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依頼021

ご感想や評価、お気に入り登録を頂きありがとうございますm(_ _)m

頂く度に嬉しくて○んこう踊りを始める作者です。

…あ○こう踊りする作者の動画を顔出しはしないでツ○ッターに晒しちゃおうかな…



 太陽が地平線の彼方へ沈み始める頃、街の外れでは火柱が立っていた。


 燃え盛る炎に炙られた木々が爆ぜる音が断続的に響き渡る中、瞬きすらせずにその炎を見詰める小柄な人影が地面に座り込んでいる。


「…良かったのかねぇ…」


「…本人の希望だ。俺達が口を挟む事じゃない」


 小柄な人影の背後に並び立つのは二名の大柄な人影だ。


 互いに愛用の小銃を携えた人影はショウとオルソンである。


 その視線の先で地面に座り込んでいる小柄な人影とは雇用主となるジャスミンだった。


「…どうにも火葬ってのは慣れねぇなぁ…」


「そうか? お前だって戦場で何人もバーベキューにした事はあるだろう」


「それとこれとは話が別だと思うのは俺だけかねぇ」


 例えが極端過ぎると隣でタバコを銜えて火を点ける相方をオルソンは横目に伺いながら嘆息した。


 周囲には動物がーー肉と脂が焼け焦げる鼻を突く香りが漂っている。


 彼等の視線の先で燃やされているのは少女の両親の遺体だ。


 いつまでも死者を放置しておく訳にはいかない。

 だがジャスミンはそれほど時を置かずにこの街を後にする。


 そうなれば自然と問題になるのは埋葬方法だ。


 遺体を襲撃が起きた翌朝に棺へ納めたは良いものの街の外れにある墓地へ埋葬した場合、墓参りへ来るのも一苦労となる。


 亡くなったとはいえ、惜しみ無い愛を注いでくれた両親をこの地へ残して行くのは忍びないと考えた少女は、生前の面影を一切残さず骨だけにして共に王都へ連れて行く決断をした。


 幸いな事にジャスミンや亡くなった両親が信仰する宗教は火葬を禁じておらず、在住する祭司の死後の安寧を祈る言葉が捧げられた後、荼毘に伏す事となったのだ。


 流石の彼等も弔いの手伝いをするのに追加の報酬を強請るほど落ちぶれてはおらず薪の手配や準備などを共に行った。


 最後の別れの寸前ーー棺の蓋を釘で打ち付ける前に少女は二つの棺へ納められた両親の顔を記憶へ刻み付け、自身の手で蓋を閉じた。


 泣きじゃくるかと思っていた彼等だったが落ち着き払ったジャスミンから頼まれ、街外れまで運搬すると用意した薪の上へ棺を乗せてから火を点けたのだった。


 既に炎は棺まで飲み込んでおり、遺体が熱硬直を起こしているのか棺内部から何かを叩く音が時折聞こえている。


 おそらく遺体が起き上がっているのだろう、と察しながらショウは紫煙を細く唇の端から吐き出した。


「……で、どうするんだ?」


 紫煙を燻らせる彼へオルソンが脈絡もなく尋ねる。


 何を尋ねているのか、と返すほど彼も察しが悪い訳ではない。

 半分ほどまで燃え尽きたタバコを銜え直すとショウは横目に相方を見た。


「あの王女達の依頼か?」


「あぁ。…個人的な事を言っても良いか?」


 ショウは黙って頷いて先を話すよう促す。


「俺は受けても良いと思う」


「意外だな。お前なら反対するかと……あぁ、いや…あの王女が美人だからか?」


 女好きな相方なら有り得るだろうと喉の奥から苦笑を漏らすショウが呟くもオルソンは首を横に振った。

 その仕草を見た彼は意外だったのか相方を凝視する。


「違うのか?」


「いやまぁ…少しぐらいはそう思ったけどな。…一番は提示された額だよ」


「…確かに魅力的だな」


 ショウも相方の意見に一定の賛同を示しつつ紫煙を緩く燻らせながら頷いてみせる。


「…だが報酬額が高いというのは…」


「イコールで危険、って事だろ? それぐらいは俺も分かってるさ」


 補足すれば昼を迎える寸前まで交渉の席についていた王女や青年が全ての情報を開示しているとは言い難い。

 それが喉の奥に小骨が刺さったような気になる違和感となって彼等の判断を鈍らせていた。


 火の粉が炎の熱風に煽られ、少女の頭上高くへ舞い上がる様子が彼等の視界に入る中、ショウが口を開く。


「…仕事を受けるという前提で考えたとして……お前ならどうする?」


「どうする、かぁ。…事前情報として交易路で盗賊の襲撃が起こってる事は知ってる。ただ、全部の交易路で散発的に発生してるのか、それとも一本の交易路に集中してるのかが分かんねぇ」


 オルソンが考えを述べ始めつつタバコをソフトパックから取り出して銜え、ジッポで火を点ける姿を横目に捉えるショウは頷いて先を促した。


「どの程度の脅威が存在してるかがはっきりしねぇ以上は最悪のパターンも考えて準備はしねぇとな」


「…例えば…団体連中が押し寄せて来るとかか?」


 ショウが尋ねれば相方は紫煙を口元から吐き出しながら無言で頷いた。


「…RPG-7でも創るか…」


「弾頭は対人榴弾?」


 ショウは頷いてみせる。

 

