2話 出会いの季節
出会いの季節
時々、自分の人生の出会いを呪うことはないだろうか。どうしてこの人に会ったのかと。大抵は失恋した女性が思いそうなことだが、オレの場合はちょっと違う。
春男と始めて会ったのはいつだったか、はっきりと覚えていない。オレが覚えていないくらいだから、春男の聞いても無駄だ。後から春男に聞いた話によると、小学校時代から高校まで一緒だったようだ。それでも、話したことがあるのは高校時代しか記憶に残っていない。
オレの記憶にある最初の出会いはマラソン大会だった。その前から変ったやつだと噂されていたが、それまで実際に話したことはなかった。髪が長いのが特徴的だったことくらいしか、記憶になかった。
ところが、マラソン大会で話したのをきっかけに、たまに会話するようになった。まさか、社会人になって再会するとは。
「春男、だけですか、知りません。苗字がない作家なんですね。」
ある日、オレは編集長に呼ばれた。春男という作家名を聞いたことがあるかと言われて、オレは正直に答えた。編集長もわかっていたようだ。
「そうだろうな。ちょっと変った作家だ。まぁ、作家なんてほとんどが変っているが、実は担当者が入院したんだ。それで、お前、作品を取ってきてくれ。」
「家までですか?」
「そうだ。住所を見たら、お前の家の近くなんだ。それに、同じ年だし。」
作品なんて、ファックスで送ってくればいいのにわざわざ取りに行くとは。住所を渡されて、見てみると確かにそんなに遠くない。
「わかりました。」
オレは、とりあえず出かけることにした。
最初、オレは春男に気がつかなかった。春男の方は知っていたと言うが本当かどうかはわからない。ずっと長かった髪が無くなっていたのと、約六年近く会っていなかったからか、すぐにはわからなかった。
春男の体型が、昔に比べて増加していたのも原因の一つだと思う。作家になってから、あきらかに運動不足になったようだ。オレは昔と変ってない。
オレが春男に気がついたのは、三回目に作品を取りに行った時だ。春男の家の本棚に、高校時代の卒業アルバムを見つけたのが最初だった。オレと同じ高校名だと気がつき、そこに書かれていた年数で同じ年の卒業生だと知った。
家に帰ってから、自分の卒業アルバムを引っ張り出してきて見てみたが、春男なんて名前はどこにも載ってなかった。当然だ、春男はペンネームだったのだから。
その時に、春男の本名を知らないことに気がついた。次の日、編集長に名前を聞いてみた。ペンネームではなく、本名を。そこで、やっと、春男が知り合いだと言うことが分った。
ここで、俺は自分を呪う。つい、うっかり、編集長に言ってしまったのだ。昔からの知り合いだと。その場で春男の担当に決まったのは言うまでもない。しばらくして、前の担当から春男に関する注意事項の書かれた分厚い手紙が送られてきた。
「やっと気がついたのかい?」
春男に言うと、昔と変らない笑顔を見せた。なぜ、気がつかなかったのか。
「なんで、言わなかったんだよ!」
オレは春男に一応抗議してみた。
「覚えてないかもしれないと思って。」
あっさりと春男は言った。自分が人のことをあんまり覚えてないからか、自分が誰かに覚えられているという自信がなかったらしい。
たまに今でも、オレは自分にため息をつく。なんで、こいつに会ったんだろうと。運命というにはあまりに寂しすぎるような気がした。




