銀色の娘達-2
「そう……私は巫女じゃ……巫女じゃ……」
女は頭を抱えた。足はガクガクと震えている。
「おい!?」
倒れかけた女を男は抱き留める。
「お、おい! 誰か店の奴はいないのか!?」
震える声で連れの男が叫んだ。
すぐさま、この酒場の看板娘が現れた。
「ガムニさん? どうかされ……――――アンジェティ!?」
「サーニャちゃん、この姉ちゃんが……」
連れの男――ガムニは動揺しすぎて言葉が出ないようだ。
看板娘――サーニャは男に抱えられた女――アンジェティを男から渡され抱えこんだ。
「私は……私は……」
アンジェティはうわごとのようにこの言葉を繰り返す。体は震え、目は固く閉じている。
「レオンさん、この子、どうしたんですか!?」
サーニャはアンジェティをぎゅっと抱きしめ、男――レオンに問う。
「いや……巫女という言葉を聞いた瞬間、急に……」
「巫女……? と、とにかくこの子は裏に連れていきます……。アンジェティ、立てる?」
サーニャはアンジェティを抱え、レオン達の前から去っていった。
二人が去った後、男達はその場で呆然としている。しばらくして、レオンが静かな声で言った。
「シリカ国……確か、五年前にネイ村で巫女と呼ばれた少女が処刑させられそうになって、逃げ出したという話を聞いた事がある」
「そういやあったな、そんな話。その後村は酷い有様になっちまったしなぁ……。てかよ、あのアンジェティって娘は巫女だったのか?」
すっかり酔いが覚めた様子のガムニが言う。
「さあ……。神の声を聞くことができるのなら、間違いなく巫女だろうが……予言は占い師でもできる」
「あくまであの娘は自分を予言者と言ってたしな……」
「そういう事だ。彼女がそう言うのなら、信じるしかない。これ以上の詮索はよくないだろう」
「……そうだな。お前が言うんなら、これ以上の詮索はしない方が得策だよな。……で、話変わるけどよ」
レオンは首をかしげた。
「……なんだ?」
「お前の息子達、薬屋の嬢ちゃんと旅に出たって言ったよな? で、仲間に魔法使いがいるらしいとか言ってなかったか? ……どういうことだ?」
「どういうことって?」
「だからよぉ、俺が言いたいのは、なんでその魔法使いの姿を見たことがないんだ、って話。お前の家は無理でも、ミフェン堂は部屋に空きがあるはずだ」
「言われてみれば、そうだな……。息子達は仲間についてはあまり話をしてくれないし……ミフェン堂に泊まり込んでいるのは、遠目からだと男女の区別がつかない剣士。と、女の子とメイドが出入りしてる」
「なんだそりゃ」
ガムニは眉根を寄せた。
「前々から感じてたんだけどさ」
レオンはため息をついた。
「どうした?」
「俺の子供達は、俺からどんどん離れていくなぁ……ってさ」
「お前もあのくらいの歳の時に同じ事してたろ!」
ガムニはレオンの背中を叩く。
「子供なんてのはな、いつかは親から離れていくもんだ」
「わかっちゃいるんだけどね……やっぱり、寂しいというか……」
レオンは酒を煽った。
酒場にあの二人の娘が戻ってくる気配はない。