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ある男女による孤児院ほのぼの運営  作者: myure
第一章 その瞳に映るモノ
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第三話  孤児院の日常 「村人」

「うぅ〜また負けたぁ……痛たた!?ちょ!?染みる!染みる!っっっ!?

 「動かない。」はい。…リヴァルぅ、もうちょっと優しくしてよぉ〜」


「……十分優しくしてるよ?そういう薬なんだから、我慢しなさい。痛いのが嫌なら

 セイラに喧嘩売ったりしない。……ほらぁ前回の傷もまだ残ってるじゃないか。

 嫁入り前の女の子なんだから気を付けないと」


「セイラは『怪我なんて日常茶飯事よ?体ぁ気にする前に動けやぁ?死にてぇのか!』

 って授業で言ってた。それにリヴァルに貰ってもらうから問題ないもん」


「……それは魔獣との戦いや非常事態の話でしょ?自分から喧嘩を売って傷増やすのとは違うよ。……それに、俺はセイラ以外とそういう関係になる気はないって言ってるだろうに。ほら、次お腹出して?……あぁ、良いの貰ったみたいだね。あざに成ってるよ。……「!?痛っ痛いぃ!」ほら動かない……はい、終わり。傷が引くまでは安静にするように。良いね?」


「……はぁい」


現在、ラーナとリヴァルが居る場所は、孤児院の医務室。正面から孤児院を見て1階、一番左奥の部屋となる。部屋の広さは大体、大人1人用のベット10個分程の部屋だ。部屋の中にはベットが4つ、小さな棚が4つ有り。傷薬や解熱剤、ポーションの類が置かれている。誰かが病気になり、この部屋で夜を明かす時は、リリ、もしくはエクスが居る事となる。何か有った時に騒がずリヴァルかセイラに念話で伝えるためだ。今は、ベットの一つに腰掛け治療しているリヴァルと、薬が染みるのか、半泣きになって耐えている仰向けのラーナがいる。


セイラとラーナの勝負は、何時も通りセイラの圧勝で終わった。ラーナから売った

喧嘩なので、セイラを責めるつもりは全くない。かといって、騒動の原因である

ラーナにも軽く注意するだけに止める。一撃すら当てる事ができず完敗したのだ。

セイラが怪我した訳でもない。反省はしていないようだが、今まで何度も言ってるので改めて言う事もないだろう。セイラとラーナの力量差は分かっているので酷い事にもならない。ただ、


……セイラも女の子のお腹殴って、頭踏みつけなくてもいいだろうに。


やろうと思えば、鼻歌交じりに怪我させず勝つ事が出来るのだ。それに、攻撃するにしても御腹を攻撃する必要は特にない。魔獣や族が相手なら兎も角、『娘』相手にする事じゃない。


まぁ、二人の時間が潰れたのには思う所が無いわけじゃないんだけど……ね


これが、子供達に何かがあったりしたのなら、こんな事は思わない。だが、ラーナに関しては、二人でのんびりしている時に限ってセイラに喧嘩を売るので、狙っているとしか思えない。手当に使った道具を片付けながら、横目でラーナを盗み見る。……半泣きで御腹をさすっていた。耳と尻尾も力なく垂れ下がっている。


「ねぇ?リヴァルぅ〜?……セイラの弱点、教えて?」


ラーナは甘える様に、媚びるように、潤んだ瞳を向けてリヴァルに問う。

本日何度目かの『眼を手のひらで覆う動作』をする。無意識だ。

まるで頭痛を堪えるのかのように。この流れるような動作によどみはない。


「……知らないよ。知ってても言わない。」


「むぅ……。」


頬を膨らまし、潤んだ瞳でこちらを睨む。その様子に苦笑を零し、撫でる様に二度頭を叩いて席を立つ。ラーナの瞳は、まだこちらを追っているが、セイラの弱点等本当に知らない。ある意味俺自身がセイラの弱点とも思えるが、戦闘中では寧ろ逆になる。

