ジルハード
ジルハードはそれほど大きな国ではなかった。現在は併合し、ポルフェインとなったこの国は、元々は西のレルール、東のマールの二国にわかれていた。そのうちの元マール領にあるのが、ジルハード王国王城である。
大きな国ではないが、この国は偉大な人物を沢山、後世に残した。そして、人類の悲劇も同時に残してしまったのであった……。
当時の王の名はアルマス・ジルハード。第二十三代目の国王にして、ジルハード最後の王だ。
彼は護衛のために、城に魔法使いを雇っていた。今では消息不明となった、天才といわれるリト・クァンという魔族出身の魔術師が、第一王女に使えていたことでも有名だ。魔族は長命な生き物のため、国無き今も彼はまだどこかで生きているかもしれないと噂される。
そのリトに匹敵する魔力をもつ魔女がいた。それが、ジルハードに悲劇をもたらしたリーラという魔女である。
彼女はある日突然、狂ったように魔力を暴発させた。それはとても強くリトでさえ敵わない程といわれる。
暴発したリーラの魔力は城を包み、光の爆発を起こした。その結果、魔力に押し潰され死んでしまった者、命は取り留めているが石のように固まってしまった者と、城の時間が止まってしまったようにだれも動かなくなった。
その後リーラはリトにより取り押さえられ、無残にも殺されたといわれる。
石のように固まった者は皆、体に封印の印がついていた。封印を解けば彼らはまた動き出すことができるのだが、今までだれ一人封印を解く事はできなかった。さらに、城の王族の暮らす空間には第一王女が封印されているが、彼女を安全な場で保護しようとしても、強力な結界がまとわり付いて誰も触れる事ができなかった。
現在、ジルハード王国王城は救出できない王女が一人取り残された状態で、ポルフェイン王国が管理している。管理といっても盗賊対策くらいで、時が経ち補修のされない城は幽霊城のようだ。
「でも待って」
チルがあることに気付いた。
「ジルハードのようにしたくないって事は……リーラも突然変異の魔力を持っていたって言うの!?」
ロクサーノは一つ頷いた。
つまり、ロクサーノはこの村もリーラのように、制御されない魔力によって滅ぼされることを避けるためにチルに関与してくる、ということだ。
「じゃあ、『目的』ってそういうこと!?」
ロクサーノの眉がぴくりと動いた。
「何の事だ」
「あなた、目的を果たしたからデイ・ルイズを抜けるんでしょ!?」
「……確かにデイ・ルイズは抜けるが、目的は果たしていない」
「なら、目的って……」
「お前は知らなくていい。――――すまんが、そろそろ戻らなければならない」
そう言いながら彼はすでに、空高く飛んでいた。
「ちょ、ちょっと!? 逃げるつもり!? 待ちなさいよ!!」
チルの叫びは空しく響くだけだった。ロクサーノはもう、見えない所まで飛んで行ってしまった。
「もうっ!! なんなのよ!!」
「逃げよったな……」
「はぁ……、なんか疲れた」
「俺も。もう解散するか?」
「……そうね。また会えるといいね、カロン」
手を降りながらふらふらと彼女は歩いて行った。
「おーう……。気ぃつけーや!!」
彼女の姿が見えなくなると、カロンはまたベンチに座り、空を眺めた。