6.
寺元太一は警察官だった。日々の勤務は厳しく、危険と隣り合わせだったが、誠実な働きぶりで部下からも上司からも熱い信頼を得ていた。事件や夜勤で家を空ける日も多く、食卓に座れない日も珍しくなかった。それでも子供たちは父を誇らしく見上げ「パパみたいになりたい」と無邪気に口にした。彼にとって、その言葉が何よりの勲章だった。
私は寺元桜に尋ねた。
「あなたは幸せですか?」
「いいえ、私は不幸せです」
*
寺元太一は農家だった。広い畑を育て、朝日と共に働きに出て、日が沈めば作業をやめ家路につく。四季の移ろいを肌で感じ、自然と呼吸を合わせるように暮らしていた。夕方には家族揃って食卓を囲み、収穫した野菜がテーブルに並んだ。妻も息子も、その穏やかな日々に満ち足りた笑顔を見せた。
私は寺元真子に尋ねた。
「あなたは幸せですか?」
「いいえ、私は不幸せです。」
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寺元太一は野球選手だった。華やかな個人タイトルやリーグ優勝には縁がなかったが、安定した打率と守備力は一流と言って差し支えなかった。地味でも着実なプレーで、仲間やファンに愛され続けた。やがて引退する日が訪れると、太一は未練よりも笑顔を選び、叶えられなかった自分の夢は息子に託した。
私は寺元諒太に尋ねた。
「あなたは幸せですか?」
「いいえ、私は不幸せです。」
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寺元太一は作家だった。人間の醜さや弱さを、研ぎ澄まされた文体で描き出し、派手な売れ行きこそなかったが熱心な読者に支えられて暮らしていた。そんなある日、冗談半分で書き上げたライトノベルが予想外の大ヒットとなった。重厚な作風とは対極のその作品が、皮肉にも彼の名を最も広めた代表作となった。
私は寺元太一に尋ねた。
「あなたは幸せですか?」
「いいえ、私は不幸せです。」




