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キケル

 一つだけ違うのは彼が青い光に包まれているということ。彼の周りだけは何もしなくても明るい。


「二人とも久しぶり。チルは相変わらず強がりの怖がりだな」


 キケルはそっと微笑む。二人の記憶が悟る。紛れも無い、この人は二年間姿をくらましていたキケルだ。


「どうして……何で……今までどこ行ってたの!?」


「本当にキケル……か? 嘘じゃないんだな!?」


「……とりあえず、中に入ってから説明するよ」


 キケルは右手で建物の方を指差し、左手で魔法を使って門を閉めた。


「じゃ、行こうか」


 魔力で開いたドアをくぐり三人は中に入った。中は外以上に真っ暗で、埃っぽいところが長年使われていない事を語る。


 しかし中はキケルが片付けたのか、暗い中で歩く分には不自由はなかった。


「ねぇ、ここに絶対に開かない扉があったの覚えてる?」


 廊下を進みながらキケルは問う。


「ええ、あのおっきな両開きの扉でしょ?」


「そういえばそんな物あったな。それがどうした?」


「実はね」


 キケルが立ち止まった。目の前には両開きの扉がある。


「この先には――」


 彼は魔力を使って、ゆっくりと扉を開けた。


「アンブランテの門がある」


 その部屋は三つの扉が並んでいるだけで、他には何も無いシンプルな部屋だった。


 アンブランテの門? と二人は首をかしげる。


「アンブランテっていうのは、巡回とか巡るって意味の外国語で、このアンブランテの門は遠くの世界に行くための門なんだ。これを使えば一瞬で北の氷河にも南の海の向こう側にも行ける。だけど、行き先はよっぽど魔力がある人が作らない限り決められないんだ」


「へぇ……。ならさ、なんでここには三つ扉があるの? 一つあれば十分な気がするんだけど」


「うーん……、それはまた後で説明するよ。けど、チルはいい所に気付いた。――――じゃあまずは、僕が出した手紙の話からした方がいいかな。長くなるから椅子を出そうか」


 キケルの指先から光がほとばしる。光の先に椅子が二個現れた。キケルはそれに座るよう二人に促す。


「なら始めるよ。いちいち質問に答えてたら長くなるから、少し黙って聞いてね。


 ――――僕が出したあの手紙の『彼』とは、最近君達に関わってきた人のこと。この人については後で話すから、今は我慢して僕の話を聞いて。


 で、彼が気にかけている人はもちろんチルの事。


 お兄さんにガラス玉を渡してもらうよう書いたけど、ナイルは警戒してまだ渡してないだろうね」


「……当たり」


 ナイルはポケットからガラス玉を取り出した。


「やっぱり。別に害を加えるものじゃないから渡しておいて。それはお兄さんにとって必要な物だから。――――で、さっきの『彼』。もう気付いてるかも知れないけど、『彼』とはロクサーノの事だ。さて、次はロクサーノについての説明だね。多分君達が一番興味のあることだと思う。


 彼がチルに近付いたのは、チルに魔力があるから。彼女の魔力は突然変異種で、血筋とは関係なく生まれる珍しいパターンの魔法使いだ。他にも理由があるんだけど、今はなんでチルに魔力がついたか説明するよ。


 ――実は魔力を持っているのは、チルだけじゃない。あの時の遊び仲間全員、多かれ少なかれ魔力を持っている」


 キケルは二人に質問する隙を与えずに続きを話しだした。


「そもそも、このことの全ての原因は僕にあるんだ。僕も突然変異種でね、この種は魔力を暴発させやすい。かのジルハード王国の時を止めた魔女、リーラも突然変異種だ。


 僕も例外ではなかった。僕が皆の前から姿を消した前日、僕の魔力は暴発した。


 その時、僕らは久々に秘密基地の様子を見に行こうって事になってここに来てたよね。だけどここは、ジルハードの魔術師リト・クァンがジルハードに行くまで住んでいた所で、ここには彼の魔力によって作られた物が沢山ある。だからここに漂う魔力に僕の力が過剰反応してしまって、魔力の塊がリンプンのように飛び散ってしまった……。だから僕はあの時、雨が降りそうだと言って、みんなに外に出てもらおうとした。けど、遅かったんだ。元々微量の魔力を持っていたチルは僕が暴発させてしまった魔力の影響を受けてしまって、元から持っていた魔力の数十倍の魔力を得てしまった。いつ覚醒してしまうか、いつもヒヤヒヤしてたよ」


