第一話
この世は病んでいる、殺人、強盗、日に日に犯罪の数が増えていっている。
見つからなければいい、分からなければいい、そんな勝手な人間の考え方に人間が傷付き人間の命が失われていく、この世の中を変えることができるのは神様でも閻魔大王様でもないこの世が病んだ原因の人間自身が変わることが腐りきったこの世の中を変える唯一の方法
この物語は警察でも弁護士でもない私立探偵の息子がこの世の中の暗い部分を少しずつ明るくしていく物語・・・
『ノーブラッキー』
【第一話】〜ようこそ潰れかけの探偵事務所へ〜
薄汚れた貸しビルの一室にある私立探偵事務所【光探偵事務所】、浮気調査から人捜し、盗聴器除去などなど様々な探偵業務を行っている。
所長は光求30歳、身長175cm、体重70kg、好きな女性のタイプはセクシー系
元々は有名大学を首席で卒業、国家公務員試験I種に合格し警視庁、本庁に採用された。
いわゆるキャリアと呼ばれる将来有望な人材だったのだが、気紛れで警視庁を辞め私立探偵事務所を開いてしまった。
探偵事務所の経営は低空飛行、普通の生活がやっとの家計なのだが経営者はそんなこと関係なし
「ただいま」
「望!買っちゃった」
求は無類の機械好き、どうでもいいような機械製品を買ってくる。
手に持っている機械のことを息子に聞いて欲しくて求はウズウズしている。
「小型の電波妨害機なんか買ってなんの電波妨害するんだよ」
「直径50m妨害出来るんだぞ!!すごいじゃないか」
「半径じゃないのかよ、まあ小型だからそんなもんか」
光望17歳、身長185cm、体重60kg、好きな女性のタイプは年下の子
「そうだ!お前に頼みがあったんだ」
求は色々書き込まれた一枚の紙を望に見せた。
「依頼書だ、その人は此花女子高等学校の三年生だ、ストーカー被害にあっているらしい」
「ストーカー調査の依頼か、此花女子高等学校って名門女子高だよな」
どんどん生徒不足で男女共学を決断する女子高が多い中、女子生徒だけで学校が成り立っている唯一の学校で見た目も良くて金持ちか見た目も良くて頭の良い生徒しか採らない。
男女交際が禁止されて他校の女子生徒とは交流を大切にしているが他校の男子生徒の出入りを完全に禁止されている。
男女交際が発覚した女子生徒が退学させられたとの噂も聞いている。
「その名門女子高の生徒さんが下校途中につけられているらしい、そのつけている人物を調査してスト−キングの事実を立証する証拠を見つけ警察に持って行って動いてもらうかストーカーを警察に突き出すのが今回の仕事だ」
「また俺に手伝わせる気かよ」
光探偵事務所は今、深刻な人手不足でこの事務所にいるのは求と望の二人だけ、簡単な依頼なら求一人で大丈夫なのだが
「依頼人の安全を考えると一人では危ないからな」
ストーカー調査はストーキングをしている人物が依頼者を襲う可能性がある。
より危険を少なくするため二人以上の探偵を使うのが鉄則だ。
「わかった、それでいつ実行するわけ?」
「明日の四時に此花女子高等学校の前に立っておけ」
またアバウトな指令だがいつものことだから望は気にしない。
「親父、ちょっと出てくる」
「ストリートライブか?」
「公園でギター弾くだけだよ」
アコースティックギターをギターケースに入れて抱えた望はいつもの公園のいつものベンチに座った。
「さてと歌いますか!」
望は昔から音楽が好きだった、別に音楽で食っていこうなんて考えてる奴じゃない。純粋に趣味として音楽を楽しんでいる奴だ。
「見ていた空が悲しいほど暗くなっていく誰も見つめていない見つめているのは僕一人だけ♪」
夕日の当たるベンチに座りギターの音が望しかいない公園に響く
「またあしたも暗くなっていくのかな切なく太陽は沈んでいくのかな♪」
公園の入り口から人影が入ってきた、望の座っているベンチに少しずつ近付いて来る。
「もういっそ暗くならないで光だけの世界にノーブラッキーワールド♪」
「パチパチパチパチ」
手を叩く音が聞こえた。望はその音の方を見た。
「こんにちは!」
背の低い女の子が立っていた。制服を着ているがどう見ても高校生には見えない、おそらく中学生だろう。
「こんにちは」
女の子は望の隣に座った。
「上手いですね!すごくいいメロディーでした!」
「ありがとう」
女の子はポケットから生徒手帳を出して望に見せた。
「此花女子高等学校中等部の三月夕です!」
「俺は矢吹高校の光望よろしく」
夕は手に持っていた何かを望に渡した。先っちょにキラキラ光るガラス玉の付いたストラップだった。
「頑張ってください!」
「ありがとう」
駆け足で去っていく夕の後姿を望は見つめていた。ストラップをつまんで持ち上げてみる。
