32話 本のタイトル
本のタイトル
春男が倉庫を借りてから本の移動が行われた。春の書いた本だけでもどかせばスペースができるというものだ。それにしても、休みだっていうのに、何でオレが手伝わなければならないのか。
「悪いね。」
そういいながら、春男は笑っていた。あんまり悪いと思っていないようだ。休みだからって、家にいるんじゃなかった!何気なく、春男からきた
『今日、暇?』
のメールにあっさり答えてしまった自分が悔しい。
倉庫といってもそんなに大きなものではなく、畳四つ分くらいの場所だ。ただ、ちょっと春男の家からは遠い。普段から来ることはなさそうだ。
そこに春男は新しく買った本棚を入れた。そして、たくさんの本をそこに置いた。それにしても……。
「お前の作品って、タイトルに似たようなものってないのか?」
「たとえば?その作品の二ってこと?」
「じゃなくても、シリーズものでも似てくるだろう。」
「そうかな。今度は似ているものをつけてみるよ。」
ならんでいるタイトルといえば、『あやつり人形』『灯りの先に』『君の入る墓』『死への階段』『楽園の前には』『ねこのダンス』『氷の復讐』『青桜』『この地の向こう』などなど……どうも、共通性がないというか。
とりあえず、出版順に並べておいた。春男のお父さんの整頓がいいからか、そのまま置くだけでいいというところが楽だ。
整頓の必要がないというのはこんなに早く終わるものかとオレは改めて考えていた。半日もかからなかった。そして、倉庫に移された本は綺麗に収まった。すっぽり、収まるだけしか持って行かなかったのだ。
オレはそのまま、春男を送って家に帰った。
後日、春男の家に行ったら本が移動して空いたスペースに、一覧表が張られていた。
「なんだ、これ、お前の本のタイトルじゃないか。」
「うん。この間、タイトルに似たようなものがないって言っていただろう?似たようなタイトルをつけてみるのも悪くないかと思って。普段はなんにも考えずにつけているから必要ないんだけど、本がなくなったから一覧表作ってみたんだ。」
オレはそんなことを言った事さえ、すっかり忘れていた。なんとなく、いやな予感がするのはオレだけだろうか。まずいことをオレは言ったのかもしれない。
一応、春男の作品の感想が読者から送られてくることがある。当然、ほめてくれる人もいれば、ボロボロに書いてくる人もいる。それはいいが、オレのせいで、タイトルのことを言われたらどうしよう……。おそらく春男は全く気にしないだろうが、オレは確実に気になる。
「無理して似たようなタイトルを付けることはないぞ?」
オレはあわてて言った。
「まぁ、無理はしないけど。」
春男はあまり深刻には考えていないようなので、一応、安心はした。
こういう点で、オレのほうが春男より繊細だと自分では思っている。そうは見えないのが欠点だろうが。
今回の話のテーマは肌色だ。
人種がたくさんいるなかで、この表現方法はどうだろうというものだ。テーマだけ見れば、なんてまじめかと思うが、春男がそんな堅いものを書くことはない。
作品の進み具合だけじゃなく、今回はタイトルまで気にすることになってしまった。なにげなく言った自分に腹が立つ。
ああ、あの日、家にいなければよかった!
作品とタイトルができるまで、オレの後悔は続く。




