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タイム・≪-∞(マイナス無限)≫

作者: マコト

この作品は北野冬華さんから「タイムスリップ」と「手紙」をモチーフにしてテーマバトンで書いて下さいと依頼させていた短編小説です。完成までに思った以上に時間がかかってしまい依頼主の北野冬華さんには本当に申し訳なく思っています。この場を借りてお詫びします・・・でも、やっと完成させました。構成や設定にはかなり無理が有りますが、それは全て僕の力量不足によるものです。どうか、ご容赦ください★

『私を助けて下さい。私は今、時空変換ユニットの不調により、時空を彷徨(さまよ)い続けています。このままでは私は時空の渦にのまれ永久にここから出られなくなってしまいます。私を助けることが出来るのは私と同じユニットを持っている貴方しかいません。どうか私を助けにきて下さい。マリコ』


 僕が未来の食べ物を調査するため50年後の世界へ着いた時、地面にこんな手紙が落ちていた。

「マリコ」という名前に覚えはないが、手紙の主が僕に助けを求めていることと、事態が緊急で深刻であることを感じ取った僕は早速、単独でマリコの捜索を開始した。

 時空変換ユニット・・・俗にタイムマシンと呼ばれている装置を持っている人種は限られている。かなり高価な装置を保有できる資産家階級か、そうでなければ特殊な訓練と資格を持った僕みたいな時空調査員かだ。

 時空調査員がユニットのトラブルで時空に巻き込まれることが皆無とはいえないが、時空を旅するスキルを持った調査員が時空で遭難するケースは決して少なくない。時空の流れは時として渦みたいに歪みを生じ、それに巻き込まれると永久に元の世界に戻れないことも有るのだ。マリコという人物も時空の渦に巻き込まれたのだろうか?

 僕は僕と同じユニットを所有する人物のリストを検索してみた。すると、ユニットの搭載されたHAC(ハック)(ハイパー・アーティフィシャル・コンピュータ)のモニターに「ウエハラ・マリコ」という名前が出てきた。所有証明写真には髪が短くて面長(おもなが)の女性が写っていた。かなりの美人だ。

 この手紙が有ると言うことは、マリコがこの時代にも立ち寄ったということだ。時間の渦を漂流しつつタイムスリップ的にたどり着いた時代に助けを求める手紙を残していったのだろう。

 僕は次にHAC(ハック)でマリコの使っている時空変換ユニットのタイムトラベル履歴を検索した。

 約30秒後、HAC(ハック)の検索結果がディスプレイ上に表示された。

 ≪AC2026≫

 ≪BC3289≫ 

 ≪AC675≫

 ≪BC2500≫

 ≪AC238≫ 

 ≪-∞≫

 最後に表示された≪-∞(マイナスむげん)≫に僕は目を疑った。

「マイナス無限」・・・それは宇宙の起源を表す記号で、つまりこの世界の始まる前の時空を意味する。

たとえタイムトラベルであっても、不本意なタイムスリップであっても、我々が生きているこの宇宙の起源に行くことなど通常では不可能だ。何故なら宇宙の誕生する前のそこには時空が存在しないのだから。

 何かの間違いか?納得できない僕はもう一度HACで検索し直した。今度は僕自身の手で「ウエハラマリコ」の名前とマリコが所有している時空変換ユニットのシリアル番号、所有者番号を一文字一文字間違えないように入力していった。

 けれど、結果はさっきと全く同じで、最後には≪-∞≫が現れた。僕はため息をついた。でも、少なくともこれで今、マリコが居るであろう時空を特定できたのだ。

「行けるかどうか分からないけど、試してみるしかないか・・・」

僕は時空変換ユニットのコックピットに座りなおして、ヘッドギアとシートベルトを装着し、時空変換設定装置に「-∞」と入力した。

 息を整えてメインスイッチをオンにすると、デジタル音声とディスプレイによるカウントダウンが始まった。

『時空変換装置がスタートしました。目的の時空へのカウントダウンを開始します。10秒前、9、8・・・・3、2、1、時空変換開始』

 ユニットが時空を超えた瞬間、僕の体は3次元の重力から解き放たれ、宇宙空間に浮かんだような無重力状態になる。だが、それだけではない。時間や空間という呪縛からも解き放たれた僕は肉体感覚さえもが希薄になる。まるで魂だけの状態になったような感覚だ。肉体という(よろい)を脱ぎ捨てた僕は至福のエクスタシーを感じる。宇宙のすべてと一体化したような、言葉では言い尽くせない崇高な幸福のバイブレーションに包まれる。これは時代調査員になった者だけが味わえる歓喜だ。