「綺麗だな〜」
沈みそうな夕日の光を浴びてガラス玉がキラキラ光っている。
「そろそろ帰らないとな」
ストラップをポケットに入れて望は家に帰った。
「ただいま〜」
「おお我が息子よ!!今日の夕飯はしょうゆ味だぞ!!」
光家の朝食、昼食、夕食は近代文明の賜物、カップラーメンが主で普通の食事なんて金がかかって食べれない。
「いつもカップラーメンじゃ飽きてくる、ほかにねえのかよ!」
「文句を言うな!」
「俺バイトしようか?」
時給700円のバイトで何とか家計を助けようと望は思っていたが求は
「事務所手伝う奴いなくなっちゃうじゃん」
「親父なんで警視庁辞めたんだよ、キャリアだったんだろ?」
「大いなる夢を叶えるために辞めたのさ」
「この潰れかけの探偵事務所が大いなる夢か?」
「これからこの事務所は世界の光探偵事務所になるのだ!!」
夢は大きくとよく言われるが三十路のおっさんが語っても将来性が見えてこない。
「わかったわかったとにかく飯食おう」
しょうゆ味の夕食をすすりながらこの事務所は眠りについた。
「今日も一日疲れたな〜」
昨日の夕食も今日の朝食もしょうゆ味、望は学食の食べれる5日間で成長しているようなものだ。
「望!今日暇か?カラオケ行こうぜ!!」
友達の爽やか且つ裏のある誘いを断らないといけない理由が望にはあった。
「ごめん今日は用事あるんだ」
「彼女でも出来たのか?」
「違うよ親父の手伝い」
「お前がいないと篠原さん来ないじゃんか〜」
「俺に頼るなよ」
この気のいい友達Aは隣のクラスの篠原何とかという女子が好きらしい、その女子が望のことを好きだと知った友達Aは望をエサにして、その篠原さんと仲良くなろうと考えていた訳だ。
「望〜」
「ごめんな!」
学校を飛び出して此花女子高等学校まで走っていく望を求が車で拾った。
「望、お前は依頼者の隣で家まで送るんだ」
「おとり作戦か」
ストーカーは対象の女性に自分以外の男性が近付くことに敏感で興奮して姿を現す可能性が高い。
望がすぐ近くで守れる状態、不審者が姿を現したら求が無線機を使い望に知らせて二人で確保する又はストーキングの証拠を入手して警察に動いてもらう。
「さてと着いたぞ」
此花女子高等学校に着くと校門の前で立っている女の子に望は声をかけた。
「あなたが三月未来さんですか?」
「はい」
女の子は頭を下げた髪は長くいかにもお嬢様的な雰囲気の人だ。
「光探偵事務所の光望です、よろしくお願いします」
挨拶を済ませていると無線が入った。
「硬いぞもっと親しく」
「親父がやりゃあいいじゃねえか」
無線が終わると望は歩き出そうとしたが未来に止められた。
「どうしました?誰か怪しい奴でもいましたか?」
「いえ、妹といつも帰っているものですから」
「分かりました」
妹さんを待つため少し話していると
「お姉ちゃん」
と声が聞こえた時、求からの無線が入った。
「不審者がお前たちの方を見ている、気をつけろ」
「了解」
望は未来の妹の方を見た。
「きみは昨日の!!」
そこに立っていたのは昨日の夕方、望の歌を聴いていった中学生の女の子、三月夕だった。
「昨日のギターのお兄さん!!」
「未来さんの妹さんだったのか!!」
望達は三人で歩き出した。車の通りの多い道路の歩道を歩きながら望は周りを見渡す。
「不審人物確認、ちょうど俺の30m後方」
「俺がさっき言ってた奴だ一眼レフ持ってるぞ」写真を撮るのが目的なら襲ってくる可能性はかなり低い。
望は立ち止まる未来と夕にびっくりした。
「急に止まるからびっくりした!!」
望が横を振り向くと物凄い豪邸が建っていた。
白い外壁に黒い鉄の門、豪邸はホワイトハウスを思わせる程に真っ白。
「ここまででいいですね、証拠を掴むまで調査と護衛は続けます」
望は中に入って行く二人を確認して豪邸を離れた。
「あんだけ金持ちなのになんで歩きなんだろ?運動のためかな」
望は求の車に乗り込み無線機を外した。
求が目を付けた一眼レフ男をつけることにした求と望は無線機を付けて外に出た。
「望聞こえるか?」
「感度良好、問題無し」
「お前は反対側の道から監視、俺は後方からつける」
一眼レフ男のあとをつけていると古ぼけたアパートに着いた。
部屋番号を確認して調べると
「君二決太・・・へんてこな名前だな」
「まあこの男をマークするぞ」
求はメモ帳に名前と住所を書き込みポケットに仕舞った。
「親父!この男の事を近所の人に聞いてみる」
望は走り出し団地の前で集まっている女の人達に話しかけた。
「すいません、光探偵事務所の者です。この男の人について何かご存知ありませんか?」
