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死者の声  作者: 岡本ゆきえ


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8/8

訪問

如月の巫女の神楽の舞は神主の笙の笛の演奏で舞われていた。

戦時下も内緒で行い、軍事統制から生きて帰る事は許されなかったため村人たちは出征する者も葉隠村に残る者も神主の祝詞と如月の巫女の神楽の舞の事は話すことが無かった。

ただ本家の如月家は知っていた。如月一族は村人が生きる事を選んでいた。

私はたかおから話を聞いて目が潤んだ。葉隠山の富を村人に分け合っていた如月一族はどうしたのだろう。

第二次世界大戦中に村人に生きて帰れと祈祷することは当時の政府や体制に抗う事だ。それは国賊とまで言われた。

だが如月一族は内緒で抗った。罰を承知で。

戦後、葉隠村の村人たちは何とか生きた。如月家の葉隠山で樹の実を拾い薪を拾って売った。神主と如月の巫女も村人たちと生き延びた。

戦後、林業が盛んになり神主は結婚し1男2女に惠まれ如月の巫女も年老いた。次男の長女を如月の巫女が貰い受け新しい葉隠村の如月の巫女として育てる事になる。

しかしあまりに長く続かなかった。次男の長女が如月の巫女を次いだ20歳の時、心臓麻痺で突然死してしまった。

産まれた長女は健康な子供だった。病気をした事は1度も無く心臓も至って健康であった。葉隠山を駆け回り学校にも通った。学校の成績も良く高校を出た後は葉隠村に戻り如月の巫女になる修行をしていた。葉隠村の家族は勿論のこと年老いた如月の巫女は後継ぎの死を悲しんだ。

葉隠村には後継ぎの如月の巫女はいなくなり神主だけが後を継いだ。年老いた如月の巫女は後継ぎ無く生涯をおくった。

その後、神主だけが後を継いだが林業が廃れ葉隠村の村人たちは葉隠山をさり神主の家族は本家の如月家へと戻った。

葉隠山は如月家に返され現代では如月家の好意によりハイウェイが作られハイキングコースも作られた。

葉隠村は忘れ去られひっそりと時を刻んでいた。朽ちて遺跡になり葉隠神社も遺跡になっていた。

ただあの遺跡となった葉隠神社に打ちつけられた新しい銀のくさびの藁人形は何なんだろう。

たかおは説明し終わったところで首を傾げる。

「けっきょくのところ誰かが若い如月の巫女に惚れて叶わなかったから呪ったってことか。」とたかおは私を見た。

「そうだね。今で言ったらストーカーじゃん。」私が言うとたかおは頷いた。

「神様の為に捧げた人生を全う仕様として呪われた訳だ。」

「如月家は葉隠村の人たちの為に尽くしていたのに如月の巫女の1人が呪われるなんで割に合わない。」私は呪う者を恩知らずだと思う。如月家が今も存在するならば呪いの事を知っているのだろうか。

呪われた如月の巫女が死んて尚藁人形に魂を封じられて苦しんていると言う事を。

「如月家は今もあるのかな。」とたかおは言った。

「あるんじゃないかな。分家さんが葉隠神社を祀って林業が廃れて本家へ戻ったというじゃない。」葉隠山はもともと如月一族のものなのでなにがしという神社があるはずだ。たかおは葉隠村郷土史を読んだ。

「葉隠山のふもとをに岩月神社がある。そこが如月家の本家だよ。」とたかおは顔を上げた。

「岩月神社は今でも大切に祀られつているそうだ。」

「岩月神社はどうしたら行けるの。」私は如月家の人に合いたかった。

「岩月神社に行くのか。」たかおは不思議そうに言った。

「だって如月家の先祖が藁人形に封じ込められて苦しんでいるのよ。」私は必死の思いでたかおに言った。たかおはしばらく考えた。

「そうだな。強い呪いだし僕らには力が無いし如月家を訪ねるのもありかもな。」

「如月家には力があるわ。戦争中に村人を死なせなかったんだから。」私が言うとたかおは葉隠村郷土史の続きを読んだ。

「加奈。如月家の岩月神社の事が書いて有るよ。」嬉しそうにたかおは言った。

「どれ。」私は開いているページを死な覗き込んだ。岩月神社の地図と住所が書いてある。私は小躍りした.

