繋がる過去と未来-2
「そう。まあ……その話は後ほど聞かせてもらいましょう。それより、私の別邸に案内するわ。どうせ宿をとるためのお金なんて持ってないだろうし」
ミゼルはすべてを見透かしていた。ロクサーノが少し不機嫌な表情を見せる。
「図星ね。ま、しょうがないわ。この国は他とは違うものねぇ」
言いながらミゼルは足元の荷物を担いだ。
「さ、行きましょう。侍女に晩餐の準備をさせてるの」
ミゼルに導かれるまま、一同は動き出した。
道中、キャロルはロクサーノに問う。
「ねぇ、この人とどういう関係なの?」
「知り合いの占い師だ。一時期デイ・ルイズに参加していてそこで知り合った」
「ふぅん……」
「どうしたの? 私とロクサーノがどういう関係だったのか、気になった?」
わざとらしく笑みを浮かべながらミゼルは言う。
「別に、気になってません!」
キャロルは声を張って言った。しかし、目はミゼルを見ていない。
「ふふ、可愛い子ねぇ」
「ミゼル、いい加減にしろ」
ロクサーノは再びミゼルに手の平を向けた。
「あら、恐いこと」
そう言いつつもミゼルの顔は笑っている。
「キャロル様、気にしなくて大丈夫でございますよ。ミゼルさんは悪い方ではありませんから」
今の状況をわかっているのかいないのか、メイスンがキャロルに並んで言って聞かせる。
「そうだわ」
突如ミゼルが声をあげた。
「もしかしたら面白いものが見れるかもしれないわ。後でそこのお嬢さんの前世占いをやりましょう」
ミゼルの目線の先にはチルがいる。
「え、私?」
「そう。貴女。感じるの。貴女から二百年前のにおいを」
「二百年前……?」
チルは眉根を寄せた。
「貴女とキャロルさんを見てるとね、何かを感じるのよ。占い師の勘かしら」
ミゼルは静かに、少し不気味に笑った。
「なんや気味悪いな……」
一番後ろを歩くカロンは、ミゼルに聞こえないよう小声でナイルに言った。
「まあそうだけど……メイスンの言う通り悪い人ではなさそうだ」
ナイルも小声で返す。
「どうしてそう思うん?」
「うーん…………勘、かな」
「なんやねん、それ」
カロンはナイルを小突いた。
「いてっ……何するんだよ……」
「あら、どうかした?」
静かにしていたつもりが騒がしくなった二人に気付き、ミゼルが振り返って声をかけた。
「いや、こっちの話です」
ナイルは腕をさすりながら言った。
「そう」
特に気にした様子もなく、ミゼルは前を向いた。その瞬間、ナイルは再び小声で話す。
「にしても……チルの前世占いって……どういうことだ? 聞いた感じだとキャロルと関係ありそうだけど……」
「さあな。俺に聞かれてもわからん」
カロンはお手上げ、といった感じに両手をひらひらと動かした。
「もうすぐよ」
その時、ミゼルは森の前にそびえ立つ、この国には似合わない様式の建物を指差した。カルタ国の人々はこのような建物を『洋館』と呼んでいるそうだ。
「うっわ! 立派な建物!」
チルが声をあげた。
「ありがとう。けど、ここは元々はアタシの持ち物じゃないのよ。知り合いに譲ってもらったの」
ミゼルは鉄の門を開けた。
「さ、お入りなさいな」
言われるがままに一同は屋敷の門をくぐった。門をくぐると、そこには花で埋め尽くされた庭が広がっていた。庭はほのかに光る外灯の光で照らされている。
「綺麗……」
チルがつぶやく。
一同が庭に見とれている間、ミゼルはさっさと玄関のドアを開けた。
「さあ、いらっしゃい。ここから先は召使たちに案内させるわ」
ミゼルは大きな声で召使を呼び付けた。
「今帰ったわ! 誰か、アタシの大切な客人を客室に案内しておくれ!」
すると一人のメイドが現れ、ロクサーノを筆頭に彼らを客室に案内した。
割り当てられた客室は一人一部屋。しかも、屋敷にある客室がぴったりと埋まった。
メイドは用意ができたら一階の大広間まで来るようにと伝え、その場を後にした。
「にしても……あいつにこんな大豪邸を譲った奴って一体……」
客室に入り、荷物をベッドに置いてロクサーノは呟いた。
「確かにあいつの占いはよく当たる。だが、こんな豪邸をくれてやる程にあいつを気に入った奴がいるのか? ましてや、この屋敷の様式はカルタでは最近入ってきた文化……。誰もが喉から手が出るほどに欲しがりそうなものを何故……」
部屋をうろうろしながらロクサーノは独り言を呟き続ける。その時、部屋のドアをノックする音がした。
「ちょっと、早くしないと置いてくわよ」
声の主はチルだ。ロクサーノが外に出ると、廊下に全員が集まっていた。
「ああ、悪い。……行こうか」
一同はメイドに言われた大広間へ向かった。途中、すれ違った召使に詳しい案内を任せ、彼らは大広間の料理が並ぶ大きなテーブルを前に座るミゼルと対面した。
「今日はカルタの伝統的な食事をおもてなしするわ。みなさん、どうぞ座って」
黒いドレスを身にまとったミゼルは不気味に微笑む。
一同が席に着くと、ミゼルは言う。
「さぁ、いただきましょうか」
その一言に全員背筋を凍らせている中、ロクサーノとメイスンだけは平然と食べ始めていた。
「薄味でうまいな。この国の食事は」
「カルタの食事は体にいいのよ。みなさん、お食べなさいな」