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24話 春男の編集員

 春男の編集員


 春男の担当になってからオレが一番長い。すぐ編集社員がやめると評判の春男なので、オレは実は珍しい。

 よく、作家から担当を外された編集社員が長続きの秘訣を聞きに来るが本当のところ、なぜ、こんなに続いているのかオレにはよくわからない。

女の子が今日、泣いていた。作家から他の担当に変えてくれと言われたらしい。理由は後からわかったことだが、彼女が旅行から帰り、作家の所へ土産を持って行ったようだ。その作家が嫌いなチョコレートを。そんなことも憶えてないような人とは仕事はしたくないと言ってきたそうだ。

 オレだったら、土産を持っていくだろうか。

 どうも、春男のせいで、いろいろ考える癖がついたようだ。オレはふとそれに気がついてため息をついた。

 春男にはいままでに四人の担当者がいた。しかし、春男から変えてもらったという話は聞かない。

 めずらしく、オレの方から春男に聞いてみた。

「僕?別に誰でもいいんだよ。ただ男性であればね。」

 春男はパソコンに向かいながら言った。

「男性であれば?」

「そう。最初の担当者が女性でね。駆け落ちしちゃったんだ。急にいなくなったもんだから、そのときにちょっと困ってね。だからそれ以来、担当者は男性にしてもらってるんだ。」

 失踪ではなく、駆け落ちだったのかとやっとオレは知った。それはたしかに、大きな声で人に言えるような話ではあるまい。

「それに、嫁入り前の女性が男性の一人部屋にくるのもどうかと思うしね。最初の人は若くなかったから承諾したんだけど。年は関係ないみたいだしね。」

 春男の考えは、そんなに現代風味とはいえない。しかし、古すぎるということもない。どうも妙なこだわりがあるようだが、その境界線は実はオレにもよくわからない。

「そういえば、オレの前とその前は男性だったな。二人目の人は何でやめたんだ?」

「男性だったけど、お父さんだったか、お母さんだったか、急に倒れてね。親の看病するって言って実家に引っ越した。いまでもハガキがたまに来るよ。」

「俺の前の三代目は入院したんだっけ。」

「そう。胃炎で。でももう、とっくに退院して他の仕事に移っちゃった。やっぱり同じようにたまに手紙が来るよ。メールじゃないところがあの人らしいね。」

 手紙はオレにも届く。あいかわらず、律儀な人だ。

「オレの途中の秋本さんは南極に調査しにやめたしな。」

 オレは恨めしそうに言った。オレが見ないままにやめてしまった人だ。

「女性がくるのは最初は断ったんだけど、君が緊急に入院することになって、打った原稿を取りに来るだけだって編集長が言うから。あ、これ、届いたんだよ。」

 春男は引き出しからハガキを出してきた。ハガキには、氷をバックにして仲間らしき人達と笑っている写真が写っていた。

「これが秋本さんだよ。」

「はじめて見た。」

 春男が指さしたのは、その中で一番嬉しそうに笑っている女性だった。しかも美人!

はじめて顔を見て、余計になんでこんな美人を南極に行かせたのかと腹が立った。文句の一つでも春男に言おうと思ったが、彼女がうれしそうに写っているのをみて、やめた。

 彼女はもう行った後だし、春男に言っても無駄だし。

 オレの代わりにちょっと担当した人から春男は逃げてしまった。

 まぁ、いまのところ、春男が作家をやめると言い出さないところを見ていると、担当がオレでもとくに問題はなさそうだ。いつのまにか春男になれている自分がいて、ちょっと怖い気もしている。


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