 時代調査員になるためには2つの条件が必要だ。

1つ目は守秘義務(しゅひぎむ)。タイムトラベルというのは国が極秘に進めているプロジェクトであるため、仕事のことを誰にも口外しないということ。2つ目は親や兄弟が居ないということ。時空を超えて別の時代へ移動する時代調査員には大きなリスクが伴う。行った先の時代で何らかのトラブルに巻き込まれ、永久に元の世界へ帰れないことも予測される。だからそれを承知で任務にあたれる天涯孤独の身の上の者こそがうってつけなのだ。

 2年前、大地震で両親と妹を失った僕はその2つの条件をクリアしている。

コックピットのパネルには大地震前に家族そろって撮った写真をはめ込んでいる。父と母に挟まれて、笑っている15歳の僕と10歳の妹、リサ。平凡だけど幸せな毎日。妹とはとても仲が良かった。僕にとって笑顔の可愛い妹は誇りでもあった。

『お兄ちゃんへ、成人式おめでとう。早く素敵な恋人見つけてね。お兄ちゃんは優しくて賢いから、その魅力を活かせばきっと素敵な人が見つかるよ』

地震の4日後、僕はがれきの中からリサが僕に書き送ってくれたメッセージカードを見つけ、一晩中泣き続けた。僕は18歳で命を終えた妹リサの笑顔を死ぬまで忘れない。

 すべてを失った僕にはもう怖いものなどない。死ぬことさえも今の僕には恐怖の対象ではないのだ。

時空変換モードは着々と進み、僕は時空を浮遊し始める。もう僕の体も心も時間や空間から解き放たれ、文字通り自由になったのだ。心地よいエクスタシーが僕の全身を駆け巡る。まるで宇宙そのものと一体化したような無上の幸福感。永遠にこの瞬間が続けばいいと願わずにいられない。

 目の前のモニターは高速でカウントダウンを続け、時空を逆行していることを僕に知らせてくれている。やがてモニターに展開する数字の前に≪-≫という表示が現れた。それは地球上に生命が誕生する前の時空に入ったという証しだ。

 どれくらい≪-≫の表示が続いただろう?

再び僕がエクスタシーに酔いしれていた時、突然時空変換ユニットはガクンッという激しい衝撃と共に急停止し、アラームが激しく鳴り響いた。もしもシートベルトをしていなければ僕は間違いなくシートから放り出されていただろう。

 軽い眩暈を感じながら僕はベルトをはずして起きあがり、アラームを手動停止させた。静寂と孤独感が僕を包み込む。

「-∞(マイナスむげんだい)に着いたのか?」

僕はモニターで外の様子を確認しようとしたが、何も映っていない。ふいに不安が湧きあがってくる。しかし、自力でなんとかしなくてはならない。誰も助けてはくれないのだから・・・。

「じっとしてても何も始まらない。とにかく外に出てみよう」

僕は決心した。外にどんな世界が待っているのか分からないが、僕にはもう何も失うものなどないのだ。

 僕は気持ちを鎮めるために大きく深呼吸してからロックを解除し、ドキドキしながらハッチを開けた・・・。

 外には闇が広がっていた。

「ここが-∞(マイナス無限)なのか?」

僕は小声で呟いた。でも、その問いかけは闇に吸い込まれて答えが返ってはこない。

 僕は意を決して外に出ることにした目の前に見えるのは漆黒の闇だけ。でも、その闇は微塵も恐怖心や不安をそそらなかった。むしろ、心を穏やかにさせ、安らぎさえも与えてくれる闇だった。

 僕はハッチから身を乗り出し、意を決して闇の虚空へとダイブした。無重力状態みたいに体が宙に浮いている感覚が僕を包んだ。ただ宇宙空間での無重力とは違い、ふわふわした感じはなく、目に見えない濃密な空気の層が体を支えられているような安定感が有った。その状態で一歩踏み出してみると、確実に前に進む感覚が有る。

