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File.4 「だって何かだらだらしてるんだもの」

  

「犬って可愛いよねえ」


「また脈絡ないわね」


「でも実際に飼う手間を考えると、いくら可愛くても飼おうとまでは思えないよね」


「話の流れぶった切るのね。普通はここから『犬飼いたいねえ』『どんな犬が良い?』みたいな話が展開されるんじゃないの?」


「やっぱり他人の犬を愛でているうちが華だよねえ」


「同意を求めないで頂戴。無責任な愛好ね。それじゃあ孫を可愛がる老人と一緒じゃないの」


「失礼な。僕は生粋の愛好家だよ」


「え、どこがよ」


「あんなに愛くるしくてしかも美味しいなんて、全くわんわんは人類の至宝だよ」


「アンタ前言全部撤回しなさい」


「えー、だって美味しいじゃないか。わんわん」


「わんわん言うな」


「まあ食べたことないんだけどね」


「ねーのかよ」


「それはそうと、君はどう思う? わんわん」


「わんわん言うなっつーの………どうって?」


「どうって、どうだよ。こう、どう思う?」


「漠然としてるわねえ………」


「それじゃあわかりやすく。好きかい? 嫌いかい?」


「そうねえ………嫌いとは言わないけど、好きでもないわね」


「二択で聞いたんだから二択で答えようよ」


「世の中そんなに甘くはないのよ」


「どうしてそんなにキビシいのかな」


「だって何かだらだらしてるんだもの」


「まあいいか。それじゃあ、どうして好きじゃないんだい?」


「あいつらの人間にこびへつらう態度が気に入らないのよ。何よ忠犬て。馬鹿じゃないの」


「ばっさりだねえ。でもハートウォーミングなお話じゃないかい? 忠犬ポチ公とか」


「ハチ公でしょ。正直言ってね、返って気味悪いのよ。何が嬉しくて『忠義』なんて暑苦しいものを全うするのよ。そんなの人間の見方でしょ。何がハートウォーミングよ。最終的にはああいう話って、犬だろうが何だろうが皆死んでるじゃない」


「お隣の中国では、あの三国時代から子供に親しまれている忠犬のお話があるけど、そのあまりの人気の高さから続編が出て、そこで彼は生き返って大活躍してるよ」


「それは………それはそれで、うーん」


「ちなみに名前は黒龍と言う」


「ずいぶんと男前ね」


「中型犬だよ」


「………へえ」


「まあ取り立てて忠犬とよばれなくても、犬ってのは人間と親しいよね。例えば猫と比べると」


「ああ、『犬は人に懐き猫は家に懐く』って奴ね。必ずしもそうじゃないと思うけど」


「例外のない規則はないってね」


「例外を作らないための規則でしょ」


「まあ懐いてくれると何でも可愛いね」


「こっち見ながら何言ってんの? 気持ち悪い。黒トカゲのほうがよっぽどマシよ」


「黒トカゲ………」


「大昔から人間にくっついて回って、全く気が知れないわ」


「ああ、確かに人間と犬との歴史は古いね。縄文時代には人間と同じように埋葬されるようになっていたかな」


「それに、あんなにたくさん種類いるけど、あれはほとんど品種改良なのよ? 掛け合わせとか遺伝子組み換えとか。ぞっとするわ」


「脚の短い奴とかね。しかもそれでいて犬の大先祖は不明なんだものね」


「そうなの?」


「うん。まあオオカミなんじゃないかって説が有力だったかな」


「ふうん。まあいいけど。しかしまあ、それでよく人間に友好的でいられるわね。好き勝手に身体いじくりまわされて」


「人間に牙向いたら即処分じゃない? つまり、連綿と受け継がれてきた防衛本能とは考えられないかな」


「ナンセンスよ。狐や狸は人間にちょっかい出したくらいで全滅させられる? 動物園のゾウやライオンはちょっと牙剥けば殺されるだろうけど、だからってアフリカまで出張して撲滅したりはしないでしょう? 人間に近寄らなければ問題ないのよ」


「ニホンオオカミは絶滅させられたよ?」


「それは近付きざるを得なかったからよ。人間のせいで棲家を失って、食糧も足りなくなって、だから食糧のある方へ自分たちが生きるために向かって行ったら、人間にとって有害だって絶滅させられた。一から十まで全部人間の都合よ。山から下りてくる熊もそう」


「人間嫌い?」


「少なくともあんたは嫌い」


「それはまたはっきり言ってくれるなあ!」


「とても狡猾な正直者って御近所で評判よ」


「それは果たして正直者なのかな………?」


「自分に対して正直よね」


「それじゃあ、視点を変えて。どうして忠犬ペチ公は人気があるのかな。あれ、結構古い話だったよね」


「ハチ公でしょ。それはやっぱり………あれじゃない? 主人の帰りを待ち続けて死ぬなんて、何て人間思いの犬なんだろう………そう、最終的に奴が死ぬから、この話は美談なんじゃない? 特に日本人ってそういう話好きじゃない?」


「ああ、ニポンのウツクしいブンカ・ハ☆ラ☆キ☆リですネ」


「どんな発音よ。でもまあ、うん、そんな感じ?」


「それじゃあ、プチ公が死んでなければああはならなかった?」


「ハチ公だっつの。まあ多分ね。ていうかあれよ、人間より知能の劣る畜生が、いっちょ前に人間みたいに一見忠義じみたものを示すから、なおさら様になるんじゃない?」


「ふむ」


「結局のところ私は、犬が嫌いというよりも人間の御都合主義が嫌いなのよ」


「御都合主義ねえ」


「まあ同族嫌悪だけどね」


「犬で思い出したんだけど、八犬伝って読んだことある?」


「ええあるわよ。個人的にあれは好きね。でもあれは実際犬あんまり………八房よね。それから、八人の姓の頭文字に犬が入ってる、と」


「僕はあの、村雨丸がほしいね。あれって何で錆びないんだろう」


「もうそれ犬何にも関係ないわね」


「ところで、ねえ、犬飼いたいよねえ。どんな犬がいい?」


「今さら過ぎる話よね」


「で、そこんところ、どう?」


「 やっぱり他人の犬を愛でているうちが華よね」



 

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