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繋がる過去と未来-3

 ミゼルは微笑みを浮かべながら言う。それが逆に恐怖感を生み出していることを本人はわかっているのだろうか。


「えっと……じゃあ、いただきます」


 次に料理に手をつけたのはキャロルだ。それに続くように他の者も次々に料理に手をつけはじめる。


「ん、やっぱりカルタの食事は美味しいね」


 シルラが言う。その顔から恐怖感は感じられない。いつの間にか、さっさと料理に手をつけていたロクサーノとメイスン以外の全員から料理に対する恐怖感は消えていた。


「でしょう? ところでシルラさん、貴方、一度この国に来たことがあるのかしら?」


「あ、はい。この国に来た時は大変でしたね。まず、周りから「外人さんだ」とかなんだのあっちこちから言われて……」


 そしていつの間にか、シルラとミゼルの間で話が盛り上がり始めていた。どうやらミゼルもカルタに来た当初は文化の違いのせいでいろいろと苦労したようだ。


 食事が終わっても二人は話をやめない。それに痺れを切らしたロクサーノが大きく咳ばらいをした。


「お前達。話はそれくらいにしろ。それより、もっと重要なことがあるんじゃないか?」


 そしてロクサーノはチルに目を向ける。ミゼルは「ああ」と声をあげて、思い出したようにこう言った。


「そうね。チルさんの前世を占わなくては。では皆さん、占いの間に参りましょう」


 ミゼルは立ち上がり、先に占いの間と呼ばれる場所へ行ってしまった。一同は後を追う。


 ――占いの間は、わずかなろうそくの光しか光源がなく、あまり明るくない。棚に本や何に使うのかわからない道具、怪しい臭いのする液体などが置かれていた。ミゼルは棚から水晶玉を取り、黒い布がかけられた丸テーブルの上に置いた。


 ミゼルは椅子に座ると、チルを呼び寄せた。


「さぁ、チルさん、こちらへ」


 チルは言われた通り前へ出た。


「では、始めるわ」


 ミゼルは水晶玉に手をかざす。そして、ぼそぼそと呪文を唱え始めた。


「……やっぱり……二百年前に貴女の姿が」


 ミゼルは水晶玉をじっと見つめながら言う。


「え!? どういう事!?」


 チルは身を乗り出した。


「ちょっと待ちなさいな。もう少しで全てが見えるわ」


 ミゼルは水晶玉から目を離さない。やがて水晶玉が光るのをやめると、ようやく彼女は顔を上げた。


「チルさん……そしてキャロルさん、それとロクサーノにメイスン……あなたたちは二百年前に会っているわ」


 ふふ、とミゼルは笑う。


「チルさんの前世は、ルヴァニールの王子様。キャロルさんも知っているはずよ」


「えっ!? 私が……王子?」


「私も知っている……? まさか……」


 チルもキャロルも、驚愕した表情を見せている。


「もしかして……チルは…………ルヴァニールの、ルミナス王子!?」


 キャロルは両手を口に当てた。彼女は信じられないと言いたげな目をして、チルを見る。それはロクサーノとメイスンも同じだ。


「チルがルミナス王子だと……?」


「そんなまさか……!」


「本当よ。アタシが二百年前に生まれていたらなんとしてもお近づきになろうとしたわね。うん、アタシ好みの美少年」


 相変わらずミゼルは不気味に微笑んでいる。


 後ろで聞いているだけのナイル、カロン、シルラも驚いているようで、こちらはこちらでチルの前世について盛り上がっている。


「ルミナス王子って……あの、小国だったルヴァニールを大国に成長させたルミナス王のことか!?」


 ナイルが問う。


「恐らく。年代を考えると、そういうことだろうな」


 問いにはシルラが答えた。


「ほーう。しっかり者を通り越したあの口煩さは前世に関係あったんかい」


 カロンは呑気に冗談を口にしている。


「それはお前がいつも酒を飲み過ぎるからだろ? だけど、確かに口煩さは否めないかもな……」


 驚いていたナイルも、いつの間にかカロンの冗談に乗っかっていた。


「口煩くて悪かったわね」


 彼らの会話を聞いていたチルが、三人の輪の中に入ってきた。


「おい、それよりさ……チルの前世が王子だって話、詳しく聞こうぜ」


 ナイルは慌てて話をそらす。チルは二人を睨んでいたが、真相を詳しく知りたいと思い、彼らの事は諦めたようだ。


「そうね……。ミゼルさん、詳しく話してもらえますか?」


「詳しくって言われてもねぇ……。アタシはただ、お嬢さんの前世を見ただけだもの。ルミナス王子については、そこの三人――――特にキャロルさんがよく知ってるんでなくて?」


 ミゼルはキャロル達に視線を移す。そして、チルに視線を戻して話を続けた。


「詳しくはそこの三人か、歴史に聞くべきね」


「――チル! ちょっと来て!」


 突然、キャロルは叫んだ。そしてチルの手首を掴んで部屋を飛び出して行った。


「キャロル!?」


 彼女達の後をロクサーノは追った。ミゼル以外、何事かと後に続いた。


「あら、どうしたのかしら?」


 一人部屋に残ったミゼルは、相変わらず不気味に微笑んでいる。


 一方、チルを連れて走り出したキャロルは与えられた客室にチルを連れ込み、鍵をかけて閉じこもってしまった。


「おい! キャロル!?」


 ロクサーノが外からドアを叩くが、キャロルはそれを無視する。


 部屋の中で、キャロルはチルと対になって、両手を握った。


「キャロル……?」


 キャロルはうつむいている。


「チル、ミゼルさんの言いたいことがわかったわ」

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