 僕は闇の中をそのまま前に進み続けた。何も見えないにもかかわらず気持ちは穏やかだった。むしろ歩を進めるごとに心が温かくなっていくのを感じていた。今まで感じたことのない安らぎが体中に広がっていく。

 闇の中をどれくらい歩いただろう。僕は濃密な闇の向こうに何かの気配を感じて立ち止まった。視界が効かない分、より敏感になった本能でそれを感じていた。そしてその気配が自分に害をもたらす類いのものではないということも。

 僕はその気配との間合いを計るように一歩ずつゆっくりと前に進んで行った。緊張で胸が高まる。近づくにつれて僕はその気配が人間だということを確信した。やがて目と鼻の先にその人間の気配を感じるまでに至った僕は歩みを止めて立ち止まった。

 闇の中で感じる見知らぬ人間の気配。僕の緊張感は最高潮に達した。闇の中で僕の視覚以外の感覚が鋭く研ぎ澄まされる。何者であるかは見えないものの、目の前にいる人物が少なくとも僕にとって敵ではないということを、相手から発せられる気配でリアルに感じた。

 僕は意を決して相手の存在を探るように手を前に伸ばしてみた。すると、密度の高い空気の塊のようなものが指の先に触れるのを感じた。指の先から目に見えない相手の想いが伝わってくるようだ。僕は目を閉じ指の先に意識を集中させた。

 不意に空気の塊が指先から掌、手首、腕、肘へと徐々に覆い始め、やがて体全体を包みこんでいった。

とても心地よくて温かい空気の層が、僕を抱きしめる様に包み込み僕を心から陶酔させていく。

「やっと来てくれたんですね」

空気の層の中にその声が反響した。

「貴方は・・ウエハラマリコさんですか?」

「そうです」

「貴方の手紙を読みました。時空で遭難したんですね?」

「私はかつて貴方と同じ時空調査員でした。始めは貴方と同じ国の機関に所属していましたが、独立してフリーになりました。それからというもの、私はあらゆる時代へタイムスリップして世界中の企業や機関へ情報を配信しました」

僕もフリーで優秀な時空調査員が何人かいるという噂は聞いたことが有るが、彼女はその一人なんだ。僕の心に憧れの人にたいする畏敬の念が湧いてくる。

「でも、未来や過去のいろんな時代を行き来するうちに、時間の原点に行ってみたくなったんです」

それは時空調査員なら誰でも一度は思うことだ。時間の始まる前の時代。時間という永遠の川の原点。

 でも、それはかなり危険な事でもある。時間のない世界では自分の存在も無くなる。それが時空理論の定説で常識でもあるから。

「私は思いきって元居た世界の全てを整理し、それを実行しました。ここへ来た時、私は今までにない幸せを感じました」

僕は闇の中で彼女が満ち足りた笑みを浮かべているのを感じた。

「時間から解放され、年を取らず永遠に今のままの状態で居られるのは人間として最高の理想です」

「その気持ち、リアルに分かります」

「でも・・時間のない世界でも一つだけ満たされないものが有ります」

彼女の声が急にトーンダウンした。僕は只黙って彼女の言葉を待った。

「一人でいる淋しさは・・・孤独は・・・・埋められないのです・・・」

「孤独は辛いよね」

僕はこれまでの自分の境遇を振り返って呟いた。天涯孤独。これがどれほど辛く淋しことか僕が一番よく分かっている。

「そこで私はある人から貴方の事を聞いて、貴方が居た時代の50年後の世界に置手紙をしました」

「僕のことを知ってる?ある人って誰ですか?」

僕はわけが分からなくなってきた。家族以外に僕のことを知っているのは、僕に調査の仕事をくれる公的機関の人間くらいだ。でも、彼らが僕の情報を他人に漏らすことはない。時空調査員の情報を漏らすことは重罪だ。システムの方も情報が外へ漏れないよう最高級のセキュリティで守られている。

「残念ですが、僕には貴方の行っている意味が分かりません」

僕は目の前の闇に向かってそう言った。

「私にとって貴方は運命の人です」

僕は言葉が出なかった。これは僕の孤独な脳が無意識に求めていた幻覚なのか?

「貴方が今のこの世界の事実を受け入れられないのも無理はありません。私も最初はそうでしたから」

彼女は一体何が言いたいんだ?僕はどうすればいいんだ?

