File.1「騙り屋へ、ようこそ」
「………おや。やあやあらっしゃい。これはまた、可愛いお客さんだね」
「何それアンタ超キモい」
「第一声からアグレッシブだね」
「親指立てながら言わないで。ウィンクもなしよ。全然似合ってないから」
「それは失礼。久々のお客さんだものでついテンションが上がってしまってね。では 次回は華麗にダンスステップを踏もう」
「結構よ」
「そう言わずに。ところで今日はどういったご用件で?」
「どういったっていうか………そもそもここ、何? 骨董屋? アヤシゲな壺とか地球儀とか………なんか法に触れそうなものもあるけど。何これ象牙?」
「プラスチックさもちろん。なんちゃって冗談だよ嘘だけど。君、看板見ないで入ってきたの? 自信作だったのに………」
「わざとらしく落ち込まないで。机の上にのの字書かれても気味悪さが際立つだけよ。ってか、いまどき看板自分で作ったの?」
「おおともさ! 十人中九人がそのあまりの胡散臭さに素通りすること間違いなしよ」
「看板の意味ないじゃない。 やる気あるの? ………ちなみに、十人中一人はどうするわけ?」
「とりあえず警察に通報かな」
「ほんとにやる気あるの!? っていうか、それならこの店に入ってきた私は何なのよ」
「おや? ………おやおや、これは、計算が合わないね」
「本気で不思議そうな顔しないでよ………まあいいわ。で、何? この店は何の商売やってるの?」
「何っていうかねえ………僕から何かを提供することはないよ。始まりはお客様から、つまり君からだね」
「は? 何それ意味わかんない」
「ほんとに看板見ないで入ってきたんだねえ………まあ それもそうか」
「一人で納得してないで私にもわかるように言いなさいよ」
「いや、これはあれだよ、 君の入店の挨拶ってとこだね」
「は? 私の?」
「そう。多分、これから君はここに何度も来ることになるよ」
「全然わかんないですけど」
「そもそもここを訪れることができたということは、君も何かワケありだってことなんだよ」
「………え、そうなの?」
「うん。ああいや、君が語る必要はない。ここは言わば僕の聖地であり戦場でありHere is my worldだ。この世界は全て僕のトークの支配下にある。いいかね?」
「別にいいけど、 いきなりノリノリなのね」
「でも、まあ薄々気付いてはいるんだろ? 目が覚めたとき、君はここを訪れたことなんか覚えていない」
「それは………まあ。つまりこれって私の」
「おっと、それ以上言わなくていいぜ。僕は謎めいた会話が大好きなんだ」
「どこ見ながら言ってんのよ。こっちを見なさいこっちを」
「さて、まあ今回はこんなところだろうね。戻ればそろそろいい時間だよ」
「そうなの?」
「そうとも。そして次に訪れるとき、君は僕へ持ってくるに相応しいお土産を持ってきてくれることだろう。楽しみに待ってるよ」
「………あっそ。まあいいわ。それじゃあ私はそろそろ戻ります」
「うん。あ、ちょっと待った」
「何よ。行けと言ったり待ったと言ったり」
「いや、これから短い間でも御世話になるわけだからね。御挨拶をと思って」
「だからこっち見て言いなさいよ。天井に誰かいるの? ………何よ、ほら、さっさと言いなさいよ」
「うん。実は僕はもったいぶるのも大好きでね」
「どうでもいいわよ。むしろ迷惑。さあ、さっさと言いなさい」
「風流がないねえ………まあいいか。では、改めまして。
騙り屋へ、ようこそ」