服
歩道に到着すると停止している車が動き出した。獣の唸り声を豪快に鳴らし、不可思議な方法で進む。四つの丸が地面を滑り巨体を運ぶ。
「ほほー……」
色彩豊かな街に鉄の獣が行き交う自由さ、人々は様々な服を自分好みに着用して、誰にも縛られず生活していた
自分の世界では想像も付かない程の高度な技術、皆が笑顔に平和な世界が目の前に広がっていた
「もう一人で歩けるよね?」
男が姿勢を低くして目線を合わせる
「歩けるとも!我を誰だと思っている!!!」
手を胸に当てて高らかに笑う
「そう…、じゃあ次からは道路上で寝ないでね…?」
車が通っている場所を道路と言うことを理解した。古い情報をアンインストールし、この世界の情報をインストールする
「ひひ…分かっておるとも!!どうろ…?には寝ない!!!」
「そう…じゃあ僕は行くから、気を付けてね…」
「ああさようならだな!!」
大きく手を振り男の背中にさよならを伝える
「それにしても、人が多いな?」
毎秒数人が目の前を横切る、彼ら全員が一度は我を一瞥して驚きの表情を見せている。前世なら偉大な魔王を目の前にしても、驚き程度しか反応を見せない人類に対して憤りを感じたのだろうが、新生魔王は心が広い、寛容に行こうじゃないか。
武器を持たず歩き回る人類を見ると、この世界が本当に平和だということを理解出来る。鎧も着ておらず武器も身につけず、ただ一つ、手のひらサイズの板を装着していた
歩行しながら板を凝視している人間が、柱に頭をぶつけて尻もちを付いている。落とした板を拾い上げ、目を見開き焦った顔をしている
「これからどうしよう?」
突然の異世界、ポケットに手を突っ込みガサガサと所持品を探してみるも、手は何も掴めなかった。
全く知らない異邦の地にポツンと放り出されて不安に苛まれる。だが、そこでへこたれる魔王では無い、異邦の地で遂に魔王は自由人になったのだ。不安とは無縁の存在に昇華した
「ひひひ…」
自分の進化に胸を高鳴らせ、白い歯が街を楽しめるように口角を高く上げてほくそ笑む
それにしても、この世界は実に平和ではあるが騒音が酷い。人が出す音や鉄の獣の唸り声、喋る壁がずうっと音楽を流し続けていて、何故人類が正気でいられるのか理解出来ない
「とりあえずいっぱい歩こう!」
人混みに目を回しながら歩道を進む。前世で靴を履いておらず、靴無しの移動を余儀なくされる。足を前に動かす度に小石が足の裏に刺さり歩行を阻害する。
歩道の横に立ち並ぶガラスの壁、中を覗くと衣服が綺麗に並んでいた
「はわー!なんですかあれは!!!すっごく可愛いじゃないですか!!!」
ガラスに顔をベッタリと付け、真っ白な人間が着ているワンピースを凝視する。
一枚の服で複数枚着ているように見える、重ね着風のロング丈ワンピース。ネイビー色のワンピースがAの形の様にも見え、腹部を絞める同色の紐が上半身を可憐に見えるよう演出している。
「はぁ…!!はぁ…!!あれが…欲しいです!!!」
両の手をガラスに貼り付けて鼻息を荒くする。ガシガシと頭に生えた二本の角がガラスを擦り、行き交う人々の視線を集めていた