「では、この世界の全てをお見せしましょう。どうか力を抜いて楽にして下さい」

僕の周りを包んでいる闇の空気の層が徐々に温かくなってくる。例えるなら、まるで何か目に見えない大きな愛の存在に抱きしめられているような感じだ。心地よさに包まれて僕は自然に目を閉じた。

 すると、闇の中であるにもかかわらず僕は光を感じ始めたのだ。それは体の外に溢れる光ではなく、心の底から僕自身が発する光だった。僕の中に温かな気持ちが満ちてくる。今までに感じたことのない幸福感見満たされて僕は目を開けた。

 僕の前にさっきまでの闇は無く、代わりに黄金色の光に満ち溢れた世界が見渡す限り向こうまで広がっていた。

「いかがですか?これがこの世界の真の姿です」

僕の後ろから柔らかな声が聞こえた。振り向くと、そこにはショートカットでつぶらな瞳をした若い女性が立っていた。しかも証明写真よりも数倍綺麗だった。

「ウエハラ・・・マリコさん?」

女性は「ハイ、そうです」と頷き僕にほほ笑んだ。マリコの姿を目にして僕の鼓動が高まった。

「どうしたんですか?」

「い、いや・・・こんなに若くて綺麗な方だと思わなかったもので・・・」

僕は自分の気持ちを率直に言葉にした。頬が火照って赤らんでいるのが自分でもわかる。

「お兄ちゃん、照れてるんだ」

僕の背後で女性の声がした。でも声の主はマリコではない。

振り向くとそこには満面に笑みを浮かべた可愛い女子が立っていた。僕は気持ちが張り裂けそうになった。目の前に居たのは妹のリサだったのだから。

「リサ・・・・」

名前を言うのが精いっぱいだった。僕はリサを力いっぱい抱きしめた。溢れた涙がみるみるリサの髪を濡らしていく。

「お兄ちゃん・・・そんなに力入れたら骨が折れちゃうよ」

リサが僕の耳元で笑っている。

「私に貴方の事を教えてくれたのはリサちゃんなんですよ」

マリコがそう言った。僕は「えっ?」と呟き、妹の顔をまじまじと見つめた。

「私、死んでからもずっとお兄ちゃんの傍に居たんだよ」

「僕を見守っていてくれたのか?」

「見守るって言うか、ただお兄ちゃんの傍から離れたくなかっただけ。リサにとっては、お兄ちゃん以上に優しい人はいないんだもん」

僕は再び妹を抱きしめた。今度は力を加減して優しく。

「私やリサちゃんと一緒にこの時間のない世界で暮らして頂けませんか?」

マリコが僕の隣に寄り添ってそう言った。僕に反論する理由などなかった。僕は天涯孤独の身。元の世界で待っている人はいないし未練もない。

 僕はマリコとリサに向かってこっくりと頷いた。

「良かった。お兄ちゃんならきっと賛成してくれると思ってたよ」

リサが僕を見上げて笑っている。

「じゃあ、この永遠に時間の無い世界をご案内しますね。ここには私たち以外にも沢山の仲間たちが居るんですよ」

そういうとマリコは僕の手を取った。とても柔らかくて温かくて官能的な手だ。リサも楽しそうに僕の反対側の手を握り、僕達は横並びに3人で時間の無い世界を歩き始めた。

 すると、周りに沢山の人の姿が現れたのだ。

「ようこそ永遠の世界へ」

「いらっしゃい」

「ここは楽しくて幸せな世界よ」

「争いも差別も格差も無い世界だよ」

僕の周りにはいろんな年代、いろんな人種の人達が集まっていた。人ばかりではない。動物や植物、鉱物までが僕を歓迎してくれている。

「みんな友達なんですよ」

マリコが言った。

「繋がり合ってるんだよね」

リサも嬉しそうに言った。

もう僕の中には不安も孤独も哀しみも無かった。あるのは歓びと笑いと幸福感だけだった。

時間の無い世界で永遠に年を取らない世界で永遠に全てと繋がり合う。これが僕の求め続けていた世界だったんだ。周りの一人一人に挨拶を返しながら僕はそう思った。

                                           (了)

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― 新着の感想 ―
[一言] おー 短い内容でテーマもちゃんと込みでまとめられてますね。 いいと思います^^ これからも頑張ってください^^
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