銀色の砂漠の物語-2
「私には巫女の力があるんや。神や霊と会話したり、神の力で風をおこしたり。それを、異端と言われて……」
これ以上、彼女が言葉を発することはなかった。俺は彼女の頭を撫でる。彼女が泣いていたから……。
「そっか。……アンジェティ、君は異端じゃないよ。全然、何もおかしくない」
これは俺なりの励まし。現実問題、アンジェティはもうこの国にはいられない。この国にいる限り、異端者というレッテルは剥がせないだろう。
「アンジェティ……これから、どうするんだ?」
彼女は一呼吸おいて答えた。
「私……旅に出る。港に戻るのは危ない。せやから、行かなきゃいけない所へ行く。大切な人と、いつかまた巡り会うために……」
「そっか……。事情はよくわからないけど、そこで大切な人と会えるのなら、行くべきだよ。……よかったら、同行しようか? 女の子一人じゃ危ないし……」
けど、アンジェティは首を振った。
「いえ、いいんです。これは私の問題だから……」
「そっか。なら、せめて君の今後の旅の成功をお祈りして」
俺はかばんから銀の塊をいくつか取り出した。それをアンジェティの手に押し付ける。
「これを売れば、しばらくの生活の足しになるだろう」
「え……!? で、でも……」
「それはカルタという国の銀山で手に入れたんだ。まだ沢山あるから、気にしなくていいよ」
「そ、そういう問題やない!!」
アンジェティは俺に銀を返そうとした。けど、俺は受け取る気なんかない。
「君が会いたい人に会えるよう、祈ってるよ」
俺は立ち上がった。
「君が同行を望まないのなら、俺は早急に立ち去るよ。じゃあ、元気で」
アンジェティに背を向けて、俺は川の流れに逆らった方向に歩き出す。――――帰る前に、目指す場所ができた。
――――とりあえずその日は、進める所まで進み、日が暮れた頃に宿をとった。ここからは砂漠の旅。道中、水と食料、そしてこの国の民族衣装を買い込んできた。民族衣装は暑い砂漠に適した綿のワンピースのようなもので、実際、今まで有り合わせでの服でこの国を歩き回っていたのが勿体ないくらいの涼しさを感じられる。
「さて、明日はネイ村だ……。巫女の力が異端なんておかしすぎる……」
俺は消灯し、ベッドに潜り込む。寝る前に考え事をすると眠れなくなるのはわかっているけど、考えずにはいられない。
「アンジェティ、無事に会えるといいな……大切な人と」
案の定、眠れなくなり、俺は寝返りをうつ。
「あー……でも、なんであんな事したんだろう俺……」
港で逃げ出す前にした行動がよみがえって、俺は布団を被った。
「もっと他に方法はあったはずだ……。俺の馬鹿野郎……」
こうして、夜は更けていった。
――――翌日、俺は民族衣装のガラベーヤを着てネイ村を目指した。宿の女将さんに聞くと、ここからなら半日あればネイ村に着くという。俺は早速出発した。
途中、何度も休憩をはさみながら村へと進んで行く。何もない砂漠だけの道のりはけわしかった。それでもなんとか、夕方にはネイ村にたどり着いた。
けど、そこには信じられない光景が広がっていた。
――――村が、全焼している……?
「戦争でも起きたのか……?」
村の前に銀髪の少年が立っていた。この村の住人だろう。事情を聞こうと声をかける。
「ねぇ、君……」
少年が振り返った。その目は、赤かった。まさか……目の色の違いが……?
少年は俺をじっと見る。とりあえず、真っ先に気になったことを聞いてみた。
「これ、村が全部燃えちゃったの?」