……昔、まだ二人旅をして間もない頃。自分の不注意で賊との戦闘中、人質に取られた事が有った。俺に刃物を添え、セイラに対して無条件降伏を要求した賊は瞬く間もなく吹き飛んだ。比喩では無く、突如セイラが消えたと思ったと同時に、俺の真後ろから凄まじい音が響いた。少しの浮遊感を感じた後、背後を振り返れば賊の姿は無く、仁王立ちするセイラの後ろ姿だけ。周りの賊すらも何が起こったのか理解してる様子は無かった。昔からセイラは俺の命が危ぶまれると凄まじい身体能力を発揮する。普段手加減している訳では無いらしく、本人曰く『愛の力』との事。そういった理由から自分がセイラの弱点という訳でもない。


まぁ……村ができ落ち着いた頃。商人達の元へ行くため、何日か空けると言った時の、この世の絶望を感じさせる雰囲気は凄かったが。後日、子供達に聞いたら丸一日寝込んでいたらしいし。


 ******


ラーナの手当を終えた後、壊れた扉を直すため部屋に戻る。リヴァルとセイラの部屋は孤児院の2階、右側の部屋にある。同じ位置の一階には厨房があり、火事等には素早く対処できる様にこの位置となった。部屋の前に着くと扉を取り外し、金具とノブの状態を調べる。金具は軽く曲げるだけならば、リヴァル自身で調整は可能だ。


……ふむ、観る限り使用には問題ないな。金具は調整するだけで良いだろう。

 ノブは……やはり壊れているな。自分でやるより専門家に頼むか。


 金具の調整は自分でも可能と判断し、ノブに関しては村の専門家に頼むこととした。今日中に頼んでおこうと村へ行くこと決める。ノブが無いと扉が閉められない。更に、扉に穴が空いていることが問題だ。夜、子供が部屋の前に来てしまえば教育上宜しくない声と音を聞かせてしまうだろう。セイラと自分の気配察知でも事の途中では気づけない可能性がある。出来れば早く直してもらいたい。

 

 ノブを扉から外し、セイラかリリ、エクスの誰かを探す。村に行くなら一言声を掛けておこうと思ったからだ。リリとエクスなら念話でセイラに伝えられる。こういった時、念話が使えたらと思う。どういった理由か人族、亜人族には念話が使えない。念話が使えるのは体の構造上、言葉が発せない者だけらしい。セイラを探すより、リリかエクスを探した方が早いと考える。リリとエクスはこの時間帯、裏庭の子供達を見守っているだろう。階段を降りてそこへ行こうとした時、窓からセイラを呼ぶ声が聞こえる。窓から裏庭を見ると、セイラと年少組の子供達が仲良く遊んでいた。


……あれは、確か『ぼーる』?だったか?


木を球体に削り、衝撃緩和用に動物の毛皮を何重か巻いたものだ。セイラが言うには、本当は薄いゴム?と言う物質に空気を入れる物らしい。そうすれば当たっても余り痛くなく、地面に当たると跳ねると言っていた。子供用の遊戯にはこれだと言って、随分前に作らされた。当時、遊び方が分からず子供達と一緒に説明を聞きながら遊んだことを思い出す。


……そういえば、セイラは昔から俺の知らないことを良く知っていたな。

 

本を読んでいる所など見た事ないのに、どこから情報を入手しているのか。以前聞いた時は『ヒ・ミ・ツ♪女にはいっぱい秘密があるのよ♪』と言って教えて貰えなかった。……俺は女の秘密を聞きたい訳ではないのだが。そういった本があるのなら教えて欲しかっただけであって。何はともあれセイラを見つけたので、声を掛ける事にした。


「セイラー!ちょっと村まで行ってくるよー!」


「?……あ〜!とうさま〜!」

「とうさまー!ぼくもー!僕もいきたーい」

「リヴァにいちゃー!ぼくもぼくもー!」

「あたしもー!」


窓を開けてセイラに向かって声を掛けると、セイラと子供達は俺に気がついた。

内容も理解したらしく、セイラは頷き、小さく手を振っている。子供達は村に行きたいらしく、手を振り自分を主張するようにピョンピョン飛び跳ねて声を上げている。


「ダーメ!……また今度ね!」


子供達の要望に対して手で×を表現し、言葉を返す。その事に不満だったのか、こちらに向かってそれぞれ文句を言っている。それに苦笑を零し、セイラに眼で語りかけた。セイラは、俺の言いたい事を察した様子で頷き、子供達の気を引いていく。


