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3話 梅雨

梅雨


雨が降って湿気の多いこの季節。今日はめすらしく休日で、オレは家でゴロゴロしていた。

でかける用もなく、一緒にでかける人もいない。恋人を作る暇もないと、言い訳にしている。

そこに春男からメールがきた。オレは携帯を二台持っている。仕事用とプライベート用だ。春男には一応、両方教えてある。そのメールはプライベートの方にきた。春男は律儀に使い分けている。

メールを見ると。

『ナメクジがスーツのズボンにいたら教えてやるべきか』

「あいつは、どこで、なにやってるんだ?」

 思わず言ったのも無理はないと思う。さて、そんな場面に自分が出くわしたらどうするか、考えて返事をした。きっちり返事をしてやるところがオレの律儀なところだと自賛している。

 『教えない』

 『わかったー。』

 そんな単純なやりとりがされた。そして、オレはまた布団に潜った。しかし、気になった。なぜにナメクジなのか。作品にでてくるのだろうか。

 翌日、春男の家に寄った。

 春男の家のソファはかなり座り心地がいい。体がしずむ感じが気に入っている。

「おい。昨日のメールはなんだったんだ?」

「昨日のメール?」

 今日も春男はパソコンに向かっていた。春男は自分が打ったメールの内容も忘れていたようだった。こんな事では驚かなくなった。よくあることだ。

「ほら、ナメクジの話だ。」

「あー、あれ。昨日、ひさしぶりに電車に乗ったんだ。ほら、休みだったから。」

「でかけたのか?」

「うん。話の種を探しにね。そうしたら、隣に座っていた男性のスーツのズボンにナメクジが歩いてた、というべきか、はっていたもんで。」

「本人は気がついてないようだったのか。」

「うん。本人は電子本を読んでいたからね。見えなかったんだと思う。教えてやるべきか、ちょっと悩んだんだよね。」

 オレは眉をひそめて聞いた。なにかあるのではないかと疑り深くなったようだ。

「…それだけか?」

「うん。結局、メールに従って教えずにいたけど。」

 オレはほっとした。

 そして、そんなメールのことは完全に忘れていた。

時間がたって、上がった原稿の主人公たちの出会いがナメクジを見つけるところから始まるまで。ナメクジを足に挟んでいた傘に移して草むらに置く男性に主人公の女性がうっとりするところから物語が始まるのだ。

「おい!今回はロマンスものだろう?」

「そうだよ?」

 平然と春男は言った。

「出会いがナメクジってなんだ!気持ちが悪いだろうが!」

 オレはため息をついた。こんな出会いがあるわけがない。鳥や犬ならまだしもナメクジとは!

外ではまだ雨がしとしとと降っている。雨さえもオレのことを笑っているかのようだし。梅雨はまだまだ終わらない。

また、こんな物語が書かれることがあるかもしれないと思うと憂鬱な気分になった。


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