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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

「お約束」でトラックに轢かれた俺のジョブは【ルビーマスター】。女神(ポンコツ)のせいでファイアボールしか使えないけど、それでも異世界でがんばります!

作者: KOTOHA
掲載日:2025/11/10

ドンッ!!


激しい衝撃、けたたましいブレーキ音。


目の前を横切る、見慣れた銀色のトラックの車体。そして、浮遊感。


(あ、これ、死んだわ...)


冷静にそう思ったのを最後に、俺の意識は途切れた。


◇◇◇


「いやぁ、ごめんなさい!完全にこちらの不手際です!」


真っ白な空間で、とんでもない美人が土下座していた。


女神、と名乗る彼女が言うには、俺の死は、いわゆる「お約束」...神様側の手違いによるものらしい。


「つきましては!転生特典おわびとして、あなたに特別なジョブを差し上げます!」


顔を上げた女神が、パァッと笑顔になる。


「あなたのジョブは、厳正なる抽選の結果...【ルビ…マスター】になりました!」


ルビーマスター? 宝石の「Ruby」か?


「あの、それって...」


「あ、あとレベル1のうちは詠唱が不安定なので、補助ルーチンとして『型』を体に刻み込んでおきますね!」


「型?」


俺が聞き返すより早く、女神が指を鳴らす。


瞬間、俺の体に、どうしようもなく「恥ずかしい記憶ポーズ」が流れ込んできた。


まず、右手を天に突き上げ...


(くっ...! 静まれ、俺の右腕...!)


左手で右目を隠し、右手を心臓の前にクロスさせ...


(――見えたぞ、貴様の『終焉ルビ』が...!)


「...は?」 (なんだこれ!? 死ぬほど恥ずかしいぞ!!)


「はい。では異世界生活、楽しんでくださいねー! あ、使える魔法は『ファイアボール』だけです。頑張って生き延びてくださいねー。 転送開始しまーす!」


「待て! 説明! 説明しろぉぉぉ!」


俺の叫びもむなしく、足元の魔法陣が光り、俺は森の中に放り出された。


「...放り出すとか、ひどくね?」


見知らぬ森の中。俺は途方に暮れていた。 使えるのは「ファイアボール」だけ。


そして、なぜか魔力を使おうとすると、あの忌まわしいポーズをとりたくなる。


その時だ。


「きゃあっ!」


少女の悲鳴が響いた。


見ると、ひとりの少女がオークの棍棒にはじき飛ばされたところだった。


「うぅ...腕が...」


少女の腕はありえない方向に曲がっていた。間違いなく、折れている。


「ゲヒヒ...」 オークが、とどめを刺そうと俺たちの前に立ちはだかる。


「ファイアボール!」


少女を助けるために、俺はファイアボールを放った。しかし…


小さな火の玉はオークに当たると、そのまま何の反応もなく消えてしまった。


ダメージがあるようには見えなかった。あっても赤ん坊のゲンコツ程度の威力だろう。


(クソッ...俺の魔力じゃ、あんなデカブツは倒せない...!)


情けない。俺が使える魔法は「ファイアボール」ただ一つ。


「...逃げてください...私はもう...」


「馬鹿言うな!俺は諦めない...!」


俺は少女をかばうように前に立つ。


「ダメです!あなたの『ファイアボール』じゃ...!」


俺は、手のひらに赤ん坊のゲンコツほどの小さな火の玉を浮かべる。


浮かべながら、もうひとりの自分からの「声」が聞こえた。


オマエの能力は「ソレ」じゃない。


女神が言った『ルビ…マスター』という言葉、よく思い出せ!


(ルビー...ルビ...? もしかして...!)


頭の中でパッと光る電球が浮かんだ!


俺は覚悟を決めた。


(やるしかない...人前で...アレを...!)


「ああ、そうだな。『ファイアボール』じゃ、お前の怪我は治せない」


「え?」


俺は、体に刻み込まれた、あの忌まわしき「ポーズ」をとる。


「くっ...! 静まれ、俺の右腕...!」


「――見えたぞ、貴様の『終焉ルビ』が...!」


「...は?」


少女が間の抜けた声を出す。オークですら困惑している。


(恥ずかしい! だが、やるしかない!)


俺は叫んだ。


そして、彼女にファイアボールを放つ!


「――ファイアボールけがをちりょうしていたみをけしされヒール!!」


詠唱は「ファイアボール」。


だが、俺の手から放たれたのは燃え盛る炎ではなく、透き通るような優しい緑色の光だった。


光は少女の折れた腕を包み込み、ありえない速度で骨を、肉を修復していく。


「...うそ...痛くない...?」


「ゲギ!?」


目の前で回復魔法を使った俺を見て、オークが驚愕している。


「...ふっ」


俺は、まだポカンとしている彼女に振り向いた。


「これが俺の『ファイアボール』だ...(震え声)」


その後、腕が治って戦線復帰した少女...カノンの援護魔法と、俺のダメ押しのファイアボール(さっさともえつきろ)もあり、なんとか倒すことができた。俺たちはそのまま冒険者ギルドに登録した。


そして今日が、俺たちの初クエストの「ゴブリン討伐」だ。


ギルドの手配で、他のベテランパーティと同行している。


「おい! 新人! 何ボサッと突っ立ってる! 援護しろ!」


ベテラン剣士が怒鳴る。ゴブリンの群れに、ベテランパーティの前衛が崩されかけていた。


俺が「魔術師」として登録したもんだから、後衛火力を期待されている。


(クソッ...やるしかねえのか...人前で...アレを...!)


