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47話 春男との別れ

春男との別れ


 春男との出会いはゆっくりだったが、別れは突然にきた。

オレが春男のことを書き出したのにはわけがある。オレは作家じゃない。それなのに、なぜ自分を主人公にして書き始めたのか。

 春男が死んだからだ。あっさりと。

 暑い季節だったにもかかわらず、オレには凍るような寒さが感じられた。

 それは、ある日、春男の妹からの電話で突然に知らされた。泣くじゃくる彼女からの電話で春男に何かあったことだけはわかり、そのまま彼女のいう病院にあわてて向かった。

春男は病死だった。オレが知らされた、その時には死んだ後だった。それでも、友人達の中でも一番に教えてくれたらしい。

 ずっと、病気だったのを隠していたらしい。オレに作品を渡して直ぐに具合が悪化したそうだ。オレには春男本人の希望で死ぬ直前まで知らされなかった。

 オレが送る携帯のメールに返事をしていたのは妹さんだったらしい。必死でわからないように春男の真似をして打っていたそうだ。そして、それは見事にオレにわからなかった。これも、春男の希望だったと後から妹さんから知らされた。

 春男の葬式はひっそりと行われた。あんなに大きな春男の写真は見たことがなかった。そこにはいつもと変らない春男の笑顔があった。写真を見て、春男がやせていっていたことに改めて気づかされた。いつからやせていっただろうか。

 記憶を遡ったが、いつもいつも春男がパソコンを打っていた後ろ姿ばかりが思い起こされてあまり顔の記憶がないことに、自分で愕然とした。せいぜい思い出すのは、最後に少し笑った顔だけだった。

 最後まで大勢の人間に知られることなくこの世を去ってしまった。しかし、春男の友人たちには知らされ、葬式を呆然と眺めながら春男の友人や知り合いがこんなに多かったのだとその時になって始めて知った。知っている顔よりも知らない顔の方が多かった。そんな中で、春男が作家だということを知っている人はもっと少なかった。

 彼らはこれから、春男の作品を読むのだろうか。そう考えたら、なんだか、泣けてしょうがなかった。

 それから、葬式が済んで、オレはしばらく放心状態だった。編集長にも仕事にならないからと休みを取らされた。そりゃあ、人はいつしか死ぬ。 しかし、こんなに早いものだとは思わなかった。無意識に長く生きるものだと思っていたのかもしない。

 無気力とはこういうことをいうのだとオレはぼんやり考えていた。

 春男の家は、親父さんが片付けに来たようだ。ふらふらと無意識に春男の家に行ったときに、家具が運び出されていくのを見た。隣の人が出て行くのを待っていると言ったのに、自分の方が先に出て行ってしまった。そのまま、オレがその部屋を借りた。オレは自分の半分を失ったような気がした。それを取り戻すためにオレは書き続けているのだ。

                                                                完                                                                                                           


「……お前な……。」

「なに?」

 目の前で春男がにっこり笑っていた。  

「オレを勝手にモデルにするな!お前が病気?この間、健康診断で異常なしって言われたの、どこの誰だ?あ?作品だけじゃ、飽きたらずに、こんなもんチョコチョコ書いていたのか!」

「うん。淡々と語っているところがいいかなと思って。」

「誰が読むんだ、こんなもん!それに、読者が本気にしたらどうするんだ!ただでさえ、お前の読者には熱狂的なファンが多いんだぞ。」

「最後か、最初にフィクションですって書いておけば大丈夫なんじゃない?」

 こいつが死ぬ前に絶対に担当を辞めてやると再び心底思った。


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