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7話 煙だらけの夏

煙だらけの夏


 春男の家のドアを開けた瞬間にオレは呟いた。

「またか……。」

 夏になると春男の家の中は煙だらけになる。その煙が黒かったら火事を想像するが、そうではない。すぐ先の部屋の輪郭が見えないほど白くなっているのだ。

「春男、窓開けるぞ。」

 まっすぐオレは窓にと駆け寄った。返事は待たない。待ってる場合じゃない。

「そんなに煙い?」

「ひどすぎる!」

 オレは窓を開けた。深呼吸して、やっとほっとする。

「暑いよ。」

ずっとクーラーの下にいる春男がまず文句を言う。

そんなものはほっといて、煙が外に出て部屋の輪郭が見えてきたら窓を閉めた。せっかくガンガンにクーラーが効いていたのが、半減したようだ。しかし、煙たいよりもマシだ。

 こんなに部屋が煙だらけの原因はわかっている。春男の側でゆらゆら煙を上げている蚊取り線香だ。

「蚊がいたのか?」

「昨日の夜ね。」

 オレは壁に掛かっている時計を見た。もう昼に近い時間だ。

昨日見つけてから、ずっとつけ続けている。これでは、蚊を追っ払っているというよりも、春男のくんせいでも作っているかのようだ。

 春男自身は夕方になると、電気をつけたときに電気の周りの煙で部屋の中がだいぶ白くなっていることに気がつくみたいなのだが、それまでは気にならないようだ。

「原稿は?」

「もうちょっとで渡せるよ。」

 ちょっとしゃがれた声で言った。クーラーのせいでのどが乾燥したのだろうか?

 春男のいる場所はクーラーか扇風機があたっていて本人はそんなに煙くないようだが、外からくると部屋全体が真っ白でむせるようだ。

 そのうち、外にも白い煙が見えて火事だと誤解されるのではないかと、ときどき怖くなるときがある。水でもかけられたら、原稿が駄目になってしまう。

 春男は滅多に買い物にいかない。その春男が、夏の間は買い物に行くたびに蚊取り線香を買ってくるので、必ず三缶は置いてある。秋が近くなっても、完全に蚊の季節じゃなくなるまでたき続ける。

この大量の煙のおかげで、作品が上がるのを待っている間に線香の匂いがオレの服に染み込む。オレも春男もタバコを吸わないのに、似たような匂いに悩まされる。迷惑な話だ。

 これだけやって、まったく蚊に刺されないと言うならまだしも、油断すると刺されているようだ。コンセントに差し込むタイプは匂いが合わないからと言うが、オレには線香の火のほうが怖い気がする。

「はい。」

 春男が印刷して出来上がった原稿をしまうと、オレは外に出て言った。外は暑いが空気は良い。

「煙で、喉をやられるなよ。」

「もう悪くした。」

「風邪は引くなよ。」

 そういえば、声を出すのが辛そうだった。煙のせいだったようだ。

 そして、これが引き金で風邪を引くことがある。毎年これじゃ、いいのか悪いのか、よくわからない…。

煙の少ない物もあるはずなのに、効いている気がしないとあえて煙の中、夏を過ごしている。この時期になると早く蚊がいなくなるといいなぁと、オレは心の底から思うのだ。


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