14話 五人目の編集者
五人目の編集者
ついに!ついにやってきた。新しい編集社員。秋本 洋子さんという。他の会社から移ってきたそうだ。それを聞いたのは、俺が風邪倒れる前日のことだった。
前から軽くひいていた風邪が一気に悪化し、緊急に入院することになった。注射くらいで治ると病院に行ったのが間違いだったようだ。
その日、オレが入院をしてから一週間ほどたった頃だった。編集長は彼女を代わりに春男の所へ出したらしい。それが間違いだったと、しばらく編集長は自分を呪うかのように嘆いていた。
翌日のこと。春男の原稿と一緒に、彼女は辞表を出した。俺が風邪から復帰して戻ってくる頃には、春男には新たな伝説が出来た。それも、編集社員が三日でやめる作家と。これまた、よくない噂だ。
「なにがあったんですか?」
オレは編集長にかみついた。まだ彼女の顔も見ていないというのに、戻ってみたらいないとは。
「私だって知りたいくらいだ!理由は一身上の都合としか書いておらん!なにがあったのかは、あの作家に聞け!お前の担当だろうが!」
編集長も頭を抱えて、胃の薬を飲んでいた。気のせいかもしれないが、もともと少なくなり始めていた髪がなんとなく薄くなった気さえする。
オレは春男の所に行くことにした。その方が早そうだ。
「あれ?風邪はもういいの?」
春男はドアを開けるなり、言った。春男にはメールで風邪のことは教えていた。
「ああ。もう治った。それよりも、どうしてたった三日で俺の代理がいなくなるんだよ。オレなんか、一度も顔を合わせなかったんだぞ。」
オレは奥に行く春男について行きながら、さっそく苦情を言った。
「うん、それが彼女、南極に行くって。」
さらりと言った春男の言葉に、オレは思わず聞きなおした。
「は?な、南極って、あの、南極?」
人の口はこんなに下がるものかというほど、あんぐりと口が開いた。あまりにも予想外の言葉が聞こえたからだろうか。
「うん。彼女、もともと南極の現地調査に行きたかったみたいで。大学院でもそっち方面の研究をしていたらしいんだ。僕と話しているうちに決めたみたいだよ。」
「なにを言ったんだよ!」
オレはやっとのことで言った。
「聞いただけだよ。南極の氷を削って砂漠に持って行ったら、砂漠はなくなるのかって。ほら、氷が溶けて雲になって雨を降らせるのかと思って。北極の氷でもいいんだけどさ。どうかなと思って。ま、予算のことはさておきだけど。」
「それで?」
「調べてくるって。でね、わかったら教えてくれるって。今度は砂漠に誰か調査に行ってくれるといいね。そしたら、あたらしい話が書けそうだ。」
春男はいつも通りにパソコンに向かった。そしてオレは力なく、ソファに座り込んだ。
おそらく、また誰か新しい編集社員が来たとしても春男の所には寄こさないだろう。オレはいつまでたっても、おそらく彼の担当だ。オレは、風邪で少しやせたが、それがストレスで太って、すぐに元通りになるような気がした。
次の日、編集長に秋本さんが南極へ行ったらしいことを伝えた。編集長もまた、同じように口をあんぐりと開けた。そして、ショックから立ち直ると、オレに言った。
「お前以外、彼の担当は無理だ。頼むから、倒れないでくれ!」
その様子はなんというべきか、神に祈るような様子だった。オレはため息をついた。




