禍々しいもの
「加奈の玉子焼き美味しい。」
たかおは笑った。私は嬉しいのだがショックを受けていた。たかおは何も無かったかのように食べている。
「加奈、あんなのいたずらだよ。よくあるじゃん観光地とかにいたずらするやっ。」たかおは心配そうに言った。そうだたかおの言う通り単なるいたずらだ。私は煮物を口に入れた。
「そうだよね。悪質だなぁ。」
たかおは水筒のお茶を一口飲んだ。
「ここトイレがないからヤバいなぁ。」
とたかおが真剣に言ったので私は笑った。
「真面目な話だよ。立ちションヤバいじゃん。」
「誰も見ないよ」と私は笑った。
「加奈がいるじゃん。」と恥ずかしそうにたかおは言った。
「馬鹿じゃないの。」私は呆れてたかおの鼻をつまんだ。おかげでショックが和らいだ。藁人形のなまなましさを忘れた。
空は澄み渡り日差しがここ地良さそうだった。
「おいしかった。」たかおは弁当を平らげ満足していた。私もおなか一杯になり車の外に出た。弁当はみごとに平らげられていた。私は空のタッパーをリュックにしまった。
私たちは車から出てやわらかな日差しを楽しんだ。
「気持ちいいなぁ。」とたかおは言い私たちは車にもたれた。
「本当気持ちいいよね。」私は空を見上げて鳥のさえずりを聞く。なんて綺麗な風景だろう。
木立が揺れた。
不意に私の中になんとも言えない声が入った。それは頭の中に入った。
「呪ってやる。」えっと私は小さな声をあげた。
「呪うって誰を。」私は小さく呻く。
たかおは私の顔を驚いて見つめた。たかおの顔にいい知れない恐怖がただよっていた。
「加奈も聞こえるのか。」たかおはあたりを見回した。私とたかおだけだった。
「たかおも聞こえたの。」私は身震いした。
「ああ。空耳かと思ったけど。」
「あの藁人形ど関係あるのかな。」加奈はたかおを見つめた。
「そうかも知れない。」たかおは恐怖に満ちて2人は身を寄せた。
私はもう一度聞こえはしないかと怯えた。低い地獄から響くような女の声、若く恨めしく妖しい声だった。私はたかおにすがった。
「本当に聞こえたよね。」私は震えながらたかおの肩を手を両手で握った。
「うん。聞こえたよ。」たかおはしっかりと震える私の両肩を握り返した。
「僕は加奈を守るよ。例えどんなことが有ったとしてもね。」力強くたかおは私を抱きしめた。
「帰ろう。」たかおは私を体から離す。私たちは車に乗った。鳥の優しいさえずりが聞こえた。
車の中でまた妖しい呪いが聞こえるのではないかと私は思った。なぜ廃村の廃神社に真新しい藁人形が打ち付けられていたのか。藁人形の釘は普通の釘ではない。あの呪ってやるという妖しい女の声はどういう意味なのか。私は車の中で考えた。
たかおは平常心をよそおって運転している。
「なあ加奈。」前を向きながらたかおは言った。私はたかおを見た。たかおは真剣だ。
「あのな。加奈あの声は廃神社に有った藁人形の呪いの声だと思う。」
「なぜ今聞こえたの。廃神社に居たのはは私たちだけだった。」私は混乱した。たかおはハイウェイを走りながら言った。
「呪った者の思念体だよ。」とたかおは車を走らせる。
「わざわざ廃神社に呪いに来たの。」
「あの廃村は何もいわくが無い。それはわかるだろう。」
「そうだね。聞いたことがない。」
たかおは運転しながら言った。
「あの廃神社もいわくがない。だとしたら呪った者の残留思念。よほど強い思念だ。見た者の心に深く入ってきた。」
「結局誰を呪ったんだろうな。」とわたしは怖くなった。
「安心しろ、加奈。僕たちじゃないから。」
「だとしても誰を」私が言った時、たかおは黙ってしまった。私も黙ってウインドウから外を見続けた。
車は何事も無くハイウェイを降った。
車は街の中へ入った。にぎやかな街のざわめきが私を安心させた。私はハイウェイで事故を起こすのではないかと思ったが幸い事故は起こらなかった。たかおはコーヒーショップに車を入れた。
「少し休もう。」たかおは空いているスペースを素早く見つけてバッグで車を入れた。車が空きスペースに納まるとたかおは車のキーを抜き自分のリュックをを手に注意深くドアを開け私もそれに從った。
私は空のパックの入ったリュックを片手にたかおの後をついてゆく。私とたかおはコーヒーショップの自動ドアを開け店の中に入った。
コーヒーショップはくつろぐお客で賑わっていた。私は素早く空いている窓際のテーブルを見つけた。
「たかお。ここにしよう。」たかおは頷くと私たちはリュックを長椅子に置いた。かなり有名なコーヒーショップで世界展開している。たかおは自分のリュックから革の財布を取り出した。
「加奈。何にする」
「アイス抹茶ラテ。普通サイズ。」私が言うとたかおはセルフカウンターへと行ってしまった。私はたかおの背中を見た。
数人の客が並んで少し待たされるようだ。たかおは上のメニューを見つめていた。
私は目を白いテーブルに移した。妖しい声が耳に残る。あの場所には呪う者の残留思念が貼り付いている。呪いの声は私の頭の中に残っていた。私は目を閉じて長椅子の背にもたれた。
しばらくしてたかおがアイス抹茶ラテとアイスコーヒーのトレイを持って戻ってきた。
「加奈。どうした。」たかおはトレイをテーブルに置いて真向かいに座る。
「なんだか疲れちゃった。」
私が目を開けるとたかおは私のアイス抹茶ラテのストローをさしてくれた。私は気を取り直してひとくち飲んだ。たかおもアイスコーヒーを飲みながら言った。
「近づかなきゃいいさ。なっ加奈。」たかおは私を見つめる。
たかおの優しさが伝わってくる。私は笑った。
「そうだよね。たかお」私は自分を納得させた。
「うん。そうだよ。」優しくたかおは私の右手を両腕で包み込んだ。私は幸せを感じた。たかおとつき合って良かったと思った。たかおの手は温かった。そうだあの場所に近づかなければいいのだ。近づかなければ呪われない。妖しい声も二度と聞こえない。。私はそう思った。
たかおはアイスコーヒーを飲み外を見ていた。私はそんなたかおに話かける。
「ねえ。たかお。今日は不思議だったね。」
たかおは私の顔に目を戻す。
「加奈の弁当は美味しかったけどな。」
とたかおは笑った。
たかおはアイスコーヒーを飲んだ。
「本当は僕も怖がった。あの声は地獄の死者の声だった」
私はよくたかおが事故を起こさなかったなと思う。たかおは怯えながらも冷静になっていたのだ。




