37話 芸術
芸術
暦の上では秋だが、冬のように寒い今日もこの頃。寒くても昼間の太陽はまだ暖かい状態だ。
春男の家で、作品が出来上がるのを待っていると、珍しく落ち込んでいる様子の春男がため息をついた。疲れて、ため息をつくことはあるが、今回はそうでもないようだ。
「なぁ、芸術って何だろうね。」
「は?」
オレは聞き直しの意味を込めて、言った。というよりも自然に口からでた。幸か不幸かオレに芸術など、無関係に等しい。
それには答えずに、春男がため息をついた。ついでに、手も休んでいる。
「手を休めるなよ。なんだよ、ため息なんかついて。」
俺は待っているとき用に持参した本を置いて言った。
「この間、現代美術展に行ったんだ。」
春男はよく美術展に出かける。答えながら、春男は手を動かし始めた。
「だけどね、前回のとあまりに違いすぎていて、がっかりしたんだ。」
見ての通り、といっても見えないだろうが、オレは美術などはよくわからない。語れもしないし、興味もあまりない。有名な絵の名前は知っていても作者名は知らない程度の知識しかない。そんなオレに何が言えるというのか。しかし、ここで、なにか言わないとすねてしまう。
「なにが、違ってたんだ?」
「会場も前回とは違うんだけど、内容も大きく違っていて、印象に残るものが少なかったんだ。三年以上も待ったのに。」
「なにを待っていたんだ?」
「開催されるのが、三年ごとらしいんだよ。今回はちょっとずれて遅くなったんだ。前回、おもしろくってね。今回も絶対に行こうと思っていて、この間行ったんだけどねぇ……。」
「つまらなかったのか?だいたい、現代美術ってなにがあるんだ?彫刻とか、変わった形の石とかか?」
そんなものくらいしか、思いつかないオレって。いや、きっとそこら辺にいる人にきいても、芸術と言われたら、思い浮かべるのはこんなもんだろう。
「んー、見て理解できるものもあれば、見ても理解できないものもあって、どれがいいのか、そうでないのかはよくわからないけど、印象に残るものである……はずなんだ。」
これが、春男の芸術に対する持論らしい。一般的にはどうなのか分からないけれど。
「今回は違ったのか?」
「うーん、予算が悪かったのか、参加した芸術者がわるかったのか、テーマが今ひとつだったのか。どうも、さみしい気分になったよ。」
やれやれという様子で春男は首を振った。後ろから見ているので表情までは見えないが。
「じゃ、次回は行かないな?」
「なんで?」
春男が目を丸くして、振り返った。いや、オレも同じような顔をしていたに違いない。
「え、だって、つまらなかったんだろう?」
「今回はね。次回は行ってみなきゃ、わからないじゃないか。」
また、春男はパソコンに向かいだした。
オレは思った。どうやら、春男はすっかり、その芸術展覧会に取り付かれてしまったようだ。当たらないのに、買い続けるようなクジみたいなものだろう。
芸術なんてものを、オレが見に行くことはないだろう。まぁ、ある意味物語を書いている春男の作品も芸術なのかもしれない。この作品のわけのわからなさが、似ているかもしれない。
本人に言ったら、怒るだろうか笑うだろうか。俺はつまらないことを考えていた。




