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36話 誕生日

 誕生日


 自分の誕生日も忘れるようなオレなのに、人の事なんて覚えているはずもなかった。しかし、オレはたまに思う。自分のは覚えていなくても、覚えている必要のある人っているのではないかと。だが、どうしても毎年忘れてしまう。そんなある日のこと。

『今日、暇?うちにきてくれ。』

 そんな春男からのメールもなんの疑いもなしに、会社からの帰りに春男の家に寄ってしまったのだ。オレがいくと、いつも以上に愛想良く春男が向かい入れた。なにかがおかしい。そう思ったとき、やっと思い出した。

「今日、お前、誕生日か!」

「あたり。食べていってくれるよね?」

 春男のにっこりと笑った顔に反して、オレはげんなりとした顔をした。

いつもは資料が乗っかっているはずのテーブルの上にはケーキ。すてきなデコレーションで、食べやすいサイズではあるのがせめてもの救いだ。三つもなければ。ホール、つまり丸いままでチーズケーキが三つ。外見は普通に見えるが。

 そこには一個食べ終わった後があった。

「食べたのか?」

「うん。一個はね。一切れ残してあるよ。イチゴのが。」

「チーズケーキの中にイチゴが入っているのか?しかも丸ごと?」

 オレは眼を丸くした。そんなものは見たことがない。イチゴジャムならまだわかるのだが。

 春男の母親は料理研究家だ。しかし、彼女の書く料理本の売れている陰には家族の犠牲が伴っていた。本に載せるからには美味しくてはならない。それには作ってみるしかない。その試作品が春男の元にくることは良くある。それも変った味のものが多いのが現状だ。

「いくつ、きたんだ?」

「十個かな。」

 オレはため息をついた。今回はケーキだったらしい。前回の春男の誕生日には大量の和菓子が送られてきた。しばらく甘み所に絶対に近づかなかったものだ。

その前はたしか、焼き菓子だったはずだ。甘いのだけではなく、辛いものまであった。たしか、しばらくは会社の子にせんべいを配り続けたはずだ。

どっちも食べ終えるのにオレが協力したのでよく覚えている。

 甘いものは決して嫌いではない。しかし、春男の母親の料理はどうも変っているものが多い。今回のチーズケーキにしたってそうだ。一個は春男の言うとおりイチゴが入っていた。それも丸ごと。他のは、チョコレートの板が入っていたり、せんべいが入っていたり、コーンフレークが入っていたり。

「まだ、冷蔵庫にも二つ入っているんだ。それはチョコレートの外見だった。」

 春男はケーキを食べながら冷蔵庫の方を恨めしげに見つめた。冷蔵庫は悪くないのだが。

「となりにお裾分けは?」

「まともな味なのを選んであげたよ。」

 どれがまともな味なのか、春男の独断で決まる。人にあげるのに変な味では困るだろう。

切ってみるまで何が入っているのかわからないところが余計に怖い。なので、いつも丸ごとあげることが出来ない。ときどき罰ゲームなんじゃないかと思うこともあるくらいだ。それに食べた後の感想も述べなければならない。

「どうして、お前の誕生日をいつも忘れるんだろうか。」

 オレは自分を恨んだ。毎年思う。

「新作にチャレンジする精神はいいんだけど、僕の誕生日を利用して大量に作るの、やめてほしいんだよね。」

 めずらしく、春男もぼやいた。毎年、大変な誕生日だ。 

  


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