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18話 春男の怒り

春男の怒り


春男は沈黙が怖いから多く話すというわけではない。春男が沈黙するときは、彼が怒っているときなのだ。

オレはその日、編集長に呼ばれた。北海道に逃げた先生を追って原稿を取りに行ってほしいということだ。

その女性作家の担当者の石井さんから作者が行きそうな場所リストを受け取った。何年かに一度のスランプで田舎に帰るらしい。その行き先が北海道、しかし担当者は飛行機が苦手なのだ。

オレはその作家の先生を捕まえるまで、春男の担当者が入れ替わることを春男に伝えた。春男はいつもの口調で、オレに土産を頼んだ。

その作家先生を捕まるまで三日かかったが、その間に作品は出来上がっていた。スランプからはあっさり抜け出せたらしい。女性作家の彼女は石井さんが飛行機が苦手だと知っていたから北海道まできたそうだ。ついでにさんざん愚痴を聞かされた。

オレは原稿だけは先に送って、土産を買ってあさってには帰ると夕方、編集長に電話をするとすぐに帰ってこいと言う。

「なにかあったんですか?」

「お前の担当作家がいなくなった。どっか行く心当たりはないか。」

「春男がですか?」

 オレは呆然とした。心当たりなど、あるわけがない。彼は一度たりとも、いなくなったということはないという比較的真面目な作家なのだ。すぐにオレは担当を変わった、東郷に電話をした。

「春男がいなくなったって?どうして?」

「はい。理由はわかりません。手紙を残していなくなったんです。担当が変わらない限りは書かないと。佐々木さん、早く戻ってきてください。」

彼は泣きそうな声で言った。

オレはため息をついた。あわてて、ホテルを出て適当に土産を買った。センスのかけらもないと思いながら。次の早朝には家にも帰らず、そのまま会社に戻った。まずは東郷に会った。編集長にかなり怒られたのか、顔が疲れていた。

「春男さん、最初は笑顔だったんですけど、段々と黙り始めて…仕事に集中しているからだと思っていたんですけど。買い物を頼まれて、でかけて帰ってきたら…いなくなってたんです。」

行き先に心当たりはない。なぜなら、春男はあまり外にはでない人間だからだ。まずは実家だ。実家には春男の妹がいた。実家には帰ってきていないという。

もうお手上げだ。本当に心当たりがないのだ。とにかく、荷物を家に置いていこうと家に帰ると、春男がいた。

「やぁ、帰ってくるの、早かったね。」

 ごろりと横になったままで春男が言った。オレはやっと思いだした。何かあったときのために、オレの部屋の鍵を春男に渡してあることに。

「お前、誰のせいだと…。」

段々、腹が立ってきて、オレは怒鳴りそうになった。が、よく見るとオレの部屋がかなり片付いている。

「きれいだな。掃除したのか?」

「うん。原稿の間に掃除したんだ。あ、作品出来たよ。」

「お前、なんで脱走したんだ?東郷のやつ、泣きそうだったぞ。」

「人間、合う、合わないってもんがあるだろう?彼は合わないんだ。それでも三時間は我慢したんだ。もう、無理。」

 春男は相当、ご立腹の様子だ。怒る春男を見たのは学生時代以来だ。なにがあったのやら。

「担当が変わらなかったらどうするつもりだったんだ?」

「作家をやめるところだった。」

 あっさりと春男は言った。とにかくオレはすぐに春男が見つかったと会社に連絡した。春男は怒らせると作家を止めることがわかった。担当者には、どんなことよりも怖い話だ。


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