窓を閉めて階段を降り、孤児院を出る。村に行くには道なりに歩けばすぐだ。

村までの距離は約300メートル、道幅は約5メートル程で畑に挟まれている。今日は、孤児院の『授業』が休みなので、10歳以上の子供達が畑仕事の手伝いをしているのが見える。気づいた子供達が手を振っているので、こちらも振り返す。10分程歩くと段々と家々が見えてき、相変わらず口汚い言葉の応酬が聞こえる。村の中に入ると、『彼ら』はこちらに気づき次々と言葉を掛けてくる。


「『若』!?お久しぶりっす!今日はどういった!?てめぇ!こっち来てんじゃねぇぞ!お前ぇの醜い面ぁ、若の視界に入ったらどう詫びいれるつもりじゃぁ!」


「若じゃないですか!?久しぶりでさぁ!てめぇーらぁ!若が御見えになったぞ!!……おい!何ボサっとしとんじゃボケぇ!村の連中掻き集めろやぁ!」


「若!今日は『姐さん』と一緒じゃねぇーんですかい?おら!てめぇは口を開くんじゃねぇー!くせぇ息が若に掛かったらどうすんじゃクソがぁ!てめぇの糞穴にナイフ突っ込んだろかぁ!」


「若!お久しぶりです!……んだとコラァ!……」


「若!……」「若!……」


村に入った途端、村人全員この調子だ。リヴァルの事を『若』と呼び、引切り無しに声をかける。眼つきが鋭く、体の至る所に矢傷や裂傷痕が見られる人族、亜人族が入り混じった男女。中には体の一部が失われている者もいる。揃って人相が悪く、放つ言葉はリヴァルへの挨拶か他の者への罵倒。殴り合いの喧嘩に発展している者達もいる。それでも、みんなどこか愉しげな雰囲気を纏わせている。


まったく……来るたびに『これ』ではな……


そう、『彼ら』はリヴァル達が来ると毎度飽きずに同じ事を繰り返す。リヴァルが何度止めても結果は同じだ。そして、『これ』が年少の子供達を連れてこれない理由でもある。こんな強面な連中が集まってくる中に連れてくれば怯えてしまうだろう。そして、口も悪いので教育的に良くもない。一応、その日のうちに足を運び言い聞かせて置けば大丈夫なのだが、それも翌日には効果を無くす。


彼らは、セイラと共に旅をしていた時、何に惹かれたのかセイラを『姐さん』と慕い、引っ付いてきていたのだ。姿は見えない距離にいたとの事だが、セイラ達が村を作ろうと考えた時、そこに住む事を望み許可を出した。現在は村に300名程の人数がいるが、当時は500名以上おり、差数は他の町や都で各種職人の元で技術の習得に励んでいる。技術を収めると戻ってくるそうだ。今村にいる職人達は、基本的な事のみを学んで戻ってきた者達なので、技術的には良いとは言えない。

しかし、7年近く各種方面で頑張った御蔭か、悪いとも言えないものになっていた。


集まってきた村人に挨拶を返し、集まる必要、集める必要は無いと言い含める。

喧嘩に関しては放置し、ある程度騒いで満足したのか各種仕事へと戻る。人の波が収まったのを見て、目的地へ再び足を進める。今向かっている所は小物細工を営んでいる店だ。主に日常的に必要な小物を作っている。孤児院にある扉のノブを含める小物類を作ったのもここだ。……ここ数日置きに顔を出している店でもある。


村に入って200メートルも進むと見えてきた。村の家はどれも似たような物だが看板を立ててあったり、家の前で商品を並べるなどして区別している。目的の店に着くと、そこには先程いた強面の者達とは違った柔ない雰囲気を纏った女性が立っていた。彼女もこちらに気づいたのか顔を更に綻ばせる。