俺は覚悟を決める。


俺は、ベテラン剣士たちの目の前で、あの「ポーズ」をとる。


「くっ...! 静まれ、俺の右腕...!」


「――見えたぞ、貴様の『終焉ルビ』が...!」


シン...と、森が静まり返る。


「...おい」


ベテラン剣士が、信じられないものを見る目で俺を指差す。


「あいつ...何やってんだ...?」


(あああああ! 恥ずかしい! 全員こっち見てる!)


だが、もう後には引けない。 俺は手のひらに、いつもの小さな「ファイアボール」を浮かべる。 そして、この世界に来てからずっと願っていた、心の叫びを「ルビ」として定義する!


(頼む...! 20音ギリギリだ...通ってくれ!)


俺はキメ顔で叫んだ。


ファイアボールばくだんなみのいりょくでてきをぶっとばせ!!」


放たれたのは、いつもの小さな火の玉。


ベテラン剣士が「ふざけやがって...」と顔を歪めた、その瞬間。


火の玉はゴブリンの群れの中心に着弾し――


――ドッゴオオオオオンッ!!!


すさまじい爆音と衝撃波が森を揺らした。 土煙が晴れると、さっきまでいたゴブリンの群れは、リーダー格のホブゴブリンもろとも消し飛んでいた。


「...うそ」


「...なんだ、今の...」


「...見たか。これが俺の『ファイアボール』だ...(震え声)」


俺は、キメポーズを恥ずかしさで震えながら維持キープしていた。


だが、運悪く、生き残りがいた。 それは、ボロいローブをまとった、ひときわ小さく、だがズル賢そうな目をしたゴブリンメイジだった。


「ゲギャ!」


「まずい、カノン! 下がれ!」


ゴブリンメイジが杖を構え、高速で詠唱する。


「アキラさん! あれは『アイス・ランス』です! 氷の槍が来ます!」


カノンの悲鳴と同時に、鋭い氷の槍が俺めがけて飛んできた。


(くそっ! 回復も爆発も、当たる「前」にやられたら意味がねえ!)


俺は、もう条件反射になりつつある恥ずかしいポーズをとる。


(防御...防御だ! シンプルに...!)


「――ファイアボール(かたいかべ)!!」


俺のイメージでは、火の玉が「炎の壁」になるはずだった。 だが、火の玉は「壁」になどならず、そのまま氷の槍に当たって...霧散した。


「なっ!?」


「きゃあ!」


氷の槍は俺の肩をかすめていく。


「いっ...!」


「アキラさん!?」


「大丈夫だ...だが、クソっ...! 『壁』はダメか!」


(そうだ...! 『ファイアボール』が『壁』になるなんて、物理法則を無視しすぎてる...! 俺の「知性」じゃ、まだそんな無茶苦茶な定義ルビは通せないんだ!)


「ゲギャギャ!」


ゴブリンメイジが、俺のポーズと失敗を見て、嘲笑うかのように二発目の「アイス・ランス」の詠唱を始める。


(どうする...!? 物理法則にギリギリ反しない...『火』で『氷』を防ぐ理屈...)


(...そうだ! 『壁』にするからダメなんだ!)


俺は、再びポーズをとる。もう恥ずかしがっている暇はない。


「――ファイアボール(あつくなってとけろ)!!」


今度のルビは「ファイアボールで溶けろ」という、ギリギリ物理法則(という名のこじつけ)に基づいた「定義」だ!


放たれた火の玉は、迫りくる氷の槍に直撃する。


ジュワアアアッ! 火の玉がルビの定義通りに「氷を溶かす」ことだけを目的とした超高熱の塊となり、氷の槍を跡形もなく蒸発させた。


「...やった!」


「ゲギ!?」


ゴブリンメイジが、魔法を防がれて狼狽している。


「...お返しだ、クソゴブリン!」


俺は、三度目の(恥ずかしい)ポーズをとった。


「――ファイアボールこれでもくらってばくさんしろクソゴブリン!!」


――ドッゴオオオオオンッ!!!


