File.2 「私もう疲れたんだけど」
「やあ、いらっしゃい。早速また来たねお嬢さん。」
「………ええ。不本意ながら」
「ふむ。あ、ちょっと失礼。眼鏡を掛けさせてくれたまえ」
「え、あんた目悪いの? そりゃあまあ、こんな薄暗いところでアヤシゲな本ばっか読んでたらねえ………」
「うん? ああ、もちろん、これは伊達だ」
「おい」
「さてさて………今日の君は一体、どんな騙りを望んでいるんだろうね?」
「そんなの………知らないわよ」
「まあそうだろうね。だが僕は騙り屋だ。見ればわかるさ。そのうちにね。紙船に乗った気で安心してくれていい。和紙製だ。風流だろう? もちろん手の平サイズのね」
「アテならないことだけはよくわかったわ」
「まあそう言わずに」
「でも実際、どんな話題を提供すればいいのかわからないわ。こういう場合って、普通はあんたから出すものじゃあないの?」
「うーん………まあぶっちゃけどっちからでもいいんだよね。僕から言い出したところで、君の中の『騙り』には違いないわけだし」
「あっそ。ならなおさらあんたから寄越しなさい」
「急に居丈高になったねえ。まあいいけど、こちらから提供するからには乗っかって頂戴よ?」
「ええ。ただし私が乗っかりやすい話題にしなさい」
「それじゃあ、そうだねえ………環境問題についてどう思う?」
「どうしようもないと思うわ」
「………………」
「………………」
「いやもうちょっと乗ってよ!?」
「乗りにくい話題なのがいけないのよ」
「それじゃあ、…………共産主義についてどう思う?」
「どうでもいいと思うわ」
「………………」
「………………」
「動物愛護団体についてはどう思う?」
「下らないと思うわ」
「………………」
「………………」
「空ってどうして青いのかなあ!?」
「昼間の太陽の位置からすると、大気中に拡散する光のうち、青の波長が最も大気中の塵や水滴を回避して地上に届くことができるのよ」
「じゃあ、海が青いのは?」
「さあ? 空が青いからじゃないの?」
「一転して適当だ!」
「ていうか、あんたの持ち出す話題も私の中の話題だって言ってたわよね。それってつまり、私がそういう至極どうでもいい話題について語らいたくてうずうずしてるってこと?」
「いや、今のはほんの、何だ、ほら、ボクシングで言うところのシャブ」
「アヤシいクスリ?」
「コース料理で言うところの洗剤」
「泡立ててどうするのよ」
「まあ、そんな感じなわけだよ」
「全然伝わらないわ。どんな感じよ」
「つまりあれだ、ゲームで言うところのチュートリアル」
「チュートリアルねえ………」
「というわけでチュートリアル的に、今回はこんな話題はどうだろう」
「え、今から本題入るの? 私もう疲れたんだけど」
「話題『どうして君は疲れてしまっているのだろう』」
「あんたの話がまどろっこしいからよ!」
「んじゃそういうわけで、次回からはもう少しまともな話をしよう」
「あんたほんとに何にもなかったわけね。先が思いやられるわ………」