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9話 流行を追いかけて

流行を追いかけて 


 春男がやっぱり作家たるもの現代のことをよく知っていなければならないと言い出した。

 おかげでオレはよく内容もわからないまま雑誌を買い込んだ。外の暑さを考えて、輸送も考えたが、そんな金が春男にあるとは思えない。結局オレが持って帰るはめになった。本を買っているのは、最新のものが載っているのは雑誌だろうと春男が言い出したからだ。

「最新といえば、テレビじゃないのか?」

「テレビももちろん見るけど、いつやるかわからないからね。」

 これが春男の反論だった。

 ただでさえ本が多い春男の部屋なのに、また雑誌で本が増えそうだ。この間新しい本棚がきた。通販で見付けたそうだ。しかし、そのせいで、オレがいつも座っているソファがもっと隅に追いやられてしまった。その本棚も、来たその日にほとんどが埋まってしまった。

「ほら、買ってきたぞ。」

 ドサリと音でもしそうな量だ。料理本と辞書、語学とパソコン以外の趣味の本はなんでもあるといっていい。行った気分が味わえるかもしれないと、春男が絶対に行かない釣りや山の本まである。

春男の部屋が、クーラーが効いてなかったら、倒れていたかもしれない。

「ありがとう。ところで、カラーバンドって知っているかい?」

「カラーバンド?なんだ、そりゃ。」

 暑い中ぐったり歩きつかれてぐったりと座り込んだオレに、春男はさすがに悪いと思ったのかお茶を入れてくれた。

「駄目だね、現代についていかなきゃ。ゴムでできた腕輪なんだけど、色によって意味が違うんだよ。これで、意志や思想、募金なんかを兼ねるんだよ。」

 そう言われてみればそんなものを電車の中でみた気がする。しかし、なんとなく、外に出ない春男に言われると悔しい。

「最近はマグネットもあるんだよ。」

 春男はぺらぺらとそれを曲げて見せてくれた。

「磁石?」

「そう。車とかに貼って主張するんだよ。冷蔵庫にもくっつくけど、それじゃ誰も見てくれないからねぇ。とりあえず、三つあるけど、いる?」

「へぇ。一個貰っていくぞ。冷蔵庫に貼る。」

「いいよ。それにしても、大変だね。作家じゃないと、主張するのも。」

 オレはふと思った。まるで、春男は本の中で何か主張しているような言い方をしたからだ。作品の中で、何か主張していただろうか?

 最近で思い出せるのは、道路に塩分を入れたら雪が積もりにくくなるのではないだろうかというようなことだった気がする。ニュースを見て思ったそうだ。主張というよりは、思いついたアイディアを言うだけ言ってみたというような感じだ。

「しばらくは、これで、本はいらないな!」

「そうだねぇ。」

 春男はいつものようにのんびりと答えた。まだ必要だといわれたら、

 それからしばらくして、次の作品が出来上がった。しかし、内容を読んでみると、オレがあんなに苦労して買ってきた雑誌たちが、役に立っているような気がしない。

「なんでだ?」

オレは理由を聞いた。

「最新ってさ、時間は動いているんだよね。僕が書いて本になる前にさびれちまうよ。」

 オレの腕が抜けそうになりそうになりながら、あの暑い日差しの中、本を抱えてきた苦労はきれいに無駄になったようだ。最新の情報なんてオレには疫病神でしかなかったようだ。

 オレはあのあと、しばらく腕の筋肉痛になったというのに……。今度から本は自分で買ってくるようにさせようとオレは誓った。


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