夢
私たちは食事を終えると喫茶店をでた。私の決意は変わらなかった。黒い人影がいるような気がした。
たかおは私のマンションまで送ると言ったので私は甘えることにした。
電車に揺られながら私は乗りあった人たちを見た。疲れた人、会話する人、男性、女性、年齢は様々だ。人々は藁人形とは関係無く生活を営んでいる。
駅を出て私はたかおとマンションまで歩いた。片すみに霧のような黒い人影があった。たかおも黒い人影を見た。
私たちは黒い人影を感じながら歩いた。黒い人影は消えては現れる。
私は黒い人影を見つめた。黒い人影はただそこに有った。マンションの前で振り返る。
私とたかおは黒い人影が霧のように消えるのを見つめた。
たかおは部屋の前まで着いてきてくれた。私はカバンから鍵を取り出して開けた。
「上がっていく」私はたかおを促した。
「なにか貰える。」と恥しそうにたかおは言った。
私はリビングにたかおを案内した。たかおはソファに座る。
私はキッチンに行き麦茶を持って来た。
「何か言いたそうだったな。」たかおは麦茶を飲み干した。
「そうだね。」私はたかおの側に座った。たかおの顔が赤くなる。私はたかおを信じていた。
「追いかけてたね。あの人影。」
「あれは何もしない。だから加奈心配するな。」確信に満ちたようにたかおは言った。
「うん。わかった。」私が言うとたかおは立ち上がった。
「加奈。」たかおは私を抱きしめた。
「帰るな。」私はたかおを見つめたかおも見つめ返した。私は玄関までたかおを送った。
「また明日な。」たかおはドアを締めて帰って行った。
鍵をかけ私はため息をついた。
私はベッドに入って寝ていた。
あの新しい藁人形が杉の木にあらん限りの憎しみを込めるように打ちつけられていた。釘は銀でできた太いくさびのような物だ。
私は不思議に思った。たかおと見たときは驚いて釘のことまではわからなかった。
だがあの時、打ちつけられていたのは釘では無く銀のくさびだったのだ。
私は夢の中で新しい藁人形を見ていた。銀のくさびから赤い血が滴る。私は驚いて悲鳴を上げた。
「助けて。」かすれたような声がする。私は誰か居るのかと辺りを探す。木の周りには誰もいない。
「助けて。」悲痛で息が絶えるような声だ。霧のような黒い人影が藁人形と重なる。たかおの言った通りだ。藁人形の銀のくさびから出る赤い血は打ちつけられ封印された誰かの物だ。私は銀のくさびを引き抜こうと手を伸ばす。
「呪ってやる。」再びあの地獄の死者のような声がした。
「呪ってやる。永遠に。」
私は構わず銀のくさびに手を掛けた。突然私の手首に強烈な痛みが走った。両手で銀のくさびを引き抜こうとする手首がボキッと音を立て不自然に曲った。
私は悲鳴を上げた。
気がつくとベッドの中にいた。私は跳ね起きて両手を見た。
両手首が赤くなっている。
あれは夢のはずだった。痛みはなかった。夢の中で人影を解放したくて銀のくさびを引き抜こうとした。そうしたら両腕手首がねじ曲がったのだ。
ただ赤くなった両手首だけが呪いが本当だと物語る。私は恐ろしくなり布団をかぶる。スマホを見ると午前2時だった。
私が起きたのは朝6時たった。夢を見てから熟睡した。私は勘違いだろうと思って両手首を見た。けれど赤くなっていた。
会社で私は仕事をした。
たかおにはどう話そうかと迷っていた。たかおは賢明に仕事をしている。私も気を取り直して仕事に集中した。
「ああ疲れた。」私は言った。私とたかおは食事のトレイを持って空いている席に座る。
「ねえ、たかお昨日ね。夢を見たの。」
「僕も見たよ。加奈が藁人形の前にいた。」たかおは食事を食べる。
「えっ、私たち同じ夢を見たの。」私が驚いているとたかおは続ける。
「藁人形が血を流して黒い人影が藁人形に重なった。」同じ夢だ。たかおは食事をする。
「加奈が藁人形の銀のくさびを引き抜こうとしたら酷い事になって目が冷めた。夜中の2時だ。」
私は驚いた。たかおは私と同じ夢を見ていた。でも私の夢にたかおはいなかった。
「あの黒い人影藁人形と重なってた。」たかおは言った。
私は食事をした。私たちはしばらく黙って箸を動かした。
「やっぱり僕たちの見た黒い人影は呪われた者だったんだ。」
たかおは確信していた。
「助けてって言ってた。あの黒い人影。助けてって言ってた。」私は言葉を繰り返す。
「魂を封じるなんて相当強い呪いだぞ。」たかおは私を見た。
「どうやって助けろっていうの。夢の中で銀のくさびを引き抜こうとしたら私の両手首がねじれた。」
私は箸を置き両手首をたかおに見せた。たかおの顔が苦痛に歪む。まだ私の両手首にはくっきりとあざが残っている。
「加奈を酷い目にあわせたやつは黒い人影を呪ってる奴だ。これは警告だよ。呪いを解く者は許さないというね。」
怒りを込めてたかおは言った。私たちは慌てて食事を済ませた。
「加奈を酷い目にあわせたやつを許せないよ。」
私たちは空の食器を乗せたトレイを返しに行った。
私たちは紙コップにコーヒーを入れた。さっきとは違う席に着く。たかおは怖がるより私が酷い目にあったと怒りを感じていた。私はそんなたかおを頼もしく思う。
「けれどたかお」とわたしは紙コップを両手で持つと言った。
「呪う者の正体もわからないし呪われた黒い人影の正体もわからない。」私は困っていた。
「そうだな。」たかおはため息をついた。私たちに特別な力はない。でも私はあの黒い人影の弱々しい願いを聞いた。
「たかお。助けてあげられるなら助けてあげたい。」
私は決心した。
「僕もそう思っている。」たかおはコーヒーを飲んだ。
私たちは黒い人影が出てくるのを待った。仕事が終わり私とたかおは会社の前にいた。
私たちは黒い人影にたずねたい事がある。現れるかもしれないし現れないかも知れない。他の人たちが帰っていく。警備員が不思議そうな顔をした。




