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22話 擬音語

擬音語


春男の家には音楽関係がない。ラジオもステレオもCDもない。音を出す物としてあるものはテレビだけだ。それもあまりついているところを見たことがない。何のためのテレビだろうか。

楽器類もなければ、音楽雑誌一つない。あまり音楽に興味がないのかと思っていた。

「好きな音は何?」

いつものように突然春男が聞いた。時々、独り言を言っているのか話しかけているのか疑問に思うことさえある。

好きな曲でもなく、歌でもなく、歌手でもない。そんなものがすぐに浮かぶわけがない。オレが考え込んでいると、聞いていないと思ったのか春男は振り返った。

「聞いている?」

「聞いているよ。考えているんだろうが。急にどうしたんだ?音楽に興味なんてあったのか?」

「んー。あんまりない。」

 思った通りだった。しかし、質問には答えて欲しいようだ。答えないとすねる。すねると、原稿が遅れる。原稿が遅れると困る。オレは考えた。

「音っていうのは音符でか?それとも、楽器の音か?自然の音か?」

「んー。なんでもいい。」

 春男はまたパソコンに向かって打ち出した。

「そうだな。そういう、お前は何が好きなんだ?」

「んー。ページをめくる音かな。」

 ちょっと手を止めて春男が答えた。

「オレは、お前がカチャカチャいわせながらパソコンを打っているのがいいな。スイスイと、仕事が進んでいますって感じで。」

「なるほど。」

「それで?なんで音なんて聞いたんだ?今回の作品に音でも出てくるのか?」

 つい聞いてしまうのは、たまにこの答えが作品に影響することがあるからだろう。

「そうじゃないけど、ちょっと擬音とかに凝ってみたんだ。で、音を聞いてみたわけ。明日は音の博物館に行くんだ。あさっては、美術系を見に行こうと思って。」

 どこからそんな情報を得てくるのか。

めったに出かけない春男だが、興味を持つとあれこれと、それに関する情報を引き出して出かける。この前に出かけたとは人体模型展を見に行った。その前は爬虫類展だった。それに比べれば音の鑑賞はそんなに奇妙ではないかもしれない。

有名な写真や絵画はあまりに見に行くことがない。本に載っているから見なくてもいいと春男は前に言っていた。絵と本物は違うかもしれないのに。オレは見ないので、なんともいえないが。

「それでね、自分で音を作って流行したら、最初に使った人って紹介されるんだ。」

 春男はウキウキした口調で言った。

春男は、売れて有名になりたいとか仕事を増やして大金持ちになりたいという気持ちがどうも低めだ。長期休暇もとくにどこにも行きたいところがないから要らないと言うくらいだ。オレは欲しい。

 しかし、変なところで野心があるらしい。まず、この作品はまだ出版されていない。次にその作成した擬音語が、流行するかどうかもわからない。万が一、流行して紹介されるにしてもおそらくそれは春男が老人になった頃の話、もしくは死んでからだろう。

「流行するといいな。」

 あまりに先の見えない野心だ。オレは優しく言った。

「うん。」

 返事をした春男には見えなかったが、オレはたぶん自分で観音のような顔をしているんじゃないかと思った。言っても言わなくても同じなら夢は壊さないでおこう。


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