなくなるほど怯えた。
震えて怯え保険医の胸の中に納まっているしかなかった。
「彼女が、卒業したら式を上げるつもりなんだ」
ひーっ、何を言っているんですか。空気を読まない保険医がガソリンを撒いたー
確かにあの昔のことをきっかけのように家族ぐるみで仲良くしていますが、そんな話は……イヤまさか……たまに酔っておじ様とパパが戯れているのは聞いたことがあるけど。まさかね。
そして、私を抱き込んだ瞬間に保険医を包んでいた氷壁オーラが崩れピンクめいたものに変化しているけど。
でも、まさかね。だって、もう女性はこりごりって言ってたもんね。女性不信だったよね。悪い女に騙されたって。
「そ、そんな保険医とはいえ、学校の職員として生徒とそんな……」
うーん、それは立場は自分もなんじゃないかな。なんてツッコミを入れる気は全くありません。
「アッハハ、それ花園さんも彼女と同じ立場なのに言っちゃうの?君も生徒で未成年だよ。でも君のために保険医の立場を失う気にはならないけど、彼女のためなら別。もちろんね、父も健在だし兄も姉もいるしね」
「……」
なんとなく、相手の反撃が弱まっているのはわかる。肌がピリつかなくなっているから。
やがて静かに去っていく足音がして、保健室は元通りに穏やかな癒しの空間になった。一応表面上はだが。
私の心臓だけが通常の働きではありえないほどの動きをしている。
ありえないほど、動悸を打ち脈が早くなり熱も上がりそうである。
だって、未だに私を抱き込んでいる保険医の腕が緩まないし。
何でお姫様抱っこ?顔を上げるとバッチリ目があって……なんか照れる。頑張って下ろしてと懇願するが無視された。
「えっと、突然のことで驚いたかと思うんだけど……さっきのは冗談とかじゃなくて本気だから」
「さっきの……」
「うん、ほら子供の頃言ってたじゃないか。俺の色が綺麗だったって」
「それはまあ……言ったねヒーちゃ……安藤先生のは確かに綺麗だったから」
うん、見えるからって何でも口に出していいってことはないんだと母に教えてもらったが、それ以前に喋ってたんだね。お馬鹿な私。
「安藤先生だと他にも三人もいて分かりづらいから、名前で呼んで。聖か、ヒーちゃんで」
とんでもない希望が出されました。女生徒のみならず、女教師にも人気の高い若先生の名前呼びって私にとってハードルが高すぎ。
それとさっきからピンク色の度合いがますます濃くなってきている気が……。
「まさか……」
そっと、抱き上げられている私自身で見えなくなっている彼の下半身のとある場所にそっと手を伸ばしてみる。
「うっ」
「ごめんっ」
うん、ごめんなさい。確認するためとはいえ、ヒーちゃんの大事なところ触っちゃってごめんなさい。
そして何だかますます大きくしちゃってごめんなさい。でも、でも私、自分の通っている保健室で処女喪失するのはいやなのでホントにごめんなさい。強くつかみすぎたのか痛くしちゃてごめんなさい。
そして悶えている隙に逃げちゃってホントにごめんなさいー
でも、ヒーちゃんのこと嫌いじゃあないよー
もしも、人の感情が色になって見えたら面白いかもと考えたのです