「そんな……じゃあ、私が薬を使わなくても怪我を直せるようになったのは……」


「僕が原因だ。チルだけじゃない、他の皆も魔力を持ってしまった。ちょっと足が速くなったり握力が少し上がったりとかするくらいの微量な魔力だけど。それでも伸ばそうとすれば力は伸びるんだ。――ナイルにも、急に体力が増えたとかの経験ない?」


「俺? うん、確かに急に足が速くなったし、跳躍力も増えた。あと、しばらくしたら二階から飛び降りても問題ないくらいになった。あの時はなんでこんなに体力ついたのか不思議だったなぁ……」


「あんた二階から飛び降りるって……何やってんのよ!?」


 呆れたと言わんばかりにチルが言った。


「階段から落ちそうになった時があって、その時からバランス感覚の変化とか足が丈夫になったとかに気付いた。それからいろんな所を飛び降りて、どこまでできるか実験してみたんだけど、さすがに二階より上はやりたくないな……」


「そういう問題じゃないでしょ!?」


「まあまあ……チル、落ち着いて。それも魔力の一つだね。ナイルは体力という形で魔力が少し伸びてるようだね。だけどそれくらいなら暴発どころか魔法を扱う事もできないから気にする事はない。……じゃあ、魔力について話したから次はロクサーノについての話に戻ろう。


 ロクサーノがチルに関わってくるのは魔力のせいだと言ったね。チルの首に下がっているのはロクサーノが作った制御装置だ。で、彼が関わってくるもう一つの理由……それはね、この門と関係してくる。


 さっきチルがなぜ三つもあるのかって聞いたね。真ん中の扉が一般的なアンブランテの門。ここは誰もが共有できる『道』につながっている。行き先はランダムだけど、同じ門を使えばちゃんと帰って来れるから心配はない。


 左がリト・クァンの自宅につながる門。ここがリトの家だから、つながっていてもおかしくはない。……問題は右の門だ。驚くかもしれないけど、ここは封印されたジルハード城の姫が封印されている部屋につながっている」


「ジルハード……? 嘘だろ!?」


「嘘でしょ!? なんで……」


「嘘じゃない。理由は定かではないけど、多分これはリトが仕えていた王女様を助けるために作ったんじゃないかな。何度も作戦を考えては失敗しての繰り返しで、ついに門を繋げたんだと思う」


「だけどなんで、そこにロクサーノが関わってくるの?」


「リトとロクサーノ、二人の姓は同じ『クァン』だ。容姿も伝えられているものと似てる」


「つまり、二人は兄弟か親子かってこと? 魔族は長命っていうから、遠い子孫よりもそっちの可能性の方がありそうだし、理由もそっちのがそれっぽい」


「うん、そうだと僕も思う。とにかく、リトとロクサーノの間には何かしらの結び付きがある事を覚えておいて。それとロクサーノは何かをたくらんでいるけど、チルの助けにもなるからあまり邪険にはしないで。


 あと、この扉の向こうには絶対に勝手に行っちゃ駄目。門が見つからなくて帰って来られなくなるかも知れないし、門の向こうは危険な世界かもしれないから。


 ……僕からは一通り話した。あと、君達から聞きたい事、なんかある?」


「じゃあ、聞いていい?」


「何? ナイル」


「お前はこの二年間、どこに行ってたんだ?」


 それまで穏やかだったキケルの表情が強張った。

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