森が、今日一番の大音響と共に揺れた。


土煙が晴れると、そこには小さなクレーターが残されているだけだった。 ゴブリンメイジの姿も、持っていた杖も、ボロいローブも、すべてが消し飛んでいた。


「...終わった...か」


俺は、まだ左目で右目を隠したままの、あの恥ずかしいポーズをゆっくりと解いた。


どっと疲労感が押し寄せる。魔力切れか、それとも精神的なものか


...たぶん後者だ。


「アキラさん! 大丈夫ですか!?」


「ああ...なんとかな。それより、その...ポーズのことは...」


「(コクコク)」


カノンは、何も見なかったというように、しかし必死に笑いをこらえているように見えた。


その夜。


俺はカノンと交代で見張りをしながら、浅い眠りについていた。


目を開けた時、俺は真っ白な空間に立っていた。


「やあ、アキラくん! 頑張ってるみたいだねー!」


あの女神だった。


「...お前か。あのポーズ、やっぱりどうにかならないか!」


「んー、レベルが上がっても多分ずっと必要かも? あれは『詠唱安定化の補助ルーチン』だからね」


「ふざけるな!!」


「まあまあ! それより、ジョブ名はちゃんと理解できたみたいで安心したよ」


「...ルビーマスターだろ?」


「ぶっぶー。違います」


女神は俺の目の前で、指で文字を書くフリをした。


【ルビマスター(Rubi Master)】


「...は?」


「宝石の『Ruby』じゃなくて、ふりがなの『Rubi』。君がやってる通り、『ルビを振る者』だよ。君の聞き間違い」


「...悪趣味がすぎるだろ...」


俺は額を押さえた。


「...いくつか確認したい。ルビは20音まで、で合ってるか?」


「ご名答! さらにここでヒント!」


女神は嬉しそうに指を立てる。


「その能力、ルビの音数が『20音』に近ければ近いほど、現象の『威力』や『精度』が上がるようになってるんだ」


「...なんだって?」


「君が使ったファイアボールこれでもくらってばくさんしろクソゴブリンは、まさに20音ギリギリ。だから、レベル1の君の魔力でも、あれだけの爆発が起こせたってわけ」


「...なるほど」


ゴブリンメイジを倒せたのは、あの「心の叫び」が、図らずも最大音数だったからか...。


「それから!」と女神は続ける。


「『壁』が失敗してたでしょ? あれは君の『知性』のステータスが足りないからだよ」


「知性...」


「そう。『ルビマスター』はね、『知性』が低いと、物理法則から大きく外れた『定義ルビ』をそもそも認識できないの。『火』が『壁』になるのは無茶でしょ?」


「...待てよ」


俺は、ずっと引っかかっていた疑問を口にした。


「『壁』がダメだったのは、まあいい。だが、なんでカノンのファイアボールけがをちりょうしていたみをけしされヒールは成功したんだ? あれだって物理法則ガン無視だろ!」


「あー、それね」


女神は「わかってないなー」という顔で人差し指を振った。


「ぜんぜん違うよ。君が失敗したファイアボール(かたいかべ)は、『魔力エネルギー』を『物質かたいかべ』に変えようとしたから」


「物質?」


「そう。『無からモノ』を生み出すのは、神様レベルの高等魔術。君の低い『知性』じゃ、その『こじつけ(理屈)』は到底組めないね!」


「じゃあ『治療』はなんなんだよ!」


「あれが成功したのは、『現象操作』だからだよ」


女神はドヤ顔だ。


「君は『新しい骨』を創造したわけじゃない。カノンちゃんが元々持ってる『治癒能力(細胞再生)』っていう現象プロセスを、君の魔力エネルギーを燃料にして、ありえない速度でブーストさせた(早回しした)だけなの」


「...現象の、ブースト...」


「そ! 『物質創造』に比べたら、『現象操作』なんてこじつけのハードルは低いわけ。だからレベル1の君でもギリギリ通ったの。...(ばくだん...)...(あつくなってとけろ)も、ぜんぶ『現象操作』でしょ?」


(...なるほど。「火」を「爆発」に。「火」を「高熱」に。「火」を「治癒力」に。全部エネルギーの『現象』を変えてるだけか...!)


「...じゃあ、知性が上がれば...」


「うん。いつかはファイアボール(きれいなみず)みたいな『物質創造』もできるようになるし、もっとレベルが上がれば、ファイアボール(ぜったいしぬ)みたいな概念操作も可能になるよ。ま、そういう強力すぎるルビは、使ったら丸一日使えなくなる(クールタイム)とか、ペナルティも重いけどね。 あと、知性が上がっても...」


女神はニヤリと笑った。


「ポーズは、必須だからよろしく!」


「やっぱりかよ!!」


俺が叫んだところで、意識は急速に覚醒へと引き戻されていった。


…目を覚ますと、そこはまだ夜の森だった。 カノンが焚き火の前で、静かに寝息を立てている。


「...夢、か」


俺は、まだあの恥ずかしいポーズの感覚が残っている右腕を見つめた。


「...20音ギリギリで、威力が上がる...」


「...知性を上げて、理屈こじつけをひねり出す...」


やるべきことが、少しだけ見えた気がした。 俺は、カノンが風邪をひかないよう、焚き火に薪をくべた。


もちろん、火力を調整するために、小声で、そしてこっそりとあのポーズをとりながら。


「...ファイアボールもうすこしだけあたたかくもえろ...(ボソッ)」


こうして、夜は静かに開けていく。


俺の冒険の旅はまだ始まったばかりだ。


(完)

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