 RPG-7ーーソヴィエト連邦が開発した事で知られる携帯対戦車擲弾発射器であり、世界各地で起こっている紛争や内戦ではショウが愛用するAK-47(カラシニコフ)とこのRPG-7を携えた兵士達が戦っている映像がメディアを通じて報道されるほど有名な火器であり、世界中の鉄火場とは切っても切り離す事は出来ない代物だ。


 対戦車という名称から装甲目標に対してのみ使われると誤解される事もあるが、装甲車輛や特火点トーチカ掩体壕バンカー等を攻撃する為の成形炸薬弾、非装甲車輛や人間等の軟目標へ対しては榴弾を用いる事から大きく分けて二種類の弾頭が存在している。


 それ以外にも照明弾や煙幕弾、非致死性化学弾、焼夷弾といった様々な弾頭が用意されている他、サーモバリック弾頭、爆発反応装甲を貫通させる目的で使用される特殊なタンデム弾頭も開発されている。


 ちなみにだがこのRPG-7、“ロケットランチャー”なのかそれとも“無反動砲”なのか厳密に言えば定義が難しい兵器でもある。


 発射時に後方噴射バックブラストを行い反動を抑制する為、無反動砲と称される事もあるが構造からして“砲”とは言い難い。


 ではロケットランチャーなのではないか、という事になるがロケットランチャーは発射から着弾までロケットモーターで飛翔するロケット弾を発射する為の装置であるのに対して、RPG-7の弾頭の発射は炸薬で行っている。その為、厳密に言えば“ロケットランチャー”とは言い難い。


 なんとも分類し難い兵器ではあるが、あえて定義するとすれば“ロケットランチャーのようで無反動砲の機能を有する対戦車火器”とするしかない。


「でもさぁ…対人榴弾って結局は…」


「デカい擲弾グレネードだな」


M203(ランチャー)を俺の小銃に着けた方が良いんじゃね?」


「確かに…。だが対戦車榴弾(HEAT)も撃てるのは魅力的だ。時限信管を短く設定すれば…」


「…向こうで民兵連中がヘリに対して使う遣り方だな。…ただ…RPGはあんまり信用出来ねぇんだよ。アフガンやイラクでも撃たれた事はあるけどさ…大体、外れるし射点が直ぐに分かるから自殺兵器スーサイドウェポンの印象が強ぇ」


「そうか? 150m以内なら俺は必中の自信があるぞ」


「…それ向こう(あっち)だったら間違いなく6秒も掛からねぇで応射が来るよな?」


 オルソンの苦言に彼は苦笑するしかなかった。


 対戦車携行火器があれば戦車を撃破するのは簡単ーーそのような理論を語る者が多かれ少なかれ存在する。


 結論から言えば、確かに撃破は“可能”である。


 可能ではあるが絶対ではない、というのが正しいだろう。


 例えばの話だが、100名ほどの兵員にRPG-7等の対戦車携行火器を配備し、敵の戦車が来るのを待ち受け“運良く”射程の100m以内まで戦車が待ち伏せ(アンブッシュ)に気付かなければ乱れ撃ちをして撃破は可能である。


「…お前もアフガンとかイラクで戦車に押されたろ?」


「あぁ…最悪だった。正面と側面はRPG如きでは…まず抜けない。…地雷やIEDで履帯を切って擱座させるならなんとか…。それでも砲塔は生きてるからな。さっさと逃げて事なきを得ていたぞ」


 良く生き残ったな、とショウはしみじみと語るが相方は「何故、生き残っているのか」と言わんばかりの呆れた表情で紫煙を燻らせた。


「俺としてはRPGよりも無反動砲カールグスタフの方が…」


「使った事はあるが…使い慣れてるのはRPGだ」


「闇市場に溢れ返ってるのは確かにRPGだから仕方ねぇけど…」


 カールグスタフもRPG-7よりと同じく個人携行が可能の対戦車火器だ。

 こちらは無反動砲となり、開発国はスウェーデン、口径は84mm、重量はモデルによって異なるが1991年に実用化されたM3は8.5kg、弾種は対戦車榴弾、多目的榴弾の他に照明弾やフレシェット弾等が用意されている。


「ただ…ラクダに乗せて運搬するとしても…」


「重いんだよなぁ…弾薬も一緒に運ぶから余計に…」


 彼等は砂漠越えの際、重く嵩張る荷物をラクダへ乗せて運搬する腹積もりだった。

 ショウとオルソンの武器弾薬は当然として食糧や水、寝具に薪等も購入する予定である。


 可能な限りは身軽にしてラクダへ負担を掛けず砂漠越えを果たしたいーーというのが本音だった。


「…RPGにしよう」


「…ベストじゃなくてベターになるけどな。…あと悪いけど念の為に俺用のM203も創っておいてくれ。擲弾も何発か」


「分かった…」


 ジャスミンは背後の彼等を鑑みる事なく炭と化して音を立てて崩れ落ちる棺の様子を見守っている。


 ーー両親の遺体が骨となり、用意した骨壺へ納めて暫くしたら計画を打ち明けよう。


 ショウとオルソンは無言の内に承諾し合った。





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