表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある男女による孤児院ほのぼの運営  作者: myure
第一章 その瞳に映るモノ
2/15

第一話  孤児院の日常

エルイムナ大陸


人族、亜人族と呼ばれ区別される人々が共に暮らしている。

そして、人々の良き隣人として精霊が、

障害として『魔獣』と呼ばれる化物が存在している世界。


人族には、大陸の南東、南、南西にそれぞれ最も大きな王国があり、

その周辺には小国が多数存在している。


大陸の南東に位置する大国、『ヴィナ王国』。

そこに住む人々の多くは知識欲が高く、日々魔法や魔獣についての研究を行っている。

大陸の南に位置する大国、『ミュレ王国』。

そこに住む人々の多くが穏やかな性格をしており、日々農作業に勤しみ、笑顔を零している。

大陸の南西に位置する大国、「フィオ王国」。

そこに住む人々の多くは武芸に優れ、日々己を高めている。


それぞれ大国の王は、代々善政を行い。民から愛されていた。


亜人族と呼ばれる者は、自分達の性質、環境に合った大国と良好な関係は持ち。

互いに協力関係を築いている。


多種に及ぶ一部の亜人は、己が知識の向上、研究を求めて『ヴィナ王国』と。


エルフ族、ホビット族、有翼族と呼ばれる亜人の多くは、

自然と共に穏やかに生きる『ミュレ王国』と。


ドワーフ族と呼ばれる亜人の多くは、

自分達の鍛えた武具に心から信頼し命を預け、感謝する『フィオ王国』と。


多種に及ぶ亜人族の中で、殊更個々の性質の違いが顕著な獣人族もそれぞれの国と共に協力関係でいる。


小国同士の小競り合いは有るが、

大国同士が絡んだ争いは最も古い文献を調べても約5000年間行われていない。

これは、何十代にも渡る善王の存在と、全種族の敵である『魔獣』の存在。

そしてなにより、約300年事に現れる『魔王』の存在が大きかった。


『魔王』の力は強く、幾多の魔獣を従え襲ってくる。

これを対処するには人族同士はもちろん、亜人族との協力は必要であった。

さらに、『魔王』が誕生すると共に現れる『勇者』の存在。

『勇者』は、国、身分、種族を関係なく惹きつけ、魔王討伐を行う。

互いの関係を再認識させる結果となった。


時に、新たな歴史を刻んだ『魔王』が、『勇者』によって討伐されてから10年。

大陸の南に位置する『ミュレ王国』から北東、

『ヴィナ王国』の領地から程近い場所に一つの村があった。

緑溢れる平野の中、まだ真新しいと思われる家々が建ち並び、住んでいる住民も300人程。

口汚い罵声が飛び交い、人相の悪い人々が殆どだ。

しかし、不思議と殺伐とした雰囲気はなく、笑い声も絶えない。


村の奥に1件、木でできた二階建ての家がある。

ただし、村にある他の家の約5倍程もあろうかという大きさだ。

『屋敷』と呼ばれるほど上品な見た目はしていない。

まるで建築の素人が知恵を振り絞って建てたかのように、

ところどころ補強した跡が見られる。

家の廻りを人族、亜人族の子供達が泣き、笑い、戯れている。


村の名前はミュレ王国領内『アイノス村』

この物語の舞台となる。



第一話 孤児院の日常



時間は昼下がり。

窓から日差が入り、優しい風が頬を撫でる。

外からは子供たちの元気な声が耳に入り心を穏やかにさせる。


木製でできた壁に囲まれた部屋、その中に置かれている高級感漂うソファーに1組の男女が座っている。座っていると言っても、女が男を膝枕している状態である。互に沈黙しているが、気まずい雰囲気はそこにはない。


女の方は上下に蒼色の服で統一し、白のカーディガンを肩に掛けている服装。

腰まで伸ばした黒髪を首の後ろで縛り、見た目はまだ18歳程に見え、身長は170前後、スラリとした体型をしている。膝から下を顕わにし、白く絹のような足が眩しい。顔の造形は、10人いれば10人見惚れる程整っている。


そんな女は今、穏やかな表情で膝に乗せた男の髪を撫でている。


男の方は黒のズボンに茶色のシャツを着ている。女と同じ黒髪は肩まで伸ばし、歳は女と同じ18歳程に見える。身長は180近く、男にしては細い体型をしているが、貧弱な印象は受けない。顔の造形は美形と言う程ではないが、整った容姿をしており、女と同じように穏やかな表情でされるがまま、眼を閉じている。


