15話 動物の声
動物の声
「あれ?ペットでも飼うのか?」
いつもはきれいに片付いている春男の机には、めずらしく雑誌が置かれていた。
春男の机には椅子がない。パソコン用と兼用で、それも机まで椅子のローラーで転がりながら行けるようになっている。四五度、横に行くだけで机に向かえる。面倒くさがりな春男らしい。
机の上にある棚には、沢山の資料がのっている。乗っているのが今回の作品に必要な分だ。
他の資料は大きな本棚に入っている。本棚の資料内容ごとに分けられている。そして分かれている部分に型紙がさっさっていて、資料内容が書かれている。なにがあるのか一目でわかるようにということらしい。
いつ、見てもきれいに整頓されていて感心する。これは全部春男の親父さんがやってくれたものらしい。しかし、なにも知らない人が見たら、春男のことを細かい男だと思うか、春男の母親が細かい人だと感じるに違いない。春男に彼女が出来る日はまだまだ遠そうだ。
さて、なぜペットを飼うのかと聞いたかというと、机の上の雑誌がペットが載っているものばかりだったからだ。
「ああ、それは、今回の話の資料だよ。見ている分にはかわいいんだけどね。」
「ペット雑誌が?」
オレは手にとってめくってみた。かわいい動物が写っている。
「そう。人は、動物が人の言葉を話せたらいいと、そんな薬を発明するところから今回の話は始まるんだ。」
「それで?」
「最初は喜ぶんだよ。ペットと話せるなんて理想的だろう?」
「肉が食事のメインのオレにはあんまりいい話に聞こえないがな。」
「それだよ。ペットと食べられる動物の間に差が生まれるようになるんだ。それと同時に、ペットたちは言葉を話すうちに嘘や見栄を覚えていくんだ。」
「嘘?」
「そう。自然に帰りたいって動物もいれば、もっといい飼育管理をしてくれるところに行きたいと言ってみたりするんだ。人間だって、よりよい生活を追い求めるものだろう?」
「それで?」
「彼らにも流行ができて、ペット自身が望む服を買うようになっていく飼い主たち。どぉ?」
「売るメーカーは大もうけだな。」
雑誌には、ペット用の洋服がたくさん載っている。紐や靴まで売っている。
「でも、意見の主張ばっかりするペットが欲しいかい?」
「いらん。」
「そう。たくさんの飼い主たちがペットを捨てるようになる。ペットたちも嘘をついてでも生き抜こうとする。外来種の人より優れたペットたちはある日、人を支配するようになるって話にしようかと思って。」
春男はにっこりと笑った。
「支配って、どうやって?」
「たとえば、魚は団結して捕まらないようにするとか。食べる動物たちが集団脱走するとか。人間の方が強いけど、それは動物がしゃべらないから強くいられると思うんだ。」
「なるほどね。怖い話だな。最初はほのぼのした感じなのに。」
「んー、でも雑誌をみているとなんでも言うこと聞きたくなるほど可愛いんだよねー。僕なんかはすぐに言うこと聞いちゃうから駄目だな。まぁ僕は忙しくて散歩さえも行けないから飼えないけど。」
「オレもだな。実家の方では、今度、鳥を飼うようなことを言っていたが。」
「動物やペットが話せるようになったら、九官鳥はどうするんだろうね。」
「どうするって?」
「人のまねをする必要がなくなっちゃうじゃない。」
どうなるんだろうと、オレは春男の原稿が上がるのを待ちながら、考えた。




