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20話 春男の風邪

春男の風邪


 季節の変わり目に少し風邪を引くのはオレだ。それでも、風邪をひいて入院にまで至ったことは今までに一度しかない。いや、何度もあっては困るが。

 春男はそんなに風邪を引く方ではない。学生時代の欠席も数えるほどしかなかった。ところが、変なときに風邪をひく。普通は、疲れたときだとか季節の変わり目にひくものだが、春男は他の人が落ち着いたときにひく。

 風邪を引いたという春男の様子を見に家に寄ってみた。

「お前、顔が赤いぞ。」

 オレは春男の顔を見るなり言った。

「うん。三九度近くあるんだ。ちょっと体がだるくってねぇ。」

 オレと春男は、なぜか風邪は移したりはできない。どうも合わないようだ。俺が風邪を引いたときには、編集長に会いにいくのが一番早く風邪が治る。そんな相手もいる。

「なんだ、これ。」

 オレは思わず、目を丸くした。普段はごみ一つ落ちていない春男の部屋が見事にぐちゃぐちゃ。足の踏み場のない状態になっている。

「んー。親父のほうも今、倒れているの。それで、母さんは親父のほうに付き添っていて、僕にはあれ送ってきた。」

春男が指をさす方向をみるとレトルトのお粥があった。他にもフルーツやら、野菜やら置きっぱなしになっている。さすがの春男でも風邪を引いているときに調理する気力はなかったようだ。

「なんだ、親父さんがきていると思って食事なんて何も買ってきてないぞ。何か食べたのか?」

「うん。おかゆのレトルト、最近のっていろんな味があって美味しかったよ。今度、食べてごらん?」

「そんなに熱があって味がわかるのか?」

顔を真っ赤にしながら春男が言った。

「ホントはわかんない。原稿はそこ〜。ちょっと、僕は寝る。」

 春男は宣言するように言った。もう、目がくっつきそうだ。

「薬を飲んでからにしろよ。」

「さっき、もう飲んだ。あんまり効かないんだけどなぁ。」

フラフラな足取りで春男はベッドに向かった。そんなにすぐに薬は効かないだろう。

かなりでっかいベッドで、大きく部屋の面積を占めている。埋もれるように春男は潜り込んだ。これを買ったときにオレは言った。

「蒲団の方が幅をとらなくていいのに。」

「これだと、たたまなくていいから。」

春男らしい面倒大王のセリフが戻ってきたのだった。何も言う気が失せた。

春男が寝ている間にオレはとりあえず原稿を読んだ。

熱がある状態で書いたせい、というか打ったせいか字の間違いが多い。自分で読み直している気力もなかったようだ。前後の関係で読めるものもあれば、後から春男に聞かないとわからないものもある。これが手書きだったらほとんどが読めなくなっていたことだろう。春男の手書きはひどい。

オレはついでに、そこらに出っぱなしだった野菜やらフルーツやらを冷蔵庫に移動させた。腐っても困る。冷蔵庫は何も入っていない状態だった。

「なんにもないな。こいつが風邪を引くとこうなるのか。」

オレはスペアキーを持って起こさないようにそっと家を出た。春男の家の鍵は一応、オレも持っている。倒れたときに家の中に入れるようにだ。代わりにオレの鍵も渡してある。

風邪をひいても取りに行くオレも大変だが、書く方も大変なのだなとぼんやりする頭で考えていた。

一 応原稿は少し余裕を持って春男に書くように言っているため、三日くらいは休んでいられるだろう。もちろん春男はそんなことは知らない。教えると書くのをさぼるからだ。


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