男は身を預けたまま穏やかな時間を過ごしていると、まるで駆けている様な音が聞こえてくる。

聞こえてくる音は段々と大きくなっていき、こちらに向かって来ていることが予想できる。

嫌な予感はするが、自分から動く事は特になく。杞憂で有ることを祈った。


音はダダダダっと聞こえてき、音の主は急いでいることが伺える。


床、抜けたりしないだろうか……一応定期的に見ているけど、早めに確認しておこう。


男は床の確認作業をすることを手早く決めていると、その音は部屋の前でふと止まる。

聞こえてくる音が無くなったが、先程感じていた穏やかな雰囲気は既に無い。少なくとも男には。

女の方は、今まで何も聞こえてこなかったかのように、先程と変わらず男の髪を撫でている。


バン!!「セイラ!今日こそリヴァルを貰うわよ!!」


扉は勢いよく開け放たれ、内側の壁と衝突した。部屋に身を入れ、

男を膝枕していた女と男に向かって順に指指し、そう宣言した。


入ってきたのは女性。金色に輝く髪を肩で切りそろえ、強気な性格を思わせる眼は更に鋭くさせている。歳の程は15、16歳。まだ少女を思わせる容姿である。服装は、動きやすいようにか膝下まである灰色のズボンに白いシャツを着ている。また、彼女の体には特徴的箇所があった。


それは頭の上に付いており、獣を思わせる『耳』が二つ。そして、人族には無い『尻尾』である。

彼女は、亜人種の中で獣人族という枠組みに入る。その耳と尻尾は、見る限り犬を思わせるが、正確には狼の獣人である。


……またか


『リヴァル』と呼ばれた男は、早くも疲れたと言わんばかりの雰囲気を出しながらゆっくりと瞳を開いた。


「ラーナ、家の中で走ったら駄目だと何度も言ったろう?床が抜けたらどうする?

 それに扉もゆっくり開けなさい。……ノブが壁にめり込んでないか?それ。」


「う……いや、これは……はい、ごめんなさい。でもリヴァル?

 私はそこの女からあなたを助け出そうと、って無視してんじゃないわよ!セイラ!」


『ラーナ』と呼ばれた女性は、以前にも同じ事をしてリヴァルに怒られている。

状況は今とまるで同じだ。

小さく溜息をつき、床の確認作業にノブの修理を加える。

現在進行系でラーナが食って掛かっている女性『セイラ』は、ラーナを居ない者と扱い、

穏やかな微笑を浮かべている。その微笑みは聖女と言われても過言ではないだろう。


初めからこの状況を見ていれば別であるだろうが……


「ちょっと!セイラ!聞いてるの!?

 ……はんっ、耳でも遠くなった?もう年なんじゃ「あぁん?」な……い?」


声自体は綺麗なソプラノだが、ドスの効かせた物言いで台無しだ。

その声は上から聞こえた。正確には自分を膝枕している女性から。

そっと体を起こし、女性『セイラ』から距離を置いて座り直す。


「てめぇ……ラーナァ?私の至福の時間を潰した挙句、言うに事欠いて年だぁ?

 そもそも『母親』を呼び捨てたぁ随分偉くなったもんだなぁ?えぇ?」


あ、この顔以前見たことあるな。片目を細めて下から覗き込むような……確か、王都で町人脅してるチンピラがしてたのとソックリだ。


「き、聞こえてるんじゃない!返事位しなさいよ!それに恋敵に母親も何もないわ!

 今日こそ、あんたを負かせてリヴァルを貰う!」


「お前も懲りねーなぁ。今日で何回目だ?良い加減諦めろやバカ娘。

 そもそも私とリヴァは相思相愛だ。お前も1回リヴァに告って振られてんだろうが。」


「!?……うぅ。か、関係ないわ!あんたさえ倒せば、後はどうにかなる!」


セイラの言う通りだ。以前からラーナに好意を寄せられていた事は感じていたし、実際に告白された事もある。しかし、自分にとってラーナは娘以外の何者でもなく、愛しているがそれは「家族愛」だ。自分がセイラを愛していることもしっかり伝えた。そもそもの話、何故セイラに勝てば自分を手に入れるという話になるのか……。


娘の考えは『父親』には分からない。理由も教えてくれないし。

後、どうにかなるってどういう意味だ?ぱっと頭に浮かんだ方法に背筋が寒くなるんだが……。

薬盛ったりしないよな?


育て方……間違えたかなぁ?


窓から見える青空に視線を送り、子育て方法について自問自答していた。

当人を置き去りに続く両者の会話もいつもとと同じ方向へ終結しつつある。


「……リヴァを私から奪うたぁ良い度胸だぁ。教育してやんよ!」


「望む所よ!今日こそあんたの鼻っ柱へし折ってあげるわ!」


「……家、壊さないでね?やるなら外でしてくれ。」


リヴァルの嘆息混じりの声は、小さいながらも部屋に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