求が撮影した君二決太の写真を見せると女の人達がざわめきだした。
「この男の人、子供達の通学路に毎朝立ってるわ!!」
「子供達をじっと見てるの気持ち悪い人よ」
手に入れた情報は
・通学路に毎朝立っている
・子供たちをじっと見ている
「やっぱりあの男が黒か」
望はそれから一週間、未来と夕の護衛をしたが君二決太が行動に出ることは無かった。
「今日も見てるだけか俺がいるから近付けないのか?」
望は考えていた君二決太が未来をストーキングする理由は明らかに未来のことが好きだからのはず、しかし望には心の中に引っ掛かる物があった。
「何かおかしいんだよな」
望は事務所に戻ってソファーに座ると求がコーヒーを出した。
「親父が客以外にコーヒー出すなんて珍しいな」
「警察が動いてくれないんだよね〜」
「警察は事件が起きないと動いてくれないしな仕方ねーよ」
「まあ俺が証拠を掴むまで護衛を頼むぞ」
望はソファーの上で眠りついた。
次の日、いつもの通学路ではなく望は違う道を歩いていた。
「ふと来てみたけどやっぱ通学時間は賑やかだな」
子供を見送るお母さんの声や子供の声が響いている道を望は歩いていた。
「あいつは君二決太」
電柱の隣で子供達をじっと見ていた。
「やっぱり黒か」
学校に行ってから望は鞄を置いて、じっと考えていた。
|(やっぱり何かおかしい何か引っ掛かる)
「光くんちょっといい?」
望は後ろから声をかけられて振り向いた。
「君は・・・篠原さん?」
「覚えててくれたんだ!!」
眩しい笑顔を振りまく篠原をぼーっと見つめながら考えていた。
|(ここ一週間の行動を思い返してみよう、一週間前から俺が未来に親しくしても目立った行動は無かった、でも・・・)
「光くんって此花女子の子と付き合ってるの?」
「は?」
突然の質問に望はびっくりした。篠原は真剣な顔して望を見つめている。
「だって仲良さそうに歩いてたじゃん」
「友達だって別にそんなんじゃないよ、それに知ってるだろ?此花女子が男女交際禁止だって」
篠原は安心したようで椅子に座った。
「よかった付き合ってるのかと思って・・・」
「なんで泣くんだよ」
篠原が泣き出し望は訳が分からなくなった。
「望!!」
絶好のバッドタイミングで友達Aが教室に入ってきてしまった。
「なんで篠原さん泣かせてるんだよ!!」
「俺も訳わからねえよ!!」
その日は友達Aに散々説教された望は疲れ果てて此花女子高等学校に向かった。
「どうもこんにちは」
「望くん、今日もヨロシクね」
「あれ?今日は夕ちゃんがいないねどうしたの?」
「委員会の仕事があって遅れるんだって」
「そうかじゃあ行こうか」
いつも通りの道を帰って家まで送った。
「今日はあいつ居なかったな」
望は考えた、何故君二決太が来なかったのか、この一週間と今日の違い何か変わったことが無いか
「まずい!!」
望は走り出した。
|(急がないと危ない!!急がないとまずい事になる!!)
「夕ちゃんバイバイ!!」
「また明日ね!!」
すっかり薄暗くなった道を夕は一人で歩いていた。
「暗くなっちゃたな〜」
夕は電灯の照らす道を歩いていた。
「夕ちゃん!!」
「望くん!!」
息を切らしながら望は夕の前に立った。
「良かった無事だったんだ」
「どうしたの?」
望は後ろを振り向いた。後ろにはナイフを持った君二決太が立っていた。
「夕たんは俺の物だ!!夕たんは!!」
ナイフを振り上げる君二決太に望は蹴りを入れてナイフを奪って抑え付けた。
「やっぱり狙いは夕ちゃんだったのか」
警察が来て君二決太の身柄を確保した。
「親父!サンキュー」
「これは小型の電波妨害機じゃないか」
「あいつ仲間で囲むつもりだったみたいだから電源入れて持ってたんだ、俺もさすがに複数はきついしさ」
「俺の買い物も役に立っただろ?」
「今回は助かったよ」電波妨害機を求に返した望は夕のところに行った。
「大丈夫か?」
「どうして私が狙われるって分かったの?」
「あいつが居た通学路には高校生は通らないんだよ、周辺の高校の登校時間が遅いから中学生と小学生しか通らない」
「じゃあなんで望くんは」
「みんなと同じ事してちゃ探偵は務まらないよ、違う観点から物を見なきゃね」
あの事件から三日経ってから少し光探偵事務所は有名になった。
望は休日を事務所で過ごしていた。
「この前の仕事で二ヶ月は生きれるな」
ソファーに座っていると事務所の扉が開いた。
「こんにちは」
「夕ちゃん!!どうしたの?」
「望くんの相棒にしてください!!」
「ど!どうしたの急に!!」
「住み込みで探偵の勉強するんだとさ」
求が事務所に入ってきた。
「住み込みって・・・えぇ!!!!」