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File.3 「え、ちょっと早くない?」

  

「主人公になりたいと思う?」


「何よ藪から棒に」


「やっぱり、一行目のインパクトって大事だと思うんだよ」


「何なの話よ、一行目って」


「つまり始めの一歩だね」


「………? ふむ。成る程ね。わかったわ。それじゃあ結論に入りましょうか」


「え、さすがにそれはちょっと早くない?」


「起承転結を入れ替えて、結転承起ってのもインパクトはあるわよね」


「さすがにオチから始まる物騙りは難易度激高だねえ………」


「嫌ならさっさと本題に入りなさい」


「うん。で、君は主人公になりたいと思うかい? もしくは、君は自分を主人公だと思うかい?」


「思わないわ」


「きっぱりだね。理由を聞いてもいいかい?」


「嫌よ」


「そこを何とか」


「まあ………理由と言うか、だって大変そうじゃない? 主人公って」


「ほう。どんなふうに?」


「だって主人公って、常に物語の中心にいなければならないじゃない。そして波乱万丈に巻き込まれるのよ。そこは主人公だから乗り越えられるんだ問うけど、そのために毎度毎度苦労しなきゃいけないでしょ。私は嫌よ。疲れるもの」


「まあそうでなくっちゃ物語は面白くないんだけどね………」


「よくもまあ好き好んで事件に突っ込んで行くわよね。さもなきゃよくもまあいつでもホイホイと身近に事件が起こること。とても信じられないわよね。よく言うでしょ? 『英雄のいるところに戦争がおこり、名探偵のいるところに事件が起こる』。主人公のいるところに物語が起こるのよ」


「さて、ひよこが先か鶏が先か………」


「それはひよこが先でしょ」


「でもさあ、ちょっと憧れない? 主人公」


「まあね。わたしも小さい頃はちょっとくらい憧れたわよ。ほら、日曜日の朝に特撮ヒーローとか観てると」


「あ、特撮ヒーローの方なんだ」


「ええ。何か?」


「いや別に」


「でもあの人たち、必ずまずは痛い思いしてるじゃない。前よりちょっと強い敵が出てきて、とりあえずめためたにとっちめられてから、ようやく新しい力なり何なりに目覚めるんでしょ。そんなの嫌よ。どうせやるなら安楽椅子の名探偵ね」


「名探偵………は、主人公には意外とならないよね」


「あ、それもそうね。まあでも、特殊能力は今でもちょっとはいいなあって思うわよ。魔術とか超能力とか、単純に便利そうだもの」


「かっこいいしね」


「そこに問題があるのよ」


「え、僕?」


「あなたにあるのは別の問題よ。今回はそこじゃなくて、特殊能力はかっこいいってトコに問題があるのよ」


「今さらっと酷いこと言わなかったかな………?」


「事実しか行ってないわ。でね、異能を持つ人間はとかくに主人公になりやすいのよ。その異能事態が凄かろうがショボかろうがね。それは特殊な生い立ちや育ちにも言えるわ。ちょっと暗い過去ってのにも羨望は感じるけど、そいつは高確率で主人公、もしくは最終的に死ぬ奴よ」


「まあ、そうかもね」


「で、主人公は最後にはいい目を見てもそこまでが面倒なのよ。それなら私は、…徹頭徹尾寝て過ごすわ。あんなの、無邪気に憧れているうちが華なのよ。サンタクロースといっしょね」


「え、サンタさんって実在しないのかい!?」


「何をすっとぼけたことを」


「まあ冗談だけどね。………しかしながら!」


「何よいきなり大声出して。びっくりするじゃない」


「僕はここで起承転結で言うところの『転』をこの場に提供しようと思う」


「だから何でそこで天井の隅を見るのよ。こっちを見なさいこっちを」


「ここまでの話をまとめると、まあおおよそ何かしら特殊なもののある人が主人公になるって話なわけだけど」


「こっちは華麗にスルーしやがるのね」


「しかしだ。人が人として生まれてきた以上は、誰もが等しく主人公だとはいえないかい?」


「カメラもないのにカメラ目線の奴って、はたから見てるとこの上なく恥ずかしい奴なのね」


「どう思う?」


「思い出したようにこっちに振るな。いまいちよくわからないわね。哲学的な話?」


「人は誰もが主人公だって話だよ。百人いれば百人ともが主人公だ」


「ああ、そういう話ね。興味ないわ」


「そうすると話が終わっちゃうから困っちゃうんだけども」


「困ればいいのよ」


「そこを何とか」


「………あんまり同意したくないわ。そうすると、私も主人公になっちゃうでしょ」


「ダメかい? 特撮ヒーローみたいな痛い思いはしないわけだけど」


「そのかわり華もないわ。アップダウンもなく、漫然と、凡々と、時間を浪費するだけ。面白みも何もあったものじゃない。つまらないわ」


「つまらない?」


「ええ。ひたすら泥臭く、惨めに進んでいくだけの舞台。そんなところになんかいたくないわ。わたしは嫌よ」


「そこを面白くするのが大事なところじゃない?」


「嫌よ。面倒だもの。エンディングもスタッフロールもない。キャストは自分一人。台本もないし観客もいない。いいことなんて滅多にないし、あっても長くは続かない。転げ落ちればどこまでも落ちて行って、這い上がる見込みなんて皆無。救いなんてどこにもないのよ。慰めもね。あるのは時間だけ。それだって無限にあるわけじゃない。どころか簡単に失われる。そんなのただの『人生』よ。人生は物語じゃないの。人生は人生なのよどうしようもなく、ね」


「成程、名言だね。人生は物語じゃない、っと」


「独りよがりに面白くしようと誰も見てない舞台の隅っこで一人でくるくる回って、何も変えることができないくせに自分は主人公だ、なんて、言い張る気は全くない。それこそ、カッコ悪さの極致よ」


「主人公はカッコよくあるべき?」


「主人公を背負う限りはね。うだつの上がらない主人公ってのもいるにはいるけど、そういう奴だって何だかんだ言って最終的にはカッコよくキメるのよ。小憎たらしい」


「君の話を聞いてると、君はむしろ主人公に敵意すら抱いてそうだけど」


「まさか。どうして? 会ったこともない相手に何で殺意なんて抱かなくちゃいけないのよ」


「いや僕は殺意とまでは言ってないんだけども」


「あら、そうだったかしら」


「もしかして、これはあれかな、所謂羨望の裏返ぞぼぴきゃっ!?」


「あら御免なさい。ちょうどいいところに分厚い本があったから、ついうっかり」


「殺されるかと思ったよ………主人公でもないのに殺されたくはないね」


「ていうかこの本何? え? 『古今東西幻想霊異記』………何この超胡散臭い題名。あなた騙されてない?」


「ところがどっこいそいつは本物だったりするんだけど………まあいいや。興味が他に移ったところで、今回の騙りはお開きにしようか」


「え? あ、ちょっと待ちなさいよ。この、これの下にあるこれって………あ、ちょっとあんた!!」


「なはは。それではまた次回~」



 

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