「本当だ。何か解るかも知れない。」私はバッグから手帳を取り出し住所をメモした。

「まだ時間あるし尋ねてみない。」私はメモを終えると手帳をバッグに締まった。

岩月神社は遠く無かった。図書館前のバズに乗り葉隠山まで行くだけだ。私とたかおは二人掛けの席に並んで座る。

「おい、加奈如月家の人には何で言うんだ。」たかおは少し困っている。

「正直に言うわ。葉隠村の神社で如月の巫女が呪われ藁人形に魂が封じ込められてますって。」私は意気揚々と言った。

「信じてくれるかな。」たかおは悩んでいた。

突然知らない2人が貴方の先祖が呪われてますと言ったら金儲けの悪徳宗教だろうなとは私も思う。

けれど私は呪う者に夢で酷い目にあった。藁人形の呪いのくさびを引き抜く前に殺されるのは嫌だ。

私とたかおの乗ったバズは市街地へ入った。広い田畑とまばらな家が見え葉隠山のふもとのバス停に止まる。

私とたかおは料金箱に小銭を入れて葉隠山バス停に降りた。

葉隠山の里山はのんびりしている。葉隠山のバス停も整備されハイヴエイがあった。

私とたかおは岩月神社を探して歩き出した。平地を歩いて時間が立ち大きな石の鳥居が見えた。

岩月神社と古びた石碑がある。私はここだと思った。

「どうする加奈。如月家。」たかおは石の大鳥居を見上げる。私も石の大鳥居を見上げた。

「立派な神社だね。」と私は言った。岩月神社は大きな神社で葉隠神社よりも何倍も大きい。

私とたかおは左右の狛犬を見ながら大鳥居をくぐった。

境内はとても広く神楽を舞う舞台が有りそれより大きい本殿がある。境内の中に大きな御神木が有りしめ縄がはられていた。その御神木の根本で草引きをしていた中年の男性がいた。

私は如月家の人かと思った。

「ご祈祷ですか。」と私とたかおが戸惑っていたので中年の男性は立ち上がって言った。どうやら岩月神社の神主らしい。

「いいえ。如月の巫女はご存知ですか。」とたかおは尋ねる。

中年の男性は落ち着いた様子で

「知っていますよ。家におりますが。どうしてたずねたのですか。」とにこやかに言った。

「私たち葉隠村に行きました。」と私は戸惑いながら言った。

「ああ葉隠村。懐かしいです。私の親戚が神主をやってました。」中年の男性は懐かしそうだ。

「私が本家を継ぐ事になりましてね。妹が如月の巫女になっていますよ。如月の巫女の事を知っているようですね。」

中年の男性は代わる代わる私とたかおを見た。たかおが言った。

「知っています。葉隠村郷土史を読みました。」

「20歳で亡くなった葉隠神社の如月の巫女のがいるでしよう。あれは心臓麻痺では無く呪い殺されたのです。」必死の思いで私は言った。みるみるうちに男性の顔が曇って行った。

「大叔母が呪い殺された。」と中年の男性はつぶやいた。

「本当なんです。私たち葉隠村へ行きました。そうしたら葉隠神社に真新しい藁人形が打ち込まれていて。」私は必死になった。たかおも必死に言う。

「2人とも呪ってやると言う地獄の死者の様な声を聞いて。」

「それから如月の巫女の人影が出るようになって消えるような弱々しい声で人影が助けてと言うんです。」

「私は夢を見ました。血を流す藁人形の銀のくさびを引き抜こうとして私の両手首が不自然に曲がって激痛に目が冷めました。」私はあざの残った両手首を中年の男性に見せた。

「信じられない。大叔母の魂が呪われているなんて。」

中年の男性は目を閉じた。

「私たち如月一族は人の為に尽くしてきました。大叔母が呪われるはずはない。」中年の男性は悲しそうな顔をした。

「確か如月の巫女の人影は心を受け入れ無かったと。」

私は中年の男性を必死で見た。

「誰かが大叔母を好きになっていたのでしょう。ご存知の通り本家の長女は如月の巫女として神様にお使えし清らかなまま結婚はしません。その代わり不思議な力を持ちます。」と中年の男性は息を吐いた。

「如月家に案内致します。そこで話をしましょう。」

3人は岩月神社を出た。少し歩くと立派な門構えの古びた屋敷がある。古びた表札には如月という文字がある。










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