銀色の娘達-1
トラキノス国ヨーデン。この村のとある酒場にて。
「お姉さん、新人かい?」
声をかけたのは、この国の人が持つ金色の目を持った男。話しかけられたのは、銀髪に黒い目の女。
「はい。一週間ほど前に入ったばかりです」
どこか訛った喋り方をした女はにこりと笑う。
「異国からやってきたのかな?」
この女に興味を持ったのか、男は連れを差し置いて女に話しかける。
「はい。シリカ国からここまで、移住の為に旅をしてきまして」
「ほう……シリカ国か。そういえば、うちの息子もシリカに行った事があると聞いたな」
「息子さん、旅人なんですか?」
「ああ。男が二人な。最初は一人が旅に出て行ったんだけど、今は二人共、将来有望な薬屋の娘さんと一緒に旅に出て行ったよ」
「薬屋……?」
女は首をかしげる。
「ああ。この村にミフェン堂って薬屋があるのは知ってるかい?」
「ああ、名前だけなら……。あそこはいい薬を売る店だけど、今は休業していると聞きましたが」
「たまにね、帰って来るんだよ。異国の珍しい薬草を持って帰ってきて、それで薬を作って一時的に営業してるんだ」
「だけどよぉ、おかしくないか?」
連れの男が口をはさむ。
「すっげぇ遠い国にしかない薬草をたった数ヶ月で持って来るなんてよぉ」
酔った口調で彼は言う。
「魔法使いも仲間なんだそうだよ。魔法使いがいれば世界を数ヶ月で廻ることなんか容易なんじゃないか? 俺は魔法の知識はないから、根拠はないけど」
男は言う。
「ま、どんな旅をしているかはよくわからんが、とにかくミフェン堂の薬は星五つ物だ。営業の報せを耳にしたらすぐにでも駆け付けるといいよ、お姉さん」
男は『ニカリ』と笑った。
「そうそう、お姉さん、移住してきたって言ってたよな? どうしてこんな小さな村に?」
男は問う。すると、女は黙り込んでしまった。
「……聞いちゃ、悪かったか?」
悪い事をしたかもしれない、と男の顔も言っている。
「いえ、ちょっと、昔の事を思い出してしまって」
女は抑揚のない声で言う。
「私……離ればなれになってしまった兄弟を捜しているんです」
「けど、移住ってことは、この村にお姉さんの兄弟がいることは間違いないんだろう?」
「……わかりません」
女は困ったように笑った。男は驚愕する。
「わからない!? なら、なんで……」
「私、昔は予言を受ける力があって……最後に聞いた予言が、『兄弟に会いたければヨーデンへ行け』というもので……」
「予言? ……じゃあ、今は予言の力はないのかい?」
「はい……」
「ははっ、処女でも失ったか?」
連れの男は酔っ払った勢いで笑う。
「そんなことを言うもんじゃない」
男は連れの頭を叩いた。
「気にしないでくれ。こいつ、口は悪いが根はいいヤツだから」
「まあ……私の予言の力はたった少し触れただけの接吻で失われてしまったので……貞操を失った、という意味では間違っていないのかもしれませんね……」
「いや、だからこいつの言うことは……」
「ほーう、まるで巫女だな」
瞬間、連れの男の一言で女は目を丸くした。
「巫女……いえ、私は、巫女じゃ……!」
女は明らかに動揺している。
「ど、どうした!? 何か悪いこと言ったか……!?」
連れの男は責任を感じ、動揺する。
「お姉さん……!? 何言ってんだ、君は巫女じゃなくて予言者だろう!?」
男は今にも壊れそうな女に言う。