「リヴァル兄さん!いらっしゃいませ!」


「久しぶり……なのかな?元気そうだね『カナリア』」


「はい!えっと、前顔を出されてから……三日程ですか?もしかして『また』ですか?」


「うん……『また』何だ」


「うふふ♪ラーナちゃんも相変わらずですね。でも、愛されている証拠ですよ」


「父親としては嬉しい半面、複雑でもあるよ。もう独り立ちしても良い頃なんだけどね〜」


彼女の名前は『カナリア』、以前は孤児院で暮らしておりリヴァルとセイラの『娘』だ。身長は160程、栗色の髪を肩下まで流し、大きな瞳には人懐っこい愛嬌を感じる。昔から手先が器用で小物を作っていた。孤児院に来た時は10歳でリヴァルの事を『リヴァル兄さん』と呼ぶ。リヴァルとセイラの授業を終えて、ここの店主に弟子入り、恋仲となり昨年晴れて結婚した。


「カナリア〜?客か〜?それとも、またどっかの糞共が冷やかしに来やがっ……た……!?わ、若!?すいやせん!出迎えもしねぇで!ささ、そんなとこより中へ!」


「久しぶりだね『ドルト』。そんなに慌てなくてもいいよ。今日は……その、ね。また頼みたくてね。これを……」


彼の名前は『ドルト』カナリアの夫であり、この店の店主でもある。190に届くかという巨体で額から左頬に掛けて刃傷が走っている。口周りは髭に覆われ、カナリアと並ぶと美女と野獣だ。巨体に反して手先が器用で、大きい体をこれでもかと小さくして作業する姿にセイラは腹を抱えて笑っていた。


「は、はぁ。また……ですかい?前回直してから一週間と経ってやせんが……」


「うん……出来れば今回も早めにお願いできるかな?後、強度を上げるとかってできるかい?」


「村も落ち着いて来てるんで、それは大丈夫でさぁ。何より若の頼みとありゃ〜やらねぇ訳にゃいかねぇ。じゃねぇと姐さんに殺されちまう。……しかし、強度ですかい……こういった細かい材料使った小物だと素材事態を変えねぇと……分かりやした。できる限りやってみます」


「ありがとう。相応の代金は払うよ。あぁ、難しいなら何時も通りでも構わないから、無理しちゃ駄目だよ?カナリアを預けているんだからね」


「若から金なんざ貰えねぇ!と言っても無駄なのは分かってるんで有り難く頂きやす。カナリアについても任せてくだせぇ。幸せにしてみせやす。時間は、そうですね?強化にはどれだけ時間掛かるかわからねぇんで、先に以前と同じもんを渡しておきやす。二日後には出来上がるんで」


「それでお願い。……どう?最近何か情報入ってきたりする?」


「情報ですか……そういえば最近『冒険者』の姿がちらほら見かけやすね。この周辺には『ダンジョン』も薬の材料に成る物もねぇはずなのに」


「冒険者が?……う〜ん見当が付かないな。ありがとう。近々『領主』が査察に来るからその時聞いてみるよ。じゃぁ今日は帰るね。ノブの件は頼んだよ、二日後に取りに来る。カナリアも体を大事にね」


「はい♪ありがとうございます♪リヴァル兄さんも体には気を付けてください。セイラ御姉様やラーナちゃん達にもよろしく言っておいてくださいね」


カナリアの言葉に頷き孤児院へと帰る。ついでに食材を買うのも忘れない。家路を歩きながら、リヴァルは先程の会話を思い出していた。


冒険者……か。彼等を度々見かけるということは国や町、村間の移動の可能性もあるのだが。この村は国交間を繋ぐ国道から随分外れている。ドルトが言っていた用に『ダンジョン』等、冒険者達の目に留まる様な物もないはず。

はぁ……『厄介事』の匂いがするなぁ……


傾き始めた日の光を背に、リヴァルは今後の事について心なし肩を重くして歩いていく。


「先ずは金具の調整をするか」

やはり、初めの方だと説明が多くなりますね。

設定集は粗方できてるので、それを載せても良いんですが……

どっちの方がいいのかな?

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