銀色の砂漠の物語-3
少年は黙って頷く。
「そんな……! ひどい有様だ……」
やっぱり、戦争なのか……?
「ねぇ、ここ、戦争で…………って、え!?」
気がつけば少年は村に背を向け駆け出していた。
仕方がないから、村の中に入って事情を聞こう。――そう思った矢先、アンジェティより少し年上であろう少女に通せん坊をされてしまった。彼女は両腕を目一杯開いて、村に入るなと叫んだ。
「こんな村襲ったって、何もあらへん!!」
「いや、別に襲うつもりは……」
「じゃあ、何しにきよった?」
少女は俺を睨む。
「あのさ……アンジェティがなんで異端なのかを聞きたくて……」
すると少女は血相を変えた。
「そんな事! 旅人のあんたに関係ないやろ! 出てってくれ!!」
少女は俺の背中を押して、最終的には突き飛ばした。
「もう二度と来るんやないぞ!!」
俺は慌ててその場を立ち去った。俺を睨む彼女の目は、黒色だった。
――――その夜、仕方がないから近くの村で宿をとった。近くと言っても、着いたのは宿泊受け付け終了間近。時計は十時を指していた。
宿の従業員に、ネイ村について聞いてみた。しかし、彼は首を振る。
「あの村はもう終わりや。関わらんほうがええ」
「どういう事です?」
「……お客さん、これ以上、ネイ村のことに首を突っ込むのはやめろや。今回の惨事にはヤクザが絡んどる。命が惜しかったら、関わらんことやな」
従業員はきつい口調で言う。本当に危ないのだろう。
「……そう……ですか。わかりました、あの村にはもう関わりません」
そう言っておいて、俺は部屋へと歩き出す。
部屋に入り、俺はベッドに寝転がった。
あの従業員の言うとおり、これ以上ネイ村には関わらないほうがいい。今までの経験から考えても、アンジェティやネイ村に関わるのは危険だとわかる。ほっとけないのも事実だけど、俺は弱いから、これ以上関わることはできない。
「せめて……アンジェティが無事でいてくれれば……」
彼女は同行は不要だと言った。だけど、ネイ村襲撃に『異端』が絡んでいるとすれば、アンジェティの命が危ない。けど、俺には、彼女の無事を祈る事しかできない。
「はは……もどかしいな……」
強くなりたい――――あんな方法でしか彼女を守れなかった。いや、守れてはいない。彼女は今、危険な状態にある。
その時、ドアをノックする音がした。ドアを開けると、さっきの従業員が立っていた。
「あんた、どこの国のもんや?」
いきなりだった。そんなこと聞いてどうするんだ?
「え、トラキノスですけど……」
「そうか……。悪い事は言わん。この国に留まるのはやめて国に帰れや。メケシェトに行けば船がある。それに乗って、帰れ」
「それを言いにわざわざ……?」
「そうや。お客さん、どうも心配なんや。関わらんとは言うたが、やっぱ不安でな」
「心配いりませんよ」
とりあえず、俺は笑っておいた。
「俺は弱い人間です。だから、関わったら死ぬことくらいわかります」
「そうか……なら、ええんやが……」
「明日、メケシェトに向かいます。朝一に出れば最終便には間に合いますよね」
「そこまではわからん。せやけど、長くこの国に留まることは勧めん」
「わかりました。ご忠告どうも」
「わかってくれたか……。じゃあ、今日はゆっくり休めや」
そう言ってその従業員はドアを閉めた。俺はドアの前でしばらく立ち尽くす。
「元々この国を最後に帰るつもりだったんだ。もう、帰ろう……」
――――翌日、俺はメケシェトに向けて歩き出した。
結局乗れた船は、夜の最終便だった。朝方にはトラキノスへ着くらしい。列車を使えば、明日の夜までにはヨーデンに帰れる……。そんな計画を立てながら、俺は客室へと向かった。
そして、客室へ入ろうとした時。隣の部屋の客が出てきた。何となく目が合う。そして、俺達は一瞬、その場に固まった。
一見金髪だが、銀色が混ざった髪の少女。目は黒。そしてなにより、その顔に見覚えがあった。相手も俺の顔を覚えているようで、目を丸くしてこっちを見ていた。
その少女は、紛れも無い、俺を村から追い出そうとした少女。なぜ髪を染めたのかはわからない。けど、昨日の宿での話を聞いた限りでは、彼女は国から逃げようとしているのでは……。と、これは俺の勝手な推測だけど。
少女は慌てて部屋にこもった。鍵を閉める音がした。多分、話しかけても無視されるだろう。
――――トラキノスに着いた後、俺は列車に乗るため駅に向かった。少女も列車に乗るのか、同じ方向に進む。そして駅に着き、彼女の姿は見えなくなった。
俺は列車に乗り、トラキノスを目指した。後は家に向かうだけ。俺の第一回目の旅は、終わりを迎えた。