銀色の運命-1
私には巫女と呼ばれる能力を持っとった。神の言葉を聞き、神の力を使う――。霊の言葉も聞けるから、巫女兼霊能者とも言うべきか。とにかく、私はその力を、村のために使っとった。異端扱いされてしまっとるカロンを、異端と呼ばせないくらいの力を付けると決めとった。
しかし、私達兄妹は異端として処刑されることになってしまった――――。
ここから先は、私とカロンの最後の話や。
「メケシェトや! メケシェトに行けば、後は川を下って海に出て……向かいの大陸に出ればええ。そこなら、俺達の素性を知っとるもんはおらんやろ……」
牢から私を連れ出したカロンは、村から外れた道を駆けながら言った。
メケシェトは大都会。なんでも揃っとる街や。この国で一番大きな川も通っとる。そこで船を借りて国を抜ければ……カロンの言う通り、私達の素性を知る者は誰もおらんはずや。
「せやな……。けど、ここは砂漠に敷かれた細い道や。早よ近くの町でも村でも辿り着かんな、国を出る前に野垂れ死んでしまう」
「そうや。それに、追っ手が来る可能性もある。そのためにも早よう身を隠せる所に……」
その時やった。どこかから声……いや、罵声が聞こえた。何かを叫んどるようやった。
「追っ手が来た……!? ――――アンジェティ、風で穴を掘れ!!」
カロンは私の手を離した。風で穴を掘る――その意味はすぐにわかった。私は言われたとおり、穴を掘る。砂が舞う。薄目を開け、私は二人が隠れられるだけの穴を開けた。
……けど、カロンは穴に私を押し込み、急いで砂をかけ始めた。
「な、何しとん!?」
私は慌てて這い出たが、カロンは私を突き飛ばす。
「三日後! メケシェトの港で待っとれ! それで俺が来んかったら、一刻も早く船に乗って向かいの大陸に逃げろ!!」
それがカロンの最後の言葉やった。私は砂に埋もれた。
――――大丈夫、カロンなら、すぐに逃げれる……。そう信じて、追っ手と抵抗するカロンの声が聞こえなくなるまで、じっと耐えた。
もう何も聞こえないことを確認すると、私は砂の中から這い出た。この時、カロンが追っ手を倒しているのを期待しなかったと言うと嘘になる。けど、砂漠に囲まれた細い道の先には誰もおらんかった。
カロンに言われた通りに、私はメケシェトの港を目指すことにした。ネイ村からメケシェトは歩けば一日で着く。けど、それは準備を万全に整えればの話や。牢から逃げ出したばかりの私には水が無い。まずは一番近い村か町を探して、そこで準備を整えるのが得策やろう。
幸い、お金はポケットにねじこんどったからメケシェトまでの食費くらいは何とかなるやろう。流石に宿泊費までは持ち合わせとらんから、どこか安全な所を探して野宿した。砂漠の夜は寒くて辛かったけど、カロンとの約束のためなら耐えられた。
今でも謎なんやけど、どうしてカロンは船に乗るなんて言い出したんやろうか。捕まった私達の所持金なんかたかが知れてる。無銭乗船でもするつもりやったんやろうか? その辺はようわからん。カロンは強いから、街で賞金首を倒すつもりでおったんかもしれん。
そして約束の日。私は港のベンチに座り、朝からずっと、カロンを待ち続けた。あいつは絶対来る。そう信じて、待ち続けた。
待っている間、何人もの人に声をかけられた。不審に思われても仕方ない。私は適当に、待ち合わせをしとるが連れが来んとかなんとか言っといた。
昼過ぎ、また声をかけられた。今度は外国人の男や。どこかの民族衣装を複数組み合せて着ていてとても目立っとった。彼は名を、シルラと名乗った。