26話 方向音痴
方向音痴
春男の欠点と言ってもいい。いや、欠点の一つとでもいった方がいいだろうか。それも、本人曰く昔かららしいが、そうとうひどい。
春男の家に原稿を取りに行くのは月に二回だが、それ以上にメールはくる。場所を聞く質問も多い。
それもよくわからなものばかり。春男の思考はいつになっても理解しがたいものがある。
『ここ、どこだろう?』
オレに見えるわけもないのに、メールで聞いてくるとは。わかるものか!そして、それに返信するオレも律儀だと思う。
『知らん』
『この道に行くと、なにがある?』
『見えないって!』
いや、写メールで写真を送られてきても困る。
春の場合、自分の必要な道以外は基本的に覚えていないようだ。一度行った場所はたいてい覚えていない。記憶に残っていることの方が珍しい。
どこかに、なにか目的があって出かけるときは大抵そこまでの地図か住所をインターネットで検索して印刷したものを持っていく。春男自身が見るためではなく、人に聞くためだ。
『そこら辺の人に聞け』
『誰も人がいないんだよ』
春男の場合、建物の中でも迷えるという器用さ。内からトイレに行ったら、建物の入り口から戻ってきた。帰り道を間違えたのだと本人は言い張った。
ここまでくると、諦めがつく。いや、道を覚えてもらうことを諦めるしかない。
前にオレの家まで来られたのは、タクシーで来たからだった。春男の家から歩いて二十分の道のりにタクシー!それも春男の家まで呼んでからでかけたと、後から本人から言われて知った。
別に春男に体力がないというわけではない。高校時代には駅四つぶんを深夜に歩いたと言っていた。ついでに、なぜか高速道路の横を歩いていたらしい。見つかったら大事になっていたはずだ。よくわからないところを歩くものだ。
オレはため息をついて無駄なことだと知りつつも、なにか目印はないか聞いてみた。
『公園があるよ。大きな所だよ。』
国内にどれだけ、公園があるか!そして、公園の名前を聞いてもオレにはどこだかわからん!目印を聞いて、どこにいるのかわかったことは少ない。
いつものことだと、諦めつつ、春男に電話することにした。早く家に帰って原稿を書き進めてもらわないと困る。
「それで?どこにいるんだ?」
電話しながら、もう片方ではパソコンで地図を検索している。使い方も最初よりかはだいぶ早くなってきている。
「なにかないか?公園でも、名前があるだろうが。」
春男といるとだんだん地図や地理に詳しくなっていく自分がいて、ちょっと怖い。
「居場所はわかった。それで、どこに行くんだ?あ?地獄絵図の展覧会?」
開催されていることを知っている人がどれくらい、いるだろう。他のことにも少しずつ詳しくなっていく。そのうち、この仕事をやめても食べていけるようになるかもしれない。
「だから、ナビ付きの携帯を買えって言っているんだ。」
そうしたら、オレにメールで聞いてくることもなくなるだろう。しかし、春男の場合は建物の中でも迷う。どこか、建物の中まで春男を案内してくれる機械を開発してくれないだろうか。絶対にないだろうなと、思いつつ、展覧会までの行き方を説